第19話 見られる側
その日も、収容所に見慣れない顔ぶれが現れた。
色とりどりの服を着た異国民たちが、係員に案内されながら檻の前を歩いていく。
手にはタブレットや書類。視線は動物園の見学者のように冷ややかで、品定めをする目つきだった。
翔は、檻の鉄格子越しにその視線を浴びながら、心の奥がざわめくのを止められなかった。
――これで誰かが呼ばれれば、二度と戻っては来ない。
だが、残された者にとっては、それは“出口”を意味することでもあった。
隣の男が吐き捨てるように呟いた。
「ペットだぞ……犬や猫と同じだ」
翔は無言で聞き流す。
だが胸の奥では、別の声が囁いていた。
(それでも……ここにいるよりは)
そのとき、一人の異国民の視線が自分の前で止まった。
若い女だった。
金髪をまとめ、腕に抱いた資料をめくりながら、じっと翔を見つめていた。
翔は思わず背筋を伸ばし、顔を正面に向けた。
自分でも気づかないうちに、少しでも“良い印象”を与えようと仕草を整えていたのだ。
(何をやってるんだ、俺は……)
心の中で自嘲する。
だが、その一方で、背中に汗がにじむほどの緊張感と期待が混ざり合っていた。
女は数秒見てから、ふっと視線を逸らし、別の檻へと移動していった。
途端に翔の胸に、落胆と安堵が同時に押し寄せる。
選ばれなかった悔しさ。
そして、まだここに“留まれた”という奇妙な安心。
(俺は……外に出たいのか? それとも、まだ人間としての最後の誇りを守りたいのか……)
自分でも答えは出なかった。
ただ一つ確かなのは――
“外”に戻れる可能性があると知ってしまった今、翔の心は、確実に揺らぎ始めていた。




