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結婚するしかないんじゃないの?  作者: 夜乃 凛


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その結論裏返る

 フォトア達の住む国は、海と、他の国に囲まれている。南側が海である。べレッセという名前で呼ばれている。

 べレッセ国は、周辺の国に比べれば、とても平和な国である。何しろ、どこの国とも戦っていない。中立を保っているのだ。何故、その平和が保たれているかといえば、べレッセ国王が、極めて優秀、そして武力にも長けている国だからである。


 べレッセ国王は、もう齢90を超える高齢。しかし、堀の深い顔立ちと、髪の色こそ白いが、若々しい風貌で、威圧感さえ兼ね備えていた。

 彼が成人したての頃、べレッセ国は、他の国と戦争をした歴史がある。当時のべレッセ国は、とても貧弱な国で、周りの国からは、べレッセはすぐに墜ちると噂されていた。


 そんなべレッセ国を背負ったのが、現べレッセ国王、アルヴァン・シュドロウである。アルヴァンは、成人したばかりだというのに、国の中で、メキメキと力をつけていた。彼の頭のキレは、国にとって必要な物だった。少し冷酷な判断を下すこともあり、しかし、アルヴァンはカリスマ性があったようで、多くの若者たちは、アルヴァンに憧れた。


 そして、国とは別に、独立した部隊である、シュドロウ隊が誕生した。若いアルヴァンを筆頭に、アルヴァンのカリスマ性に惹かれた、若者たちの部隊。

 その舞台が、戦場において、圧倒的な戦果を上げたのだ。特に、一番大きい規模の戦いは、『べレッセ国の戦い』という書物になって、他の国でも読める。


 そして、戦争は終結した。べレッセ国に侵攻しようとした隣接国が、べレッセを攻めることをやめたのだ。

 若者達は、歓喜に沸いた。そして、その勢いで反撃を開始すべきだと、声を上げた。

 しかし、その若者たちの勢いを、アルヴァンが制止した。


『身を護るために戦え 戦うために戦うな』


 この一言で、アルヴァンは一気に有名になった。当時の国王も、アルヴァンも気に入り、なんと当時の姫とアルヴァンを結婚させたのだ。事実上、国王が跡取りをアルヴァンに指名したのである。


 それ以降、べレッセはどこの国にも攻め入られていない。

 『大陸にべレッセあり』。

 それが、フォトア達の住む大陸の、共通認識だった。



 ツヴァイは、ローレン家の屋敷のテラスで、夜の月を眺めていた。白い外套が揺れる。


「(婚約破棄されて傷ついたフォトアを、これ以上傷つけるわけにはいかない)」


 慎重に考え込むツヴァイ。彼は、アトラ家からの婚約の命令を、全力で蹴ろうと考えていた。

 だが、問題なのは、脅迫の部分。ツヴァイが強行策に出れば、フォトアの身が危ない。


「(まずは、国王陛下と話をしなければならない……)」


 アトラ家の手紙には、王命である、と書いてあった。それが真か嘘か。おそらくは本当だろうと、ツヴァイは思った。

 理由は想像できる。ここ最近、平和だったべレッセ国の周りの動きが不審だからだ。国王は90を越える年齢。おそらくは、安心して現役を退くため、国の有力貴族を結婚させて、自らの国の連携を強めようという考えだろう。

 確かに、国のことを思えば、それは正解なのかもしれない。

 だが。

 自分は駒ではない。ツヴァイはそう思った。フォトアと結婚するという幸せを、逃したくない。


「(守る者が出来る時がくるとはな)」


 ツヴァイは一人、苦笑した。フォトアのことばかり考えている自分に。

 すぐにでも国王への謁見を許可してもらう覚悟。

 まずは言葉で、共存を図る。もし、それが成立しなかった場合……。

 その未来は、想像できなかった。

 先は見えない。

 だが、フォトアの笑顔を思い出せば、何だってする覚悟だと、ツヴァイは一人で誓った。


 その翌日のこと。石造りの、グレイの大きな建物の一室で、とある人物が紅茶を飲んでいた。部屋は簡素な作りだった。無駄に飾られた品もほとんどなく、質素。

 だからこそ、紅茶を飲んでいる人物は目立った。美しい、黒さが基調のドレス。滑らかな、長い茶髪。艶のある唇。その、人を魅了する容姿を持った人物の名は、フィール・アトラ。アトラ家の次女である。


