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結婚するしかないんじゃないの?  作者: 夜乃 凛


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ざまぁ見やがれ

 後日。舞踏会も終わり招かれた客たちも日常へと戻った。参加していた貴族たちの間ではツヴァイとフォトアの噂で持ち切りだった。


 そんな中エリス・クラーレは青ざめた顔で自室の椅子に座り込んでいた。

 短い銀髪に白の装束。右手に手紙を持っている。

 舞踏会場では本心を見せた上にフォトアに噛み付いてしまった。後悔はしていなかった。というよりも自分が悪いということに気がついてすらいない。

持っている手紙の内容。


『エリス・クラーレの行ったあらゆる侮辱を許さない』


 ツヴァイの直筆である。この事が両親に知られてはいけない。だがローレン家が本気になればすぐにバレる……。

エインセとも連絡を取っていない。エリスはエインセを捨てた。


 どうする……?

 エリスはしばし考え込んだ。

 止まってはいられない。自分の言動がバレる。

 そしてどんどんツヴァイに対する敵意がこみ上げてきた。なんだあの男は。フォトアごときのどこが良いのか。何故ブリッジ家ごときがローレン家に気に入られるのか。

 気に食わない。

 理解出来ない。

 エリスは一切反省していなかった。人間は窮地に陥ったら周りが見えなくなるものなのだ。

 もっともエリスの場合は窮地でなくても周りの人の心を思いやることはない。家柄の問題などではないのだがそんな事にもエリスは気づかない。

 エリスは思った。自分は間違っていない。自分は優秀だ。ツヴァイはエリスの才能に気がついていないだけだ。

 料理など出来て何になる?

 エリスは使用人たちの作った料理を床に投げることもあった。

 こんな不味い物を出すなどどうかしていると。そして自分では料理はしない。


 エリスはローレン家に直接押しかける事を選択した。

 直接出向いて見返すのだ。特技を披露するのだ。

 軽くあしらわれた事が気に入らなかった。クラーレ家の優秀さを見せつけるのだ。そして心のなかで思うのだ。ざまぁみろ、私は優秀なのだと。

 エリスは手に持っていた手紙を机に叩きつけると外出の支度をし始めた。

 絶対にわからせてやる。絶対に……!



「その汚い顔を二度と見せるなと言ったはずだが」


 ツヴァイがエリスを睨んでいる。エリスは単身ローレン家に乗り込んだのだ。恐るべき行動力である。その力のほんの一部でも優しさに使えたら良いのに。

 そして恐ろしい鈍感さである。暴言を吐いておいてなおも執着してくるのである。


 ツヴァイはエリスの訪問を知りローレン家の稽古場にいた。稽古場には藁が敷き詰められており練習用の剣が壁際にたくさん並んでいる。鎧などもあるが使っている者は少ないように思える。

