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結婚するしかないんじゃないの?  作者: 夜乃 凛


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殴り返さない心

 エリス・クラーレを追い出したツヴァイ達。

 ツヴァイはフォトアとの正式な結婚の手続きをしようとしていた。

 急かもしれない。しかしツヴァイは自分の確信に間違いはないと思っていた。フォトアは素晴らしい女性だ。心が優しく芯の強い女性だ。


 神竜の天罰はエリスを打ちのめした。しかしまだ神竜の天罰が下っていない者がいる。

 エインセ・エーデンブルグ。許されざる裏切り者だとツヴァイは思っていた。フォトアは心優しい性格からか厳しく当たれないのであろう。フォトアはエインセに天罰が下ることを望まないかもしれない。

 しかしフォトアは確かに傷ついているはずだ。エリス・クラーレが単身乗り込んできたようにエインセも何かしてこないとは限らない。


 何故婚約者を簡単に捨てられるのか?

 ツヴァイには理解出来なかった。

 何故簡単に裏切れるのか。エインセの事を男ではないと思った。男の風上にもおけない。

 ツヴァイはエインセを追い込むとまではいかないまでも二度とフォトアに近づかないように手を打とうと思った。まずはフォトアに確認しようと決めた。エインセに対してなんらかの罰を与えなければと。


 フォトアはブリッジ家の自室にいた。

 舞踏会は夢のようだった。そのことをまだ思い出す。

 別れが、辛さが、悲しみがあった。しかしそれを乗り越えた先に幸せがあった。

 とても幸せな気持ちだった。

 誰を恨むでもない。

 幸せだった。

 自分はツヴァイの家に嫁いでブリッジ家とは離れるのだという実感が湧いてきた。

 慣れ親しんだブリッジ家。

 ここから離れることになるのだなと思った。

 そう思うと周りの景色がとても愛おしく思えた。

 感謝の気持ちがどんどん湧いてきた。

 ありがとうみんな。ありがとうお父様。

 ふと机の上を見る。そこにはツヴァイとの文通の跡が残っていた。

 手紙を手に取るフォトア。文通が二人を繋いでくれたのだ。


『フォトア様へ

私は昔酒場で腕相撲に負けたことがあります。

腕には自信がありました。

相手の男は小柄に見えたので腕相撲なら負けはしないと思ったものです。

ところが相手の男は凄まじい力で私の腕を倒しました。

人間は見た目によらないものだとその時痛感しました。

とても……悔しかったです。

お笑いになられますか?それもしょうがないでしょう。

腕相撲に負けるごときのことをまだ覚えているのです。

フォトアさんの気持ちが少しでも晴れますように。

                 ツヴァイ・ローレン』


『ツヴァイ様へ

こんにちは。いえ、笑いはしません。

いや……少し笑ってしまいました。子供みたいで、その、可愛いというか……。

ツヴァイさんは子供みたいなところがありますね。

もちろん馬鹿にしているわけではありません。

失礼……ツヴァイ様なら、馬鹿にしてるなんて思わないでしょうね。

腕相撲の話をしてくれたのは少しでも私の気が晴れるように、ということですね?

ありがとうございます。

本当に嬉しいです。

ツヴァイさんの話が好きです。

文通が趣味になってしまっているのを感じます。

もっと色々な話を聞かせてほしいです。

ワガママでごめんなさい。

                 フォトア・ブリッジ』


 ツヴァイは一応フォトアに会うことにした。エインセに鉄槌を下したかったがフォトアがどう思うかわからなかったからだ。

 白の礼服を着て靴も整えた。

 馬車に乗りブリッジ家へ。エリス・クラーレの事が頭に浮かんだ。もう十分懲らしめただろう。人の心がわからない人物だったのだろう……。


 馬車がガタガタと揺れる。その振動に身を委ねたままツヴァイは目的地へと近づいていた。

 ブリッジ家の周りは自然が豊かだと何度見ても思う。

 フォトアはツヴァイに付いてきて自然を懐かしむだろうか。結婚するのだ。フォトアには家を出てもらうことになる。

 しかし自然が周りに少なくなっても絶対に幸せにしてみせる。ツヴァイはそう思った。


 色々なことを思っているうちにツヴァイはブリッジ家に到着した。御者に礼を言って待機しているように命じた。

 ツヴァイはブリッジ家の館の中に入った。懐かしいような木の香りがする。入り口を抜けたら大広間に出る。大広間は空間を意識しているのか広さが二倍にも三倍にも感じられる。

 ツヴァイはそこで少し驚いた。目的のフォトアがすぐそこにいたからだ。白いワンピースを着ている。


「ツヴァイ様?」


 フォトアが慌てている。手に何か桶を持っている。水が入っていた。


「ツヴァイで構いませんよ」


「う、いや、舞踏会の時は、その、夢に包まれているようで、呼び捨てに……」


「結婚するのです。ツヴァイで良い」


「……ツヴァイ。私のこともフォトアと呼んでください」


 二人は照れていた。

 運命が二人を引き寄せたのか?

 二人ともお互いを呼び捨てにする時が来る未来など想像もしていなかった。


「……それで。何の用ですか、ツヴァイ?」


 フォトアがまだ照れながらいった。


「エインセ・エーデンブルグのことです。エリス・クラーレには釘を刺しておきました。エインセを罰することも可能です。ただ、その前にフォトアの意見が聞きたかった」


 フォトアはエインセの名前を聞き少し俯いた。しばらくそのままのフォトア。


「……罰する必要は、ないと思います」


「何故?あれだけの酷い仕打ちを受けたのです。これからだって何かするかもしれない」


 ツヴァイはいった。

 フォトアはどこか遠くを見るような目をしていた。

 そして首を振った。


「復讐に意味があるとは思えないのです。たしかに、エインセは酷いことを私にしました。でも、殴られても殴り返していたら、一生殴られた方も不幸になる気がするのです。世の中は理不尽です。理不尽だからこそ、殴られても酷いことをされても悔しさを相手にぶつけるのではなく、自分、家族、恋人、友人で、対処しなければいけない気がするのです。エインセの事は嫌いになりました。しかし復讐する気にはならないのです」


 フォトアは真剣な表情だった。

 その顔に、言葉にツヴァイは心を打たれた。

 強い。フォトアの心は強い。


「それにそんな時間があれば、その……あなたとお茶を飲んで楽しく過ごしたい。ツヴァイ」


 フォトアは笑顔に戻りいった。

 表情がとてもよく変わる。

 ツヴァイは思った。これからこの女性の影響を自分はたくさん受けるのだろうなと。幸せだと。


「わかりました、フォトア。お茶にしますか?」


 ツヴァイがフォトアに近づいた。


「是非。お水を運び終わったら……ツヴァイ」


 フォトアは一旦桶を床に置きツヴァイにキスをした。

 黄金の蝶が二人の真上をひらひらと舞っていた。

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