「ああ、楽しい」


 フィールは微笑んでいた。その隣に、フィールの侍女が立っている。そして、話しかけた。


「フィール様、ずいぶんとご機嫌ですね」


「それはそうよ。だって、国王が直々に、ローレン家のツヴァイと婚約しろって、命令してくれたんだもの。ツヴァイの容姿を見たことがある?繊細で、かつ男らしい。魅力的な貴族だわ。ブリッジ家を知っている?なんでも、ツヴァイはその家の娘と婚約したらしいわ。そのことが、とても楽しいの」


 フィールは笑顔である。口元を悪魔のように吊り上げて。


「……何が、楽しいのでしょうか?」


「婚約している者同士を、引き裂く事が出来るからよ。自分が幸せだと思い込んでいる、その絶頂に、現実を突きつけてやるの。現実は非情。今まで、私は何度も、恋仲の男女を引き裂いてきたわ。勿論、真剣に恋愛するつもりなんて、なかったけどね。愛なんて、簡単に崩れ去るモノなの。引き裂かれた恋人たちの表情といったら、笑っちゃうわ」


「……左様でございますか」


「何か言いたいことでも?」


「いえ、ありません。私はフィール様の侍女。ただ、それだけです」


「相変わらず固い侍女ね。まあ、それでも優秀だから構わないけど」


 フィールは再び紅茶を飲んだ。

 フィール・アトラは、アトラ家の次女として生まれた。国で一番有力な貴族ということもあって、アトラ家の人間には期待が寄せられていたが、一番の期待を背負っていたのは、フィールの姉、ルクシア・アトラだった。姉のルクシアは、両親の期待を一心に背負っていた。そして、人格が良く出来た人間だった。


 対して、フィール・アトラは、多少の拘束はあるにせよ、ある程度自由に行動出来た。アトラ家の将来を背負うのは、姉のルクシア。そのことに、フィールはまったく嫉妬していなかった。面倒な責務が嫌いだったからである。

 そして、彼女の性格は、ルクシアと正反対。悪意、いや、狂気にさえ染まっていた。『好きなものはなんですか?』と、男性に問われた時、フィールはこう答えた。

『誰かの人生が終わる瞬間』と。

 人の不幸は蜜の味という言葉がある。フィールは、蜂だ。ひたすらに蜜を求め、人間を突き刺す、蜂。

 人の不幸を嘲笑い、また、そのことに生きがいを感じる。そんなフィールにとって、ツヴァイ・ローレンとの縁談の話は、彼女の心を踊らせた。ツヴァイにパートナーがいれば、別にそこまで興味はなかったが、ツヴァイには、フォトアというパートナーがいる。

 引き裂いてやる。どう引き裂くか。その試行錯誤が、面白いのだ。実際、フィールは頭が良く、かなりの切れ者。思考を試されるチェスに置いても、彼女に勝てる者はいなかった。


 フィールの思考としては、フォトア・ブリッジに勝ち目はない。そう判断していた。何しろ、この縁談は、国王アルヴァンの太鼓判を押された物なのだから。国王の命令は絶対だ。貴族にとって、国王に対する反論など、出来ようはずもない。ツヴァイ・ローレンとて、例外ではない。

 今まで独身を貫いていたフィールであったが、ツヴァイと結婚して、そして、フォトアに引導を渡して、そろそろ結婚するのも有りだろうと考えた。

 フィールの口角が上がる。この戦い、負ける可能性はゼロ。もう既に、チェックメイトだ。

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