 ツヴァイはエリスが訪問する前にナイラー少年を稽古場に呼んでいた。ナイラーは飾り気のない白いシャツを着ていて健康そうだった。


 そしてエリスが来て今ツヴァイとナイラーは並んでいる。エリスと二人の周りにローレン家の者達がいて、興味深そうにツヴァイ達を見ている。


「私には才能がある!無能とは違う!優秀な特技です!この前の屈辱は許さない……!」


 エリスが叫ぶ。

 実際剣が使えるということは何も出来ないよりマシなのだが戦いは集団戦である。エリスのような指揮官がいればむしろ負ける確率が上がるように思われた。


「そうか。ならば、剣での決闘にお前が勝てばこの前の暴言は見逃してやろう」


 ツヴァイが高圧的な態度でいった。フォトアに対するエリスの言葉が酷かったので高圧的になるのも無理はない。


 エリスはいざツヴァイを目の前にすると怖気づいた。

ツヴァイの実力は知らないがローレン家の主として優秀な教育を受けているはずだ。そもそも体つきや動きに無駄がない。負けたらみじめな思いを……。


「ナイラー君。エリス・クラーレの決闘の相手を頼む。エリス・クラーレ。ナイラーと戦ってもらう」


 ツヴァイは隣に並んでいたナイラーの肩を叩いた。


「は?」


 エリスは口を開けた。


「お前の相手をするのはこの少年だ」


「……は?」


 エリスは事態が飲み込めてきて手を強く握った。完全に舐められている。目の前のクソガキが決闘の相手をすると言っている。ツヴァイは戦う気すらない。

 周りのローレン家の者達が笑っている。


「ふざけんな!!」


 エリスが大声で叫んだ。


「ふざけてなどいない。ナイラー君に勝てる自信が無いのか?」


「勝てるに決まってるだろ!相手にならない!」


「ナイラー君に勝てばお前に得はあるのだぞ。勝てるなら戦えばいい」


「ぐ……」


 エリスは口籠った。たしかにこのクソガキを倒せばフォトアへの暴言は帳消しになるはずだ。約束は守るはず。

 エリスは思った。落ち着け。相手は自分を甘く見ている。このクソガキを捻り潰せば、自分の得になるのだ。最近剣は触っていないが自分の人生で一番多くの時間を捧げた剣だ。


「……わかりましたわ。坊や、お相手願います」


 エリスは呼吸を落ち着けた。

 落ち着くのだ。さっさと勝ってしまえばいい。



 エリスとナイラーは模擬戦の剣をお互いに右手に握り向かい合った。

 お互いの距離は五メートルほどだ。

 ツヴァイが審判をするように両者を見ている。


「剣を地面に落とした方の負け。相手に怪我はさせるな。では……開始!」


 ツヴァイの掛け声と共にエリスは一気にナイラーに接近した。

 どうということはない。一撃の重みで剣を落下させればいい。

 エリスが剣を真上から振るった。剣技が特技と言う通り綺麗な剣筋だった。

 だがその剣はナイラーの剣に簡単に弾かれてしまった。後退するエリス。ナイラーはまだ剣を手に持っている。

 エリスは驚いた。まぐれか……?ならばもう一度……。

 再びエリスがナイラーに近づきナイラーの剣の根本を狙った。

 狙い通りエリスの剣は直撃した。しかしナイラーが剣を落とさない。握力がある。

 エリスはそれに続いて何度もナイラーへ剣へ攻撃を繰り返した。

 しかし全てナイラーが受け流している。ナイラーがエリスの動きを完全に見切っている。


「このガキ……!」


 エリスは肩で息をしながら忌々しげにナイラーを見た。ツヴァイは真剣な表情で二人を見ている。


「フォトアさんに酷いこと言うやつは許さない」


 ナイラーは構えを変えた。

 東洋の居合の構えに近い。

 そして周りの見学者がいった。

「お嬢ちゃん、諦めたほうがいいんじゃないの?」

 その声はエリスに届いた。

 周りの者全員に笑われているとエリスは思った。


「ふざけんな!!」


 エリスは怒りに任せてナイラーに飛びかかった。

 ナイラーの目から見れば隙だらけの動き。

 一瞬の振り抜き。

 エリスの隙だらけの動きを読み切ったナイラーはエリスの剣を叩き落とした。

 剣が地面に落ちる音。

 硬直。

 静寂。

「勝負あったな。ナイラーの勝ちだ。エリス・クラーレ、異論はあるか?」


「……ぐ……」


 エリスは顔を真っ赤にしている。負けるわけない。負けるわけない。確かに剣の練習は怠っていたが自分の一番得意な……。負けるわけがない。


「恥の上塗りはやめて家に帰ったらどうだ?」


 ツヴァイがエリスの肩をポンと叩いた。

 おとぎ話の神竜。

 悪しき者に裁きが下る。


「バカにしやがって……!」


 エリスは自分が落とした剣を蹴り飛ばすと小走りで稽古場から出ていった。


 ナイラーは市場で大男に絡まれていた時に剣を持っていなかったから対応出来なかったが、少年とは思えない剣の技の持ち主だった。ツヴァイの方が実力は上だが将来はナイラーがツヴァイを超えるとツヴァイは評価していた。


「フォトアさんを守らないとね」


 ナイラーは笑顔でツヴァイを見た。

 フッとツヴァイが笑みを浮かべて頷いた。


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