第91話 強襲!ダイン人
やる気に目を輝かせ、フンスフンスしている明日香。
彼女と共に進むことしばし、一行は逃げた刺客が足を止めた辺りに到着した。
「何もありませんね……」
明日香がきょろきょろしながらつぶやく。
確かに辺りを見回しても、そこはただの水路の途中にしか見えず、拠点にできそうなスペースも見当たらない。
「ただの待ち合わせ場所だったのか……?」
身も蓋も無い話をしてしまうと、今は流れる水を再現していないのでそうでもないが、地下水道というものは相応に臭いがあるものだ。
隠れる事はできるだろうが、拠点に向いているとは言い難い。そう考えるとここはあくまで合流地点で、拠点は別に有るというのは考えられるのだが……。
「若、あれを」
家臣に促されて見上げてみると、天井に切れ目が入っているのが見えた。それは円を描いている。
家臣二人で肩車をして調べてみると、円形の部分がゴトッと外れる。
そこには詰めれば二人ぐらい通れるのではないかという穴が開いていた。
「なるほど、上向きの隠し通路か」
壁や床には注意を払うが、天井は意外と盲点になりやすい。
家臣が穴を調べると、スライド式のはしごが出てきた。古いがまだ十分使えそうだ。
全体的に埃がこびりついているが、握ろうとした部分だけきれいになっている。これは最近誰かが使った形跡だ。刺客達である可能性が高い。
上側も何かが蓋をしているようだ。罠が仕掛けられている可能性があるため、まずジェイが登る。
影世界ならば、罠がありそうな場所を丸ごと消してしまう方が手っ取り早いのだ。
「武装していても一人なら通れそうだな……」
旧校舎が城として使われていた頃の、秘密の脱出路かもしれない。刺客達はよくこんな場所を見つけたなと考えつつ、ジェイははしごを登っていく。
蓋になっている部分は触れずに消す。そのまま登り切ってみると、屋内に出た。
どこかの道のマンホールにつながっているかと考えていたジェイは、首を傾げながら周囲を見回す。
どこにでもありそうな倉庫、並べられている物を見たところ食糧庫だと思われる。
明日香達も上に呼んで、消した蓋を再現してみる。すると穴があった場所は床下収納のような蓋になっており、上には食料が置かれていた木箱が置かれていた事が分かった。
「やっぱり元々あった抜け道みたいだな……」
食糧庫の外を調べてみると、二つの部屋しかない小さな建物である事が分かった。
もうひとつの部屋も気になるが、先に外に出てここがどこであるかを確認すると、公園の緑地に建てられた建物だった。
「ああ、なるほど。防災倉庫か」
いわゆる災害時の備えとして物資を備蓄しておく倉庫だ。
となるともうひとつの部屋は、毛布などの寝具類が入っている倉庫のはずだが……。
「うわ~……明らかに使われてますよ、これ」
扉を消して中を見てみると、明らかに人が住み着いている形跡が有った。
寝具類は端に寄せられ、床が見えている中央は食事をしたであろう事が見て取れる。
「雨風を凌げて……」
災害時のための物なのだから、建物は特別頑丈に造られている。
「食べ物がたくさんあって……」
保存食ではあるが、大量に備蓄されている。
「寝る場所もバッチリ!」
高級ベッドとはいかないが、数が多いので重ねれば温かいだろう。
「ジェイ、隠れるには持ってこいですよ! ちょっとわくわくします!」
「正直、ちょっと分かる」
子供の頃にこんな隠れ家が欲しかった……と思ってしまうジェイであった。
更に付け加えるならば、地下水道を使って出入りしているという事は、外からはそれらしい形跡がまったく見えないという事だ。
これでは地上から異常に気付くのは難しいだろう。
ジェイが影から寝具倉庫の様子を窺うと、ここに潜伏する刺客達の姿が見えた。
明日香も頬をくっつけて一緒に覗き込む。
「あの刀は、ダインの物ですね」
注目したのは、彼等の持つ武器。似たような形状の刀身は、ジェイの持つ剣を始めとして王国側にも存在しているが、柄部分が異なる。
となると、彼等は幕府の隠密部隊。和平反対派で間違いないだろう。
人数は十三人。隠密部隊としては、それなりの人数だ。
「あれ? 荷物をまとめてますね……」
「見付かったヤツを始末したぐらいだからな。ここがバレた可能性は考えてるだろ」
だから念のために拠点を移す。すぐに実行に移そうとしているあたり、他にも拠点候補が有るのだろう。
どれだけ入念に準備をしてきたというのか。ここまでくると王国側にも手引きした者がいるのではないかと考えてしまう。
そちらも気になるが、今は刺客達を捕らえるのに専念だ。
そう考えたジェイは、相手の人数と倉庫の大きさを考えて、倉庫の扉を押さえて立ち回るのは難しいと判断。
かといって地下水道で待ち構えるのも厳しい。いざとなったらなりふり構わず水に飛び込む可能性が考えられるからだ。正直なところ、それを追い掛けたくはない。
「……公園に出した方がマシだな」
この人数を外に出すのは不安だが、いざとなれば魔法で対処できる。
そう考えたジェイは食糧庫に移動し、影から手だけを出して棚の荷物をいくつか落として音を立てる。
その音に敏感に反応する刺客達。扉の近くにいた一人が確かめに行こうとしたが、別の男がそれを止めた。
十三人の中でも一番大柄な男だ。面長で、頬に大きな傷が有る。いかにも歴戦の勇士といった顔付きだ。その体格にも負けないような大太刀を背負っている。
彼等は残りの荷物を回収するのを諦めたようだ。それを見てジェイ達も建物から出て、更に影世界からも出て待ち構える。
ジェイと明日香は正面に、二人の家臣は左右から逃げないように備えさせる。
直後、刺客達が扉を蹴破り慌ただしく飛び出してきた。
「『射』ァッ!!」
それとほぼ同時に、ジェイが影の矢を放った。
先頭に立っていた三人の内、二人は反応もできずに直撃を受けて倒れる。
残りの一人は、例の頬に傷を持つ男だ。大太刀を抜くのは間に合わないと判断し、荷物を盾にして矢を防いでいた。
男はジェイの顔を見ると、一瞬目を見開いた。
「やっぱりてめえかぁ……!」
そして獰猛な笑みを浮かべ、背中の大太刀を抜いて肩に担ぐ。
他の刺客達は左右に逃げようとしたが、そちらにも待ち構えている者がいる事に気付くと、