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結婚するしかないんじゃないの?  作者: 夜乃 凛


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ツヴァイの判断

 ツヴァイ・ローレンは、国王の住む城に辿り着いた。御者と別れる時、お互いに何も言葉を交わさなかった。不必要だったからだ。

 街の中から、城へ向かう道がある。街を歩くツヴァイの姿は、誰もが振り返るほど、凛とした態度だった。


 彼の右手に見えた、二人の近衛兵に挨拶をした。近衛兵もツヴァイの姿に気づき、慌てて佇まいを直していた。上下茶色の服装をしている。


「ツヴァイ・ローレン様ですね。お通り下さい」


 道を開ける近衛兵。ツヴァイは片手を上げ、その間を通り過ぎた。

 白い城が見える。とても大きな城だ。べレッセ国を象徴するような、力強さ。

 そして、その力強さを相手に、ツヴァイは挑もうとしている。

 アルヴァン・シュドロウ。話が通じるか、通じないか……。

 ツヴァイは再び、一歩踏み出した。城の緑の庭で、茶を嗜んでいた女性たちが、ツヴァイの方を見ていた。噂話を始めている。いずれも、ツヴァイの容姿を称賛する内容の。


 ツヴァイは城の中に入った。道が三方に別れており、それぞれ廊下になっている。地面には赤い絨毯が敷かれ、窓ガラスから差し込む光は綺麗だった。誰も身に着けていない、主を持たない甲冑が廊下に並んでいる。


「(ここを訪れるのは何度目か)」


 ツヴァイは、知った家のように、中央の廊下を歩いていった。

 前方の大きな扉が見えた。その先は、事務所になっている。ツヴァイはそれを知っていたので、迷いなく、その扉を開けた。国王に会うためには、手続きが必要なのだ。安全性を考えれば、当然のことである。国王が暗殺されることは、あってはならない。

 故に、国王は謁見を許す人物を選定していた。ツヴァイはといえば、国王に気に入られ、握手までした仲。そんな過去の思い出が、ツヴァイに、もしかしたら言葉が通じるかもしれないと思わせた。


 事務所に入ったツヴァイ。両側に本棚が見える。左側の本棚の前にデスクがあり、男の、司書らしき人物が、書き物をしていた。中央の奥は、べレッセ国の紋章が、黒色で大きく描かれていた。

 司書が、扉の音を聞いたのか、顔を上げた。近衛兵たちと同じ様に、司書も慌てて立ち上がった。

 そちらへ近づくツヴァイ。司書は優秀な司書で、自ら書物を発行するほどの人物だ。発行した書物は、『悪意に打ち勝つ善意』というタイトルだった。


「失礼。ツヴァイ・ローレンです。国王への謁見の手続きを」


 ツヴァイの表情は、馬車を降りてから変わらない。遠くを見つめるような、そんな表情。

 自分の未来を見つめるような。

 フォトアの未来を見つめる瞳。

 自分たちの未来を見つめるが如く。


「ツヴァイ様がいらっしゃったと、国王陛下に伝えて参ります」


 眼鏡を掛けた司書は、頭を下げた。そして、速やかに、入り口から見て左側の扉を開け、去っていった。司書もまた、国王からの信頼を受けているということになる。

 一人、取り残されるツヴァイ。彼は気迫する感じる姿勢で、佇んでいた。

 彼も、王命の絶対さを知っている。貴族の権力など及ばない、国というの権力。

 ツヴァイは、皆のことを考えて動かなければならなかった。彼一人なら、もしかしたら、フォトアを連れて、国外に逃げていたかもしれない。

 だが、それは出来ない。ローレン家とブリッジ家の者たちが、取り残されるからだ。皆を巻き添えには出来ない。

 その上で

 それでも。

 フォトアのことが好きだという現実を、変えることは出来ない。

 ツヴァイがこれから行おうとしていることは、人に迷惑をかけるだろう。

 彼は願った。そして、信頼した。頼む、ローレン家の者達、部下達……。


 司書が出ていってから、しばらく経った。無人の事務所に、一人佇むツヴァイ。

 彼は焦ってはいなかった。鷹のような目で、事務所を観察していた。

 司書の帰りが遅いのは、何かの要件で話し込んでいるのか。事前に国王への謁見の許可はとってあったので、何かトラブルでも発生したか。いずれにせよ……。


 そんな時、茶色の扉が開いた。司書が戻ってきたのである。

 眼鏡をすっと整え、ツヴァイの方を見つめた司書。


「ツヴァイ様、お待たせしました。国王がお会いになるそうです。こちらへ」


「ありがとうございます」


 司書に連れられる様に、ツヴァイは一歩踏み出した。物理的にも一歩。そして、フォトアとの将来へ向けての一歩。



 事務所を出て、真っ直ぐに廊下を歩いた。ピカピカの窓ガラスは、管理が行き届いている。外の明るい日差しが廊下に差し込んでおり、ツヴァイの心境とは正反対だった。


 歩いていくと突き当りになり、左右に廊下が伸びている。その廊下を右へ。司書が先導する形である。

 コツコツという足音。ツヴァイのものだ。


「ツヴァイ様、貴方には何度かお世話になりましたが」


 口を開いたのは司書だった。


「国王陛下の仰ることは、絶対です。あまり、余計なことをしないほうがいいかと」


「余計なこと、か。私にとっては、アトラ家と婚約せよ、という知らせそのものが、余計なことです」


「恋に盲目になっては、足元が疎かになります。繰り返しますが、賢明な判断をしたほうがいいと思います」


「賢明とは、なんだ?」


「え?」


「愛する人を裏切ることが、賢明なことなのか?それならば、私は賢明さなど捨てる。人は、一人で生きているわけではない。どんな人間にも、自分自身の物語、自分が主役たる権利がある。そして、その権利は、失ったら帰ってこない。私は自分自身の物語を生きたい。愚かだと嘲笑われようとも、関係ない。私はフォトアと幸せになりたい」


「崇高なお考えだと思います。しかし、貴方の言葉を借りるのであれば、愚かです。想像してみて下さい。国王に逆らい、フォトア・ブリッジと結婚したとして、その後、平和に暮らせると思いますか?何からの障害が現れるのは必然。それも、一つではないでしょう。だけど、アトラ家の者と結婚すれば、国王はそれを喜び、あなたの人生の邪魔をしたりはしないでしょう。ローレン家の者達にまで、被害は及ぶのかもしれないのですよ?」


「わかっているさ……そう、わかっている……」


 ツヴァイの表情は険しい。自分に言い聞かせるかのようだった。


「まあ、私は忠告はしましたが、無理矢理に止めはしません。あなた方の事情も知らないし、ただの国王陛下の側近ですしね。賢明な判断をすることを祈っていますよ」


 司書はコンパスの様に綺麗に歩いている。まるで無機質。

 国王の座る、謁見の間まで、あと僅か。ツヴァイは、自らの持ちうる駒で、国王を説得出来るか、シミュレーションしていた。もう、何度もしたことだ。

 打てる全ての手を使う。それしかない。

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