第16話 観察者達
その日、収容所の空気はいつもと違っていた。
朝の残飯配給を終えた後、鉄柵の外に、見慣れぬ影がいくつも現れたのだ。
異国の服を着た男女。
肌の色も髪の色も様々で、ひとりひとりが分厚いファイルや電子端末を手にしている。
係員に案内されるまま、列を組んでゆっくりと柵の前に立ち、こちらをジロジロと見ていた。
「……なんだ、あれ」
誰かがつぶやくと、他の囚われた者たちもざわついた。
異国民の彼らは、声を潜めながらも身振り手振りで何かを話し合っている。
指先でこちらを示したかと思えば、紙に何かを書き込んでいるようだった。
ある者は腕を組み、険しい顔でうなずき、またある者は笑みを浮かべていた。
翔は息を殺して、その様子を見つめた。
何を言っているのかは遠くてわからなかった。距離もあり、言語も違うようだ。
けれど、視線だけははっきりと理解できた。
それは、動物園の檻の中にいる獣を品定めするような目だった。
(……俺たちは、もう完全に“見世物”か)
彼らが何のために来たのか、想像はいくつも浮かんだ。
研究か。管理か。それとも、利用価値を探しているのか。
だが、どれも「人間」として扱う目的ではないことだけは確かだった。
やがて係員が声をかけ、一行は静かに立ち去っていった。
残されたのは、重苦しい沈黙と、胸の奥を冷たく締めつける不安だけだった。
翔は鉄柵の隙間から遠ざかる背中を見送りながら、かすかに唇を噛んだ。
(……何を決められるんだ。俺たちの未来を)
収容所の空は高く晴れ渡っていたが、その光は檻の中に届いていなかった。




