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結婚するしかないんじゃないの?  作者: 夜乃 凛


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自分の驚く変化

 その日はエリスにとってとても良い日だった。ボランティアも捨てたものではない。両親に知られれば怒られるかもしれなかった。クラーレ家たるものが何をしているのかと。


 エリスは広い世界を知らなかった。自分と周りの者達だけで完結た閉ざされた世界で暮らしてきた。しかしボランティア活動によって少しだけ外の世界を知った。色々な人間のことを知らずに過ごしてきたのだ。

 色々な人間のことを知る価値があるのか。足枷になるのではないか?そう思う所もあるエリスであった。どれだけ他人を知っても自分の体は一つだ。出来ることは限られている。

 優しさ。エリスが少しだけそれを望み仮に手に入ったとして、そこには困惑が混ざる。優しさの価値とはなんだろうか。優しい人はそんなこと考えずに自然に優しく出来るのかもしれない。

 偽善。そんな言葉がエリスの頭をよぎった。

 今の所自分のしていることは偽善だと思った。感謝されこそすれ表面的な援助しかしていない。やはり自分には真の優しさなどないのだろう。


 ボランティアの撤収作業も終わりエリスは再び行きつけの酒場に顔を出した。相変わらず上品な店だ。客は途絶えない。繁盛しているのだろう。

 いつものようにカウンター席に座るエリス。少し疲れているかもしれない。

 店主がいつものように笑顔で出迎えてくれた。


「いつもの」


 エリスがいった。いつもこの一言だ。


「かしこまりました」


 店主は頷き酒をグラスに注いだ。エリスはぼんやりとその光景を見つめている。

 この店主は自分に優しいのではないか?と思った。いつでも話を聞いてくれる。不快にされたことがない。

 相談してみる価値があるかもしれない。この心のモヤモヤがなんなのか。


「ねえ、笑われるかもしれないけど、私、ボランティアに参加したのよ。疲れたわ」


「え?エリス様が?直接?」


「そう」


「そうでしたか……」


 店主は笑顔のままだった。何が可笑しいのか。


「エリス様、お変わりになられましたね」


「変わった?」


「なんというか、エリス様のいいところでもあるのですが、トゲ、というのでしょうか。そのトゲが、無くなっている気がします。何故ボランティアに参加されたのですか?」


 店主がいった。エリスは考え込んでしまった。

 何故だろう?ボランティアに参加した理由……。

 人の心がわかるようになりたかった?優しくなりたかった?

 自分らしくない自分の姿を見せられている気がした。


「偽善のためかな」


「それは、素晴らしいことですね」


「偽善だよ?」


「偽善は偽善でしょう。しかし偽善は人を救います。行動が全てです。口先の優しさもいいでしょう。しかし行動して人を助ける力は圧倒的です。エリス様は素晴らしいことをされたのですよ」


「そうかな……」


 エリスは髪を掻き上げた。たかが偽善なのに。

 しかしなかなか良いではないか。今日は褒められてばかりだ。

 褒められる。そんなことを嬉しく思うほど子供だったのだろうか。自分は。

 子供の頃から褒められない人間だった。それがエリスの人格を形成していた。

 エリスは注いでもらった酒を一気に飲み干した。


「美味いね。ありがとう」


 エリスは口にした。そして愕然とした。

 今、私、なんていった?

 ありがとう?

 何を言っているのか。金を払っているのだ。酒が美味いのは当たり前ではないか。

 なんでお礼なんて言ってるんだ?

 エリスは困惑した表情でピタリと動かなくなってしまった。

 店主はその様子を見て微笑みを浮かべていた。

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