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結婚するしかないんじゃないの?  作者: 夜乃 凛


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興味なし

 舞踏会の日がやってきた。フォトアは早起きをしていた。緊張していないといえば嘘になる。

 だがツヴァイと踊れるという喜びと希望は緊張を上回っていた。必死に練習もした。

 部屋の鏡の前で自分を見つめるフォトア。

 深呼吸をし着替えをすることにした。

 ツヴァイに買ってもらった緑色の服に着替える。

 そしてもう一度鏡を見た。

 派手ではないかもしれない。

 だがフォトアはその服を着るだけで身が軽くなった気がした。

 人生が不思議だ。エインセに裏切られ絶望したかと思えば運命的な出会いがあったりする。

 しっかりと踊るのだ。そして想いをツヴァイに告げよう。

 しかし少し早起きしすぎたかもしれない。フォトアの想いが強かったからかもしれない。

 ツヴァイが好きだ。

 その気持ちだけは誰にも負けたりしない。


 ローレン家に行く道のりは馬車に乗ることになっていた。ローレン家から迎えが来る。

 フォトアは朝食を済ませねばと食堂に向かった。まだ食堂に人気はなかった。しかし父のエミールが白髪を輝かせ椅子に座っているのが見えた。

 その姿を見つけ近づくフォトア。


「おはようございます、お父様」


「おはようフォトア。その服、よく似合っているね」


「ツヴァイ様が買ってくれたのです」


「そうか……今日は思う存分やってきなさい。大丈夫、フォトアの踊りは上手だ。悔いのないように」


「……はい!お父さん」


「一緒にご飯を食べよう」


「はい」


 エミールと共に食事をするため厨房へとフォトアは向かった。

 エミールはいつでもフォトアの味方だった。

 恵まれているとフォトアは思った。

 ありがとう、お父さん。



 ローレン家にて。


「あー、こりゃ修理しなきゃダメだな」


 一人の男が馬車のカゴを見ている。カゴに問題はないが馬車の後ろ側の車輪が壊れているのだ。もう一人男がいて、その人物は手綱を握っていた。


「故障だよなぁ……どうしよう、ブリッジ家に行かないといけないのに」


「他の馬車を使うか……?」


「ツヴァイ様に頼まれたから、遅れるわけにもいけないんだけど……他に馬車、余ってたっけ?」


「今日は舞踏会参加者の送迎があるから、もう馬車はいないかもしれないな。一応聞いてみるか」


「じゃあやっぱ修理か……どれくらいかかる?」


「半日はかからない。部品があるからな。今すぐ取りかかるか。お前は誰かブリッジ家に行けないか聞いてきてくれ」


「頼む」


 カゴを見ていた男は倉庫へ向かった。ツヴァイの頼みなのだ。男は早足で部品を取りに行った。



 エーデンブルグ家とクラーレ家には馬車が無事到着した。エインセとエリスは別行動である。

 別行動ながらも二人の立ち振舞いは同じだった。馬車が来てなんの感謝もせずに乗り込み、早く到着するようにと御者に命令した。当然の権利であるとでも言うように。

御者は内心不機嫌だったが、仕事だからと淡々と馬車を走らせた。


 エリスの目は輝いていた。

 もうすぐ、もうすぐチャンスが訪れる。ツヴァイと上手く行けばエインセとの婚約を破棄しても権力でねじ伏せられるだろう。

 もしかしたら、もしかするかもしれない……。

 人生の勝者になれる。今でも十分勝っているとは思うがまだ足りない。

 もっと、もっと。権力が欲しい。良い男が欲しい。

 私は勝つために生まれてきた。


 エリスの目は輝きながらもその本質は濁って見えた。


 ローレン家の一端。領地の中に大きな建物がある。その建物は城の容貌をしていた。青い屋根に白い壁。その周りには緑が茂っている。その城に舞踏会に参加する者たちが集まるのだ。

 様々な意図が絡み合う舞踏会。踊りは主役ではない。幾つもの貴族たちが己の名を売るために、他人に自分を知ってもらうために訪れる。勿論中には踊りを純粋に楽しむ者もいる。

 だがそれはやはり少数だ。貴族のご機嫌取りのなんと多いことか。


 ツヴァイは元々は舞踏会は得意ではなかった。色々な者が近づいてくる。情報量が多いし楽しいとも思えなかった。しかし踊りの練習はした。周りに合わせるのも礼儀だと思ったからだ。

 そしてなんと今はツヴァイは舞踏会を楽しみに思っている。フォトアの存在。それがとても大きかった。きっとフォトアは踊りは苦手だろうとツヴァイは思っていた。フォトアを自分がリードしてやらねばならない。踊りを楽しみにしている自分に気づきツヴァイは苦笑した。


 ツヴァイは城の中で待機していた。踊りの間である。敷き詰められた黒の絨毯は質がよく踊りに向いているように思われた。日差しが入らないためほのかに暗いが、オレンジ色の灯火が部屋を照らしている。スペースは広い。この漆黒の間で踊りを踊るのだ。


 招待客には馬車の手配をした。自前の馬車がある貴族も勿論いるが、ローレン家が手配するということに意味がある。迎えに来てくれるというのは悪い気はしないものだ。それが客に対する礼儀だとツヴァイは思っていた。


 段々と貴族達が踊りの間に入ってくる。

 ツヴァイは到着した貴族達と挨拶を交わし雑談を始めた。今年の穀物、国外の情勢、貴族の内情など……。どの貴族も長話をしたがる。お喋りなのかもしれないしツヴァイに取り入りたいのかもしれなかった。話をする相手に申し訳ないとは思いつつも、ツヴァイは早くフォトアが来ないかと気になっていた。あの服を着たフォトアはきっと輝いて見えるだろう。無論いつでも輝いているのだが。

 ブリッジ家には一番最初に馬車を手配した。待ち遠しかったからだ。フォトアが早めに着いても良さそうなものだが……。


 そう思っていてもなかなかフォトアは来なかった。

 代わりに現れたのがクラーレ家。エリス・クラーレ。短い銀髪をピンで止め紫色のドレスを着ている。露出が多かった。そして装飾品を相変わらず大量に付けている。

 紫のエリスはツヴァイの元に颯爽と駆け寄ってきた。


「ごきげんよう。ツヴァイ・ローレン様」


「こんにちは」


「あら、元気が無さそうに見えますね。折角の男前が、台無しですよ」


 エリスは妖しげな笑みを浮かべている。ツヴァイの心の中には一文字しかなかった。

 敵。

 フォトアを傷つけた……!


「忙しいものでして」


「それはそうでしょう。何と言っても、誉れ有るローレン家の主なのですから……私と、踊っていただけませんか?」


 ツヴァイに体を擦り寄せてくるエリス。

 ツヴァイは察した。この女は自分に取り入ろうとしていると。エリス・クラーレには、エインセ・エーデンブルグがいるはず。

 ……この女は。


「今は、少し難しいですね。また後ほど」


 ツヴァイは踊りの誘いを断った。蛇のように絡みついてくるエリス・クラーレ。

 早くフォトアに会いたかった。フォトアに会いたいと思う自分を弱いと自認する。

 いつからあの女性はここまで心の中に……。

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