永遠に続くかもしれない、そうかもしれない瞬間
結局緑色の服を買って二人は店を出た。ツヴァイの服はすぐに決まった。彼には白が似合うとフォトアが進言したのだ。
まだ外は明るい。二人は白い路地を歩いている。何度か人とすれ違った。
フォトアはこれで良いのだろうかと思いながらも、ツヴァイに甘えることにした。あまり断ってばかりでも失礼だと思ったからだ。
胸が高鳴る。
舞踏会でツヴァイと共に踊る。それはあまり想像できなくて、まだ当日でもないのに緊張した。
踊りはそんなに得意ではなかったフォトア。
それでも一生懸命踊るつもりでいた。
ツヴァイは恩人だ。そしてかけがえのない人だ。
恥じぬように精一杯踊るだけだ。
思えばこんなに運命的な出会いをしたことは人生で無かった。ブリッジ家での暮らしは幸せだった。若干世間ずれしているなと思っていたフォトアだったがそんなことはどうでもよかった。豊かな自然に囲まれ成長できたことを誇りに思っていた。
そして幸せな今。
エインセに裏切られたときは想像もしなかった今。
ツヴァイに恋をしている。
ころころと男性を変える女なのかもしれない。
それでもいい。何を言われてもいい。
目の前のツヴァイと一緒にいられればそれでいい。
正直に自分の気持ちをぶつけるつもりだ。
舞踏会で……。
「ツヴァイ様」
歩みを止めるフォトア。ツヴァイが振り返る。
「どうしました?」
止まる二人の足並み。白い建物の間にある路地。辺りに人はいない。
「舞踏会で、大切なお話があります」
フォトアのその言葉は簡単に出たようで、フォトアにとってはとても勇気のいる言葉だった。
もう少し文通をして様子を見ることも出来た。
しかし舞踏会という催しが運命的なものに感じられたのだ。フォトアは舞踏会でツヴァイに自分の気持ちを伝えるつもりだった。
「わかりました。今、深くは聞きません。私も、舞踏会であなたに伝えたい事があります」
ぎこちないフォトアとは対照的にツヴァイはすらすらと話す。
そしておもむろにフォトアの片手を握った。
「手を繋いで歩いてもいいですか?」
微笑むツヴァイ。
「……もう、繋いでいるではないですか」
フォトアは顔を赤くして俯いた。
幸せだ。
くすぐったい。
この時間が永遠に続けばいいのに。
願い。
「歩調は合わせます」
ツヴァイは右手でフォトアの左手を握ったまま歩き出す。
歩調は合っているけど、きっとこの鼓動の速さだけは合っていないだろうなとフォトアは思った。
空は明るく鳥が飛んでいた。鳥を見ようとして上を見上げ、太陽が眩しかった。
道端に花が咲いている。小さな実を実らせて。
路地の石畳が光を反射している。
美しい世界だ。この美しい世界をツヴァイと共に歩いていきたかった。
「はあ……」
エリス・クラーレはため息をついていた。場所はクラーレ家の庭。クラーレ家には多くの武具が飾られているが庭は緑ばかりだ。散策出来る道もある。緑に覆われた庭のベンチに座り上を向いていた。
エリスのため息の理由はツヴァイだ。ローレン家の主。男前だとは聞いていた。
だが実際に会ってみると、もちろん力強そうで繊細な顔立ちだった……。
エインセとツヴァイを比較した。ツヴァイの方が優れている。
冷酷な比較。冷静な比較。自分の婚約者すら見下すエリス。
エインセのことなど放って置いてツヴァイに舞踏会でアピール……。
いや、安全を考えればやはりエインセで……。そんなことをエリスは思っていた。
ツヴァイの顔が頭から離れない。
ツヴァイはエリス達に対して好意的なように見えた。笑顔も見せていたのだし。初対面であんなに好意的とは、もしや私の美貌に惹かれて……?
だとしたらいけるかもしれない。自分には美貌だけではなく剣技の才もあるのだ。
短い銀髪を掻き上げるエリス。
ツヴァイ・ローレンは未婚のはずだ。
エリス・ローレン……。
自分の発想に思わす笑うエリス。完全に調子に乗っていた。しかしエリスはそれに気づかない。
人生は順調。
人を傷つけることに躊躇いもない。
市場でのフォトアの顔を思い出す。真っ青で何も言えない弱虫女。あれで貴族などとは笑わせる。自分やエインセ、ツヴァイ・ローレンのような者こそが貴族なのだ。エリスは笑った。
フォトア・ブリッジ。ローレン家の使用人として働いたら面白いのに。そうしたらひたすらいじめ抜いてやるのに。
ああ、いけない。私はエーデンブルグ家に行くのだから……。想像が過ぎた。そもそもフォトアなどがローレン家に足を踏み入れることすらあり得ないことだ。
フォトアはほこりのようなもの。ほこりを好んで家の中に入れる者がいるだろうか?いや、いない。惨めったらしく生きていけばよいのよ、フォトア・ブリッジ……。




