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結婚するしかないんじゃないの?  作者: 夜乃 凛


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自分の性格は自分で決めるんだ

 市場へとたどり着いたエリス。またも馬車から降りる。その市場はフォトアとツヴァイが運命の出会いをした市場だ。

 それにしても人が多いものだ。建物から店員が飛び出て大声で品物の宣伝をしている。

 エリスはそれらを見回した。大声で叫ぶ店員の汗まで目視出来た。

 皆必死だ。必死に商売をしている。今までにそのような観察をしたことはなかった。


「お嬢さん、お得だよ!」


 歩いているエリスに声をかけてくる店員。ちょうどその店は食料品を扱っているようだった。たくさんの食材が木の机の上に並べられている。

 エリスは戸惑ってしまった。なにせ何を買えばいいのかわからないのだ。料理は食材の調達から始まるがそれが案外難しい。エリスは机の前で棒立ちになってしまった。


「なにか目当てのものがありますかい?」


 店員が元気そうにエリスにきいてくる。活発な店員だ。若さに満ちている。


「えっと、料理がしたいんですけど……」


 エリスはそこで口籠もった。しかし勢いだ。言ってしまえ。


「私、料理をしたことがないんです」


 絞り出すようにそう言うと店員は一瞬目を瞬き、また笑った。


「料理に挑戦されようとしているのですね。彼氏ですか?いやぁ、青春だなぁ」


「いえ、そういうわけでは……」


「あ、じゃあ家族かな?ご両親に料理とか……うん、素晴らしい素晴らしい。まずは炒めものから入るといいですよ。この緑の野菜とかいいですね。それと……」


 男は勝手に納得して話を進めている。しかし親切心のようだ。フォトアとの事情を話すわけにもいかないのでエリスは黙って話を聞いていた。


「それに、肉だなぁ。肉の旨味で野菜の味も変わるんですよ。買っていきますか?大丈夫、火を通すだけの簡単な作業ですよ」


「そうなんですね。では、肉をください。野菜も」


「かしこまりました。いやぁ、お嬢さんみたいな綺麗な人に料理を作られる人が羨ましいなぁ」


 男は笑顔だ。

 食材はそんなに高くなかった。しかし荷物としてはなかなかの量になってしまった。


「お嬢さん、荷物持てますか?」


「鍛えてあるので、大丈夫です」


 そこでエリスは俯いた。男は不思議そうな顔をしている。


「その、教えていただいてありがとうございました」


 エリスが口にした。

 感謝の言葉を口にした。

 エリスの顔が真っ赤になる。お礼を言っただけではないか。だが、なにかくすぐったいのだ。


「礼儀正しいお嬢さんだなぁ。どういたしまして」


 男は苦笑している。

 ほんの一時のやり取りだ。なのにそのやり取りがどうしようもなくエリスの心を暖かくした。

 言葉の力って凄いんだ。お礼って大事なんだ。

 エリスは微笑んだ。これからは言葉を大事にしよう。きっとすぐには変われない。それはわかってる。でも一歩ずつでも成長していくんだ。

 自分の人格を自分で決めていくんだ。



 そして。エリスは料理の真っ最中だった。厨房を貸してくれと使用人たちに話したら死ぬほど驚かれた。失礼な話だ。いや当然か。いきなり性格の悪い女が料理をすると言い出したのだから。

 厨房はそこそこ広かった。エリスは厨房にまるで興味が無かったので、意外と広いのだなという感想であった。所々に料理器具が並んでいる。

 エリスは感づいていた。自分が見られている。使用人たちか出入り口で何人も覗き見している。


「エリス様、どうされたのかしら……?」


 使用人の一人が呟いた。エリスは舌打ちした。聞こえているぞ。


 買ってきた材料を厨房の机の上に並べたエリス。肉も野菜もある。料理する心境としてはなかなか楽しそうだという気持ちだった。意外である。

 これだけの材料があるのだから私には出来るはずだ。自信を持ってエリスは作業に取りかかった。


 しかし結果は思うようについてこなかった。一応食べる事は出来る。目の前の肉野菜炒め。だが使用人たちが作る料理と比べると段違いに不味い。とても人には食べさせられない。エリスの舌は肥えていた。

 何かが間違っているのだ。味付け。火の強さ。炒める順番……。

 どうしたらもっと上手く作れるだろうか?

 こういう時は自分より能力が高い者から意見を聞くべきだとエリスは思った。

 エリスの放つオーラで厨房からは人が消えていたが、こっそり陰で様子見している使用人達にエリスは早足で近づいた。

 使用人はビクッとした。怒られるのではないか。


「ねえ、私の作った炒めもの、食べて」


 エリスは使用人にそう言い放った。


「エ、エリス様の料理を食べてもいいのですか?」


「正直、あんまり美味しくないよ。あなた達の作る料理の方が、数段美味しい。格が違う」


 エリスは微笑している。使用人は死ぬほど驚いた。エリス、いやエリスに限らず使用人に対して料理が美味しいと告げる人物は少ないのだ。使用人は格が違うと言われて自分が認められた気持ちになって胸が熱くなった。本当に嬉しいと思った。


「エリス様のお願いなら!食べさせていただきます!」


 感激している使用人がエリスの差し出した白い皿を手に取った。そしてフォークを渡すエリス。

 使用人はフォークを持ちゆっくりと炒めものを食べ始めた。


「……」


「ね?不味いでしょ?」


「そ、そんなことは……」


「私を否定するの?」


 エリスは使用人を睨みつけた。こういった所で嘘をつかれるのは御免だ。


「い、いえ……」


「改善点を教えてほしい。上手くならなきゃいけないから」


「わ、私などで手伝えるのであれば!そうですね……塩分です。塩味がもう少しあれば、もっと美味しくなると思います。それに、料理は単品だけで勝負するものでもありません。複数のメニューで勝負するのが、美味しくなる近道だと思います」


「なるほど。助かるよ」


 エリスは意見に納得したように再び食材の前へと向かった。

 使用人は立ち尽くしている。

 エリス様、どうしちゃったのかしら?

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