祈り舞うこと蝶のごとし
そうしてそれからまた日は過ぎていった。
ついに舞踏会の前日の日になった。
フォトアは舞踏会に向けて踊りの練習をしていた。毎日。毎日。
父エミールはそれを温かく見守っていた。全力でやりなさいと応援してくれた。
フォトアに自信はなかった。
だがツヴァイの事を真剣に好きだと言える気持ちはあると断言出来た。
ツヴァイの前でかっこ悪いところを見せたくない。
フォトアの踊りは見る見るうちに上達していった。
恋は盲目だ。
エインセに裏切られたこともエリスに悪口を言われたことも忘れて必死に踊りに取り組んだ。
ただ練習のみを積み重ねた。
稽古場にはブリッジ家の外れの小屋を使っていた。その小屋には壁一面を埋めるほどの大きな鏡があるのでそれを使った。昔は踊りを踊る者が多かったらしくその名残らしい。
休憩で床に座り込んでいるフォトア。
自室に大切に保管している緑の服を思い浮かべる。
あの服を着て大切な人と踊るのだ。
また傷つくことになるかもしれない。
でも当たってみなければわからない。
勇気を出さなければ何も変わらない。
今。そう、ツヴァイが言っていた今。
今この瞬間ツヴァイの事が好きだという自分の気持ちを信じるのだ。
フォトアは鏡を見た。気合を入れ直す。
その姿は凛々しく前よりも強くなったように見えた。
別所にて。エインセ・エーデンブルグとエリス・クラーレは食事をしていた。
白いテーブルクロスに置かれたグラスに紫色の液体が入っている。
「いよいよ明日は舞踏会ね」
エリスがグラスを手に取り液体を口に流し込む。
「そうだね。ローレン家に取り入る最大のチャンスだ。しかし……この間、偶然ツヴァイ氏に会えたのは幸運だったね。友好的な態度だったし、さらに近づけるかもしれない」
エインセは笑顔を見せている。
エリスはグラスを置いた。微笑しながらエインセを見ている。
今のエリスにとってエインセは保険。
本命はツヴァイ・ローレンだ。
ツヴァイの事がなかなか頭から離れない。
やはり容貌は大事だ。エインセも悪くないがツヴァイの見た目はエリスを虜にした。
「しかし、最近剣技の練習はしてないみたいだけど大丈夫なのかい?」
エインセは尋ねた。そう、エリスが最近剣に触っているのを見たことがない。
「そうね。私には才能があるから、問題ないわ。剣は自分の体の一部みたいな物だもの。才能ってやつかしら」
「僕にもそんな才能が欲しかったな」
二人は笑った。
テーブルの上のグラスが空になった。
「流石にこれ以上飲むわけにはいかないわね。明日があるのだから……」
エリスは言った。
「そうだね。明日に備えよう。ああ、楽しみだ……エリス、もちろん僕と踊ってもらうけど、隙を見てツヴァイ氏と踊ったほうがいい」
エインセが意見した。
そんな事言われなくても踊るわよとエリスは心の中で思った。
「そうするわ」
「我々の権力と未来に、乾杯」
エインセは空のグラスを振ってみせた。
エリスは微笑み同じく空のグラスを振ってみせた。




