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花祭りの中央聖堂 4

「ねえ、チェルシー! あの人が例の運命の伴侶?」


 聖堂の中に入り、さてとりあえず帰ったことを知らせに行くか、と歩き出したところをリサに捕まった。

 そのチェルシーの運命の伴侶に失礼な態度を取ったのはついさっきの話なのに、彼女はそんなことをすっかり忘れて楽しげに話しかけてくる。

 リサの年齢はきちんと聞いたことこそないが、チェルシーより十近くは年上なはずだと思う。なのに落ち着きがなく、未だに見習いのままだ。しかし彼女がこの調子なのはふだんからずっとそうなのでチェルシーも目くじらを立てることは無く、苦笑いを一つこぼすことで水に流した。


「そうだよ」

「すごーい! ねえねえ、あの制服って近衛騎士のやつでしょ? やば、エリートじゃん! 玉の輿?」

「うん、騎士だって言ってた。でも玉の輿って…………まあ、一応貴族の人みたいだしそうなるのかもしれないけど…………」

「一応って、でも高位貴族でしょ? 次男とか三男とかだったとしても玉の輿に違いないでしょ!」

「高位貴族?」

「だってあれって近衛騎士の制服でしょ? 近衛って高位貴族しかなれないんじゃないの?」

「そうなの?」


 チェルシーはそこまで詳しい騎士の事情を知らなかった。ベージルは子爵家の六男と言っていた。とても高位貴族とは言えないことぐらいは、チェルシーにもわかる。


「子爵家の出だって言ってたよ」

「うそ?! たかが子爵の家の人間が近衛騎士になれるわけないのに!」

「たかがって…………」


 チェルシーは思わず、足を止めてしまう。

 彼女にとって子爵家っていうのは、子爵『様』と呼ぶ存在で、もちろん貴族っていうだけで雲の上の存在だ。たかが、なんて平民の身であるチェルシーやリサが言える立場ではない。

 ベージルはそんな生まれであるのに平民で孤児であるチェルシーに対して、ぶっきらぼうではあったけれど偉そうというわけでもなかったし、わざわざ聖堂まで送ってくれた良い人だ。彼女はベージルに、親しみを感じていた。

 なのに、『近衛騎士になれるわけない』って、なんだ。

 ベージルは確かに近衛騎士だと言っていた。何の関係があるのかは分からないが、チェルシーが教会に近しい人だと聞いて仕事モードになってしまったくらいには、自分の仕事に誇りを持っているのも分かる。

 そんな人に対して、『たかが』とか『なれるわけない』とか、リサの方こそ何様だって話だ。

 リサがそういう物言いをする人というのは知っているし、普段は気にしないようにしている。けれど、この時だけは聞き流すことができなかった。

 つまり、チェルシーはムッとした。


「そこまでは聞いてないから分からないよ。ルールが変わったか、なにか特例があったかしたんだと思う」

「えぇ、でもさぁ…………」

「リサ。私は平民で、あなたはシスター見習いでしょう? 騎士様を評論できる立場じゃないはずだよ」

「えっ…………」

「リサ、()()()が出てるよ」

「ご、ごめん! ごめんね、チェルシー」


 チェルシーが怒っている、ということがリサにも伝わったのだろう。彼女はまだ続けようとしていた言葉を飲み込んで、ごめんなさい怒らせるつもりじゃなかったの! と焦ったように言いすがった。

 そんな同じ間違いを何度も繰り返すリサの姿に溜飲が下がることはなかったけれど、あまり大事にはしたくないのはチェルシーも一緒だ。こっそりため息を吐いて、もういいよ、と言って止まっていた足を再び動かした。

 ほっとした様子のリサが隣に並んで、さっきで懲りたのだろう、ベージルの話ではなく、今度は自分の恋愛話について話し出す。聖職者は一定の地位以上にならないと結婚を許されない。当然見習いのリサも恋愛などご法度なのだけれど、不良聖職者である彼女は自分に彼氏がいるということを、チェルシーにこっそり教えてくれていた。チェルシーは内心呆れはしたが、何かを言うことは無い。いつも苦笑いをしてリサのおしゃべりに大人しく耳を傾けてあげるだけ。

 チェルシーはいつもの恋愛話に相槌を打ちながら、先ほど感じた苛立ちを思い出す。

 リサの物言いはいつものことだし、こんなに苛立つなんて自分のことながら少し意外だった。運命の相手と言えど彼ときちんと話をしたのは今日が初めてだし、親しいとはとても言えないぐらいの間柄だと思っている。それでもあんなに怒ったのは、つまり。

 自分は自分で思っていたよりベージルに好感を持っているらしい、という事実に気が付いて、チェルシーは『運命の伴侶ってすごい』とひっそりと身震いをしたのだった。


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