少年28号
今日の黒楓は“黒い”です(^^;)
もちろん家庭調査書で確認はしていたけど、指定された日時に家庭訪問しても彼一人だった。
「オフクロはいつもいい加減だから……オレは『やっぱり』って思うだけなんだけど……ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございません。」
謝りながら私にお茶を出してくれる彼に
「いいのよ、そんな事! 一人であなたを育ててらっしゃるんだもの 色々ご苦労がおありになるのは分かるし……」と言葉を掛けると、彼は僅かに首を傾げた。
「どうしたの?」
「うん」
「先生、怒ったりしないから」
「……うん」
「お母様に……何かあったの?」
抑揚にも神経を傾けて、彼の前にそっと言葉を置くと彼は俯きながらポツリポツリと語り出す。
「オフクロ……今日は昼まで寝てたはずなんだ。昼休みに電話したら寝ぼけて生返事だったから……店の出勤は8時半なんだから、6時には家に居れる筈なのに……」
「急な用事でお出かけになられたのよ」
そう言うと彼はキッ!と視線を上げ吐き捨てた。
「オレに言わない急用なんて!!デートか同伴だよ!!」
その言葉で充分だった。
とうとう理想の男の子に巡り会えたと分かった!!
『賢く綺麗な顔立ちをしているけど、“愛”と“経済的”には恵まれていない子』
この“理想の男の子”を見つけ出す為に、私は公立中学校の教師を目指したのだ!!
「それが事実だとしても……それはあなたを育てる為の事!! お母様の事を嫌いになってはダメよ!!」
私は彼と母親の関係をスポイルする為にわざと母親を擁護し、彼のポッカリ空いた心の穴に潜り込むべく、何度となく繰り返したシュミレーション通りにレバニラ炒めと豚汁を手早く作ってみせ、胃袋から彼を掌握していった。
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予定通り彼は入試直前に天涯孤独の身となり、私は元保護司だった(今はその頃の記憶は皆無の様だが)父の名を借りて実質的に彼を引き取り、無事、志望校に合格させた。
実家の離れが“世帯主”たる彼の住まいとなり、彼が児童養護施設から引越しして来たその夜、
彼に真新しい布団を敷いてあげて、その中へ潜り込んだ。
それは二人だけの約束。
頑張ったお互いがお互いに与えるご褒美、そして彼への入学祝い!!
そのお布団の中で彼を抱き、
私はずっと閉じ込めていた“女”を開いた。
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高校の時のアルバイトでは決して許さなかったけれど、大学生になって三度目の冬のクリスマスに……彼が買って来てくれたケーキと私への初めてのプレゼント!!
彼が付けてくれた……イニシャル入りのバングルがあまりにも“しっくり”サイズだったので
「どうして??」って聞いたら
「愛する人のからだの事だから」と真顔で応えられて……
私はべしゃ泣きした。
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素敵なお式だった!!
何より彼が!!……世界で一番素敵!!!
彼にはみっともない恰好は絶対似合わない!!いつもキチンとしていて欲しいから、子供ができて……育休を取る事になっても手当の出る1年以内にとどめよう!!
でも子供はすぐにでも欲しいから
“初夜”から頑張るゾ!!
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パパが悪いんじゃない!!
あの“女”が悪いんだ!!
そう! 私がお休みしている隙を狙ったドロボウ猫は……
駆除してしまえばいい!!
それだけの事。
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最初はイヤなフリをしたくせに、無理やり含ませたら、すっかり虜になった。
『ああ!! やっぱりパパは私の初めての子供だったんだ!!』
私の胸に“無心”なパパの頭を撫でながら……傍らのベビちゃんを寝かしつける私って……
ちょっとネコっぽい??
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男の子は
少し面倒だ……
ベタベタヨシヨシすると抗うくせに、ベビちゃんにかまけていると拗ねて遊びに出てしまう……
その“遊び場”をデリートしたら、とうの昔に忘れていた事まで思い出してしまって……
酷く疲れた。
“作業場”にしたバスルームを残らず綺麗にするのもとても大変だったのに!!
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今時、タバコのニオイをプンプンさせての“聞き込み”なんて!!
どれだけ旧態依然としているのだろう!!
とにかくコイツらをサッサと追い出してパパが帰るまでにはキレイにしておかないと!!
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いつか聞いたことがあったよね!
「オレって何人目?!」って
その秘密はこうして死んで持って行くわけだけど……
あなたには私が……『生涯ただ一人』で居て欲しかった!!
アイツらを一人一人デリートして……
“それ”を保つのに疲れたから……私の方から一抜けするね。
悲しいけどあなたは私の子供だから……
“阿部定”にはなれない私は……
こうするしかない。
そう
あなたは……私の血で汚れたこのお風呂場を
せめて掃除して……
ああ
だんだん
ぼんやりしてきた
出席番号28番のあなた
思い出すよ
教室で
あなたを
はじめて
みたとき
から
あなただけ
だったの……
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「小6の娘も教師の女房も修学旅行!! だったらオレも裕子クンと“修学旅行”だな!!」
この能天気な不倫旅行から帰って来て……
初めて妻の嘘に気付き
自らを断罪し既に冷たくなってしまった妻の体を抱き、今、大泣きしている男こそ
カノジョの愛した
『少年28号』だった。
おしまい
と、まあ……
救いようのない物語です。
“月曜真っ黒シリーズ”で投稿した方が良かったかな……(-_-;)
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