第18話 いなくなった者達の行方…。
檻の隅で膝を抱えていると、不意に声をかけられた。
顔を上げると、入所したばかりの頃に最初に話しかけてきた、あの40代の男がそこにいた。
無精ひげにやつれた顔、それでもどこか人懐っこさの残る元工場勤務の男だ。
「……矢島くん、聞いたか?」
囁くような声だった。周囲に係員がいないのを確かめてから、男は続けた。
「最近連れ出された連中……戻ってこないだろ」
翔は小さく頷いた。
その目には、言葉にならない不安が宿っていた。
男はさらに身を寄せ、低い声で言った。
「……日本に住み始めた異国民のペットとして、今買われてるらしい」
その言葉に、翔の心臓が一瞬止まった気がした。
「ペット……?」
「そうだ。犬や猫みたいに、家で飼うんだと。首輪つけられて、芸でも仕込まれるんじゃないか」
男の目は笑っていなかった。
冗談ではないと、その沈んだ声音が告げていた。
翔は喉が渇き、唾を飲み込もうとしたが、うまくいかなかった。
昨日まで同じ檻にいた人間たちが――今ごろ、リビングの床に座らされ、餌皿を置かれている姿が頭に浮かんでしまったのだ。
「……そんなの、あり得るのか」
「あり得るさ。あいつらは“人間”で、俺たちはもう“動物”だ。法の上じゃ、何の問題もない」
男は肩を落とし、ため息をついた。
「ここにいるよりマシかもしれんがな……それでも、首輪に繋がれて誰かに笑われるくらいなら、いっそ――」
言葉の続きを飲み込み、男は黙り込んだ。
翔は膝を抱えたまま、遠くの壁を見つめる。
そこには薄汚れたスローガンが貼られていた。
“人類は平等に移行する”
その文字が、今ほど空々しく見えたことはなかった。




