無様
ツヴァイは踊りの間でずっと待っていた。
勿論ただ立っているだけではなく貴族たちと話もしたが上の空だった。
フォトアの遅刻はツヴァイ側の落ち度だ。フォトアは悪くない。
そこにエインセとエリスがやってきた。
エリスの紫のドレスに対しエインセは青い礼服。彼はそれを好む。
「なにか?」
ツヴァイは二人に対応した。話したくもなかったが。
「ツヴァイ様、私達今後も良い関係をローレン家と築ければ良いと思っていて……」
エリスが作り物の笑顔で話を進める。
今後とも良い関係でいましょう。仲良くしましょう。
私達を可愛がってください。
そんなエリスの意図。
「大切な方って、誰なんですの?さぞ、美しい女性なのだと察しますが……」
エリスが探りを入れた。もしかしたら私の方が優秀かもしれないと。
しかしツヴァイの耳はそれを聞き流していた。
足が動く。建物の入り口へ一歩。
「ツヴァイ様?」
不思議に思うエインセ。
一人の女性が小走りにツヴァイへと近づいている。
ツヴァイは顔に笑顔を浮かべていた。本物の。
「フォトアさん!」
ツヴァイも歩み寄りフォトアもツヴァイの傍に来た。
エインセとエリスは心底驚いた。まったく状況が理解出来なかった。
何故?それしかない。
ツヴァイはフォトアの手を取りエインセとエリスの方を向いた。
「この方が大切な女性。フォトア・ブリッジ嬢です」
ツヴァイがエインセとエリスを鋭い目で見た。
「あなた達、いや……お前たちが傷つけた大切な女性だ」
ツヴァイの口調が鋭くなった。
エインセとエリスは凍りついた。
わからない。わからないがツヴァイとフォトアが知り合いなのはわかった。
自分たちがしてきたことも、おそらくツヴァイに知られて……。
「エインセ・エーデンブルグ。エリス・クラーレ。二度とその汚い顔を私に見せるな。エーデンブルグ家もクラーレ家もどうでもいい。好きにすればいい。だが、またフォトアさんを傷つけてみろ。その時は容赦はしない」
淡々と告げるツヴァイ。真剣だった。
「ま、待ってください!何か、誤解をなされて……私フォトアさんのことはよく知っていますのよ。大層美しい女性で将来は有望だと思っていましたわ。器量も良いし……エインセの婚約者だったのですが、正直エインセがフォトアさんの事を見捨てるのは勿体ないと思っていましたわ」
凍りついたままのエインセを隣にエリスが語る。
嘘でもいい。この場を乗り切らないとローレン家に見放される。
その時、フォトアはツヴァイに寄り添いエリスを見ていた。
その視線がエリスを激昂させた。
怒りでもない。しかしどこか悲しいような目でエリスを見ていたからだ。
「口だけは達者のようだな」
ツヴァイは無表情。
「……フォトア!!あんた、どんな手を使ったのよ!あんたがローレン家に気に入られるなんてあり得ない!この女……!」
エリスが本性を見せた。ツヴァイが守るようにフォトアの前に出る。
「ローレン家、ローレン家とうるさい。私は、ツヴァイは一人の男としてフォトアさんを認めているのだ」
「なにを……そんな女のどこが良いっていうの!?鈍臭いし役立たず!才能もない!無能が……!!」
「それ以上言ってみろ」
ツヴァイは怒りの表情を見せた。ツヴァイがこんなに怒ることはなかった。
周りの者達も何事かとフォトアたちの方を見ていた。
エリスはツヴァイの放つ威圧感に押された。エインセのことも裏切ったエリス。
ツヴァイの威圧感。フォトアの悲しむような目。
「……ちくしょう!!ちくしょう!!」
エリスはツヴァイに背を向けて走って逃げた。
惨めだった。
誰もが何をしているんだと困惑していた。




