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結婚するしかないんじゃないの?  作者: 夜乃 凛


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一番大事にしなきゃいけないもの?

 フォトアはツヴァイと共にローレン家に来ていた。ツヴァイに私の家を見てもらいたいと言われたからフォトアは来た。最初の頃のフォトアなら断っていただろう。

 だが今は違う。フォトアはツヴァイのことをもっと知りたかった。


 フォトアがまず驚いたのは領地の広さだった。ブリッジ家も農作で生活しているため畑などの私有地が多かったが、ローレン家の領地はそれ並かそれ以上。

ツヴァイの話によるとその土地には建物が建てられ、外交、貿易、警備軍など様々な部署が点々と存在しているらしい。


 ローレン家の領地に入る前に大門があった。

 大きな黒い柵が存在感を持って地面に突き刺さっていた。黒い柵を白い煉瓦が覆っている。そして大門の前に二人の人物が見えた。男だ。二人ともまったく同じ格好をしている。鎖で出来た服の上に赤い布の服を着ている。

片方の男は座りながら本を読み、もう片方の男は立ちながら寝ていた。

「ご苦労」

 ツヴァイはフォトアを連れて男たちに声をかけた。


「ん?ああ!ツヴァイ様、申し訳ありません。読書していました」


「何を読んでいた?」


「最近流行りの詩ですよ。読みますか?」


「今度な」


 ツヴァイは男と楽しそうに話している。まるで親しい友人のようだった。

ツヴァイは家柄から硬い人物に見られるがこういう人物なのだ。部下を信頼している。それ故に人望が厚い。これがローレン家の長所なのだ。

 もう一人の寝ていた男が目を覚ました。

 フォトアの方を見た男。少し目を見開いた気がする。


「そちらのお嬢さんは?」


「私の大切な客人だ」


 答えるツヴァイ。ドキリとするフォトア。大切な……。

 二人の男たちは驚いたような顔でお互いを見た。


「ここは任せる。任務ご苦労」


 ツヴァイはそう言うとフォトアを連れて大門をくぐり抜けた。



 去っていってしまったツヴァイとフォトアがいなくなり男たちは話した。


「ツヴァイ様が女を連れてくることなんて、あったっけ?」


「……ない」


 男たちは呆気にとられていた。



 ツヴァイはフォトアを連れて先を歩いていた。

 フォトアはきょろきょろと辺りを見回す。建物が多い。茶色い建物が立ち並びそのいずれもが風格を感じさせた。

 鳥が鳴いている。平和である。


「会ってほしい人がいるのです」


 急に切り出すツヴァイ。


「会ってほしい人?どなたですか……?」


「私の父、ウルフ・ローレンです」


「え、お父様、ですか?」


 フォトアは背がしゃきっと伸びた。驚いたのだ。


「そうです。是非、父に会っていただきたい」


「ええと……もちろん、会いますが……会ってどうするのですか?」


「会うだけでいいんです」


 ツヴァイは歩きながら言った。

 フォトアは疑問だった。ツヴァイの父に会えるのは嬉しい。しかし何故会うことになるのだろうか。疑問が残る。


 ローレン家の大門の中は広かった。歩いているといい運動になるほどだ。

 ツヴァイは二人の正面に見える一番大きな屋敷ではなく、そこから左方向にある小さな母屋に向かった。


 緑色に塗られた小屋が見える。ツヴァイはそこに向かって歩いている。フォトアは後に続く。


「あの小屋で父が暮らしています」


「正面にあった、一番大きな館にいらっしゃるのではないのですか?」


「そうであると、嬉しいのですが……自分は引退したからという理由で、頑なに屋敷にいることを拒むのです」


 ツヴァイは苦笑した。



 そうして小屋の目の前まで来た二人。やはり緑一色の建物だ。ツヴァイがドアをノックした。

 返事を待つ。


「誰だ?」


 小屋の中から大きな声が響いた。よく聞こえる声だった。


「父上、ツヴァイです!」


「入れ!」


 その言葉を聞きツヴァイは小屋のドアを開けた。フォトアは迷ったがツヴァイが手招きするので中に入った。

 小屋の中は綺麗に片付いていた。

窓があり日差しが入ってきている。右手に水洗い場がある。幾つかの食器が置かれたままになっていた。中央に丸いテーブル。木製のもので高価そうには見えない。そして左手にベッドがあった。そのベッドの上で一人の男が体を起こしている。

 その男こそウルフ・ローレン。ツヴァイの父である。白髪で髪が長い。顎髭も長い。まるで物語に出てくる賢者のようだ。茶色い服を着ている。服は年季が入っているのか艶がない。


「何の用だ?」


 ウルフが短く尋ねた。あまり話をする様子には見えない。不機嫌にも見える。

 フォトアを視界に捉えたウルフの目が瞬きした。


「その女性は?」


「その話がしたかったのです。この女性……ブリッジ家の方です。フォトア・ブリッジです。この方に是非舞踏会に来てもらいたいと思っています」


「ふむ……お前がそんなことを言うとはな……ブリッジ家か……私はあの家は気に入っている」


 ウルフは無表情のままフォトアを見つめた。

 フォトアの青い瞳が映る。

 フォトアは見つめられたので緊張してしまった。


「一つ質問をしよう。お嬢さん、人間に一番必要なものは何だと思う?」


 ウルフはゆっくりと喋った。


「一番、ですか……?」


 フォトアは戸惑った。

 一番必要なもの……。

 誇り、愛、優しさ……。

 フォトアはしばし考え抜き正直に答えた。


「お金です」


 言い切ったフォトア。

 それを聞いたウルフとツヴァイは硬直した。そして吹き出してしまった。


「フォトアさん、やはりあなたは素晴らしい」


「ツヴァイよ、なかなか良き娘に恵まれたようだな。見せかけの、愛だとか、友情だとか、人によく見られようと発言する女はたくさん見てきた。だが、貴女……フォトア嬢か。現実的で、素直だ。迷いがない」


 ウルフは先程までの無表情と違い笑顔になっている。


「し、しかし、そうは答えましたが、愛も必要なものだと思います」


 フォトアは慌てている。

 その様子が可笑しくウルフとツヴァイはまた笑った。


「フォトアさんに、是非舞踏会に来てもらいなさい。許可する。ツヴァイ、失礼のないようにな」


「ありがとうございます、父上」


 ツヴァイは頭を下げた。

 フォトアも慌てて頭を下げる。


 こうしてフォトアの舞踏会への正式な参加が決まった。

 フォトアはとても幸せで、きっと運命が助けてくれているのだと思っていた。

 自分の性格が幸せを引き寄せているとは考えもしなかった。


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