優しいということ
「勝った!?貴女、勝ったの!?やったじゃん!!やったねフォトア!!」
「あなたのおかげです!!あなたがいてくれたから……!!エリス!!」
「そんな事言わないでよ……!!私は、ちょっと手助けをしただけ」
エリスは気恥ずかしそうに微笑んでいる。
フォトアとエリスは抱き合っていた。それは見紛うことなく、友人同士の姿であり、強い絆の結びつきだった。
「貴女がチェスを教えてくれなかったら、どうなっていたか、わからない……!!」
「そんなに持ち上げられるとね……まあ、私の直々の教えなのだから、この結果は当然よ」
ふふん、と満足そうなエリス。
「フィール・アトラは、どうなったの?」
「賭博場の人に、連れて行かれていました」
「ふーん……まあ、調子に乗っていたからね」
「手強い相手でした」
「人の悪意は、時に強大な力を持つものね。……今日は、本当におめでとう。祝勝パーティーをやるしかないね。私は料理がヘタだから、料理は作るのは貴女にお任せするわ。主役に働かせるのもどうかと思うけど」
「作ります!エリスに、ツヴァイに、食べてもらいたい……私に出来ることなら!!」
「よろしく」
エリスは腰に手を当てて、誇らしげにしていた。彼女自身が何かをするつもりはないようだ。
『大陸にべレッセあり』。そんな言葉を、誰かが口にしていた。
とても清々しい天気。晴れ渡る空。眩しい太陽。風は心地よく、華麗に吹いていた。
そんな中、広大な景色が見える。一面に広がった畑。
その畑に、二人の人物が見える。
名を、フォトア・ローレンと、エリス・エーデンブルグという。
エリスは鍬を持ち、懸命に畑を耕し、汗をかいていた。
それに対し、フォトアは水の桶を持ち、エリスに渡していた。
「農作物って偉大だわ……」
「農夫の方には、本当に頭が下がります」
「本当にね」
二人は笑顔を向けあっている。
そこに、一切の負の感情はない。
あるのは、お互いに対する、信頼の証のみ。
試練を乗り越えた、友情の絆のみ。
「ねえ、フォトア」
「なんですか?」
「幸せって、なんだと思う?」
「……今、この瞬間のことだと思います」
「ふふ、何それ」
エリスは笑顔で、畑を耕し続けている。
不意に、彼女が手を止めた。
「フォトアさぁ」
「なんですか?」
「私のこと、その、許してくれたじゃない?」
「それが、何か……?」
「その結果、私がチェスの指南役になって、勝利を収めたわけだよね。私がいなかったら、正直、負けてたと思う。だから、うーん、なんというか」
「エリス……?」
「フォトアって不思議だなって、つくづく思うよ」
エリスは再び畑を耕し始めた。
フォトアは首を傾げる。そして、彼女の心の中が、暖まってくれた気がした。
縁という言葉がある。人を許すという行為がある。
フォトアとエリスは、農作業をしている。
二人のように、温かい気持ちで、一生を過ごすことが出来たなら。
それは、難しいことなのかもしれない。人間の悪意というのは、不意に人を襲う。憎しみの連鎖から抜け出すことが出来ないこともある。
だが、フォトアは連鎖を断ち切った。その結果、巡り巡って、チェスに勝つことが出来た。
フォトアの性格が、結果的には勝利を招いたのだ。
彼女の優しさに、意味はきっとある。
優しさなんていらない。許しなんていらない。そう感じる人間も多いだろう。
優しくしてる余裕なんてない。到底許せない。それは正しい感情だろう。
だから、人はその時々で、厳しく、己の心を見つめていかなければならない。
フォトアは風を感じ、目を伏せた。そして、誰に聞こえるでもなく、呟いた。
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