第15話 一方、収容所では
一方、収容所では相変わらず同じ日々が繰り返されていた。
朝になれば警報が鳴り、裸のままの群れが鉄柵の前に整列させられる。
配られるのは前夜と同じ、人間社会から弾かれた残飯の山。
昼は塀に囲まれた狭い運動場で、ただ「歩き回る」ことを許されるだけ。
夜になれば冷え込むコンクリートの床に体を横たえる――。
時間の感覚すら奪われていくその暮らしの中で、翔はふと、外に残した顔を思い出した。
(……新川。あいつ、今どうしてるんだろう)
イギリス人と結婚し、国籍を変えて出国した同期。
本当に“人間のまま”でいられているのか。
それとも、違う形で別の檻に囚われているのか。
想像しようにも、もう情報は何も届かない。
そして、もうひとり。
(今泉……)
あの給湯室で「外人限定のマッチングアプリに登録しましたよ」と言って笑っていた後輩。
強がってはいたが、目はひどく乾いていた。
果たして彼は選ばれたのか、それともこの同じ収容所のどこかにいるのか。
もし同じ鉄格子の中にいたとしても、互いに気づけないまま擦れ違っているだけかもしれない。
翔は薄暗い天井を見上げ、胸の奥に重たい鉛を抱え込んだ。
(結局、俺たちは――“人間”であるかどうかを、外側の誰かに決められてるだけなんだ)
その夜もまた、遠くで犬の吠える声がした。
しかし檻の中にいるのは犬ではなく、かつて「人間」と呼ばれていた者たちだった。




