第1王子と私2
過去編第2弾です。
今回はすんごい暗いです。注意してください。
王子、レニュー・アラウイ・シュヴァ。
今はその名を知るものはほとんどいない。なぜなら生まれてわずか1週間でこの世を去ったからである。
国民や多くの貴族には死産であったと伝えられた。名前さえ伝わっていない。
セシアは子供の誕生を心待ちにしていた。生まれてくる子供の性別などどちらでもよかった。元気に生まれてくれればと、毎日そればかり祈っていた。ググロもセシアの傍らで、同じように祈っていた。王位継承権など二人の考えの中には無かった。もちろん、セシアの中には“王妃”という言葉さえ浮かんでこなかった。
「忌々しい、セシアめ・・・。あの様な女がいるために王は私の元に来られない。
しかも懐妊だと・・・もし王子が生まれたのならあの女が王妃になってしまう・・・なぜ私ではない?私のほうがすべて勝っているのに・・・
卑しい身分のあの女がこの国の王妃?認めない、絶対に認めない!
私のものを盗むセシア・・・愚かで身の程知らずの女・・・今に見ておれ」
第一妃のシャローは“王妃”に執着していた。
生まれた時から、当主である父に王妃になるための教育を受けてきた。また、自身の容姿が優れている事を知っていた。元々の性質か、育ち方かプライドの高い傲慢な娘に成長した。その証拠にシャローは心からの謝罪や感謝をした事が無かった。自分はしてもらって当たり前、謝罪も自身よりも身分の高い者にたいして形だけの謝罪を行ってきただけだった。またシャローは何事も一番ではないと気が済まなかった。いや、自分以外が一番になる事すら考えられなかった。
王太子との婚姻も、第1妃という地位もシャローにとっては当たり前の事だった。いずれ自分がこの国の王妃になるのだと、信じて疑わなかった。
そんな時セシアが現れた。王が本当に愛しているのはセシア、婚姻を望んでいるのもセシア。貴族がそのように噂しているのを聞くたびに叫びたくなった。
何度も父に訴えた。セシアと王太子の婚姻を止めてほしいと、伯母である王妃にも・・・。しかし返答はどちらもNOであった。セシアがググロに惹かれている以上、反対出来る理由が無かった。もちろんセシアのためではなく、アーガイル家に喧嘩を売る事が出来なかったからだが・・・。アーガイル家は味方では無いが敵でもない。もし、セシアの婚姻に反対をすれば敵に回すことになる。身分ではガイザー家の方が上だが、王や政治への影響力は比べ物にならない。
もし、セシアが王妃になってもアーガイル家が敵に回る事を考えれば損害は小さくてすむ。一族はすでに繁栄しており、シャロー1人が王妃になれなかったとしてもさほど大きな事ではなかった。父としては娘の願いは叶えてやりたかったが、ガイザー家当主としての判断をした。反対に伯母である王妃は自分の息子の幸せを優先しただけであったが・・・。
セシアへの嫌がらせはシャロー個人のものであった。父は許しはしなかったが止めもしなかった。シャロー自身、この憎しみをどのようにすればいいのか分からなかった。
セシアと王太子の婚姻、そしてググロが王に即位した。
シャロー以外の妃はすでに王の寵愛をあきらめていた。そして実家に帰ってしまった。
そしてセシアの懐妊・・・。シャローが一番恐れていた事が起きた。
もし、王子が産まれたら・・・。
いいや・・・無かった事にすればいいのだ・・・。
セシアの子供が男子の訳がない。そうよ、私が第一王子の母なんだもの。セシアの訳が無いじゃない。
ねえセシア、あなたは姫を生みなさい。そうすれば何もかも上手くいくの。
あなただって可愛いわが子を失いたくないでしょ?
私は忠告したわよ・・・
そして子が生まれた。玉のように可愛い王子が・・・。
ググロとセシアはわが子の誕生を心から喜んだ。乳母も断り自分たちで立派に育てようと決めていた。この時、セシアは人生の中で一番幸せだった。
1週間後、レニューは死んだ。
今朝までは元気に泣き、乳を飲んでいた。
たまたま、近くに落ちていた指輪を飲み込んだ事による窒息死であった。指輪などセシアはしない。なぜ、そんな所に落ちていたのか分からない。
侍女やセシアが離れた短時間のうちに生後1週間の赤ん坊が指輪を持ち口に含んだ。そして寝返りなどできぬはずのレニューは仰向けからうつ伏せに変わっていた。
そして、生後1週間で召された赤ん坊は無かったものとして国民に伝えられた。
第一王子が生まれて1週間で事故死するなど不吉だっという意見が出たからだ。
この事故死を不審に思う者がいれば一族の破滅を導くと、危惧したものがいたからだった。まさか、前王妃の一族のものが王の第一子を殺したなど、あってはいけない話なのだから・・・。
ねぇセシア、ダメじゃない。忠告はしたのに・・・
だから、無かった事になったのよ。あなたの大切な子は・・・
不愉快に感じられた方はすみません。
赤ちゃんの窒息死は本当に多いのです。助かっても脳に大きな障害が残る事があります。