第1王子と私
過去編に突入です。
暗い話&残酷描写がありますので気をつけてください。
「今夜は本当にすっきりしたわ・・・。今まで神官長は面白みが無いと思っていたけど最高ね。ホントに素直というか正直というか・・・いや、アレは本能のままに生きるということね。全身からアオイ様大好きオーラが出てたわ。」
セシアは後宮にある王の間で寛いでいた。半刻ほど前に守り神の祝賀会は終了しており、王夫妻と王太子は先ほどこちらに戻ってきていた。王はその後、宰相に呼ばれ執務室に行っている。
スタルは笑いすぎによる窒息死を半分経験してしまい顔色はあまり良くなかったが(顔色の悪さは二つ名をもらった事への不安も大きい)、セシアの言葉に頷いた。
セシアがシャローにあのような言動を浴びせられる事は少なくない。むしろ事ある事に難癖をつけてくる。それはスタルにも同じ事であった。特に王太子になってからは頻度と共に内容もエスカレートしてきている。そして難癖の殆どが身分による蔑みである。
セシアの身分が低い訳ではない。セシアはアーガイル家出身で、このシュヴァにおいて賢人を多く輩出している名門である。しかし、欲の少ない者が多い事が特徴で子に自らの地位を世襲させる事はほとんどない。また、王族に娘を嫁がす事もあまり行っていない。このため名門ながら身分がさほど高くない。反面、王族や民従からの信頼は厚く政治の中核を担ってもいるため影響力は絶大である。
セシアが王に嫁いだ事も政治的な意味はほとんどない。元々、王のググロと兄のキロイが幼馴染で親友であった事が馴れ初めである。たまたま兄と王宮に来ていた当時11歳のセシアに13歳の王太子ググロが一目惚れし、その場でプロポーズした(その後、キロイに殴られる)。しかし、このころ彼はすでに名門ガイザー家のシャローと婚約が決まっていた。ガイザー家は王族との婚姻や子に地位を世襲させる事で権力を掌握しており、身分は王族に次ぐものであった。さらに当時の王妃がガイザー家当主の姉であったためこの婚約に反対出来るものはいなかった。
はじめセシアはググロのプロポーズを断っていた。いや、断り続けていたと言った方が正しい。セシアが結婚を了承するまでの約7年間会うたびにプロポーズを受け、そのたびに断っていた。この7年の間にググロはシャローほか4人の女性と結婚していた。結婚といっても形だけのもので恋愛感情は一切無かったのだが・・・。
国民中がこの二人の事を知っており、セシアが結婚を了承するか賭けが行われるほどであった。セシア自身もググロの事は尊敬しており、また淡い恋心を抱いてはいたのだがガイザー家からのいやがらせ(贈り物と称して動物や虫の死骸などを送ってこられる事もあった)に対応する事で忙しかった。セシアは元々、「やられたらやり返せ」とキロイから教えられていた。いやがらせには相応のものを返していた。また、キロイが面白がっていろいろと知恵を貸しては暇を潰していた。また、セシアは政治について興味を持っていた。ググロとの結婚よりも自身の勉学を行いたかった事も大きい。
結局は王のもの凄い熱意に折れる形でセシアは妃とり、同時にググロが王に即位した。この当時は、王妃は空位であり第一妃がシャローとなっていた。
そして翌年にはセシアの懐妊の知らせが国中に広まった。国民は二人の成り行きを見守っていたため大いに喜んだ。また多くの貴族は王のセシアへの寵愛やアーガイル家の欲の無さを知っていたため素直に世継ぎの誕生を祝福した。
その後、セシアは王子を出産した。名はレニュー・アラウイ・シュヴァ。
王太子スタルの兄であり、王ググロの第一子である。