第17話 消える者たち
観察者たちが来てから、数日が過ぎた。
収容所の日々は相変わらず同じ――餌の時間、外での放牧、夜は狭い檻に押し込められる。
だが、あの日を境に、どこか空気が変わっていた。
その朝、突然、係員が檻の前に立った。
名簿のような紙を手にして、一人ひとりの顔を確認しながら、淡々と名前を読み上げていく。
「……おい、018!」
「次、121!」
「それから……お前だ」
呼ばれた者たちは、顔を青ざめさせた。
だが、抵抗することはできない。係員たちが無言で扉を開け、腕をつかみ、外へ連れ出していった。
「ちょっと、どこに――」
叫びかけた者の声は、すぐに怒鳴り声でかき消された。
「静かにしろ!」
その場に残った者たちは、息を潜めるしかなかった。
数人が選ばれて、檻の外に消えていく。
背中が角を曲がり、視界から消えるまで、誰も瞬きを忘れていた。
……だが、その日の夜。
呼び出された者たちは、戻ってこなかった。
翌日も、その翌日も、彼らの姿はない。
ただ空になった寝床と、名前を呼んでも返事のない虚しさだけが残った。
「どこに連れて行かれたんだ……」
「まさか、処分されたんじゃ……」
囁き声が広がり、檻の中の空気はさらに重くなる。
食事の残飯を口に運んでも、味がしなかった。
翔は無意識に、自分のタグを指先でなぞった。
(もしかして…次は……俺か?)
夜。
眠れぬまま、彼は天井の薄暗い蛍光灯を見上げていた。
あの日観察に来ていた異国民の顔が、頭から離れない。
(……あいつらの“品定め”の結果が、これなのか?)
冷たい予感だけが、翔の胸を締めつけ続けていた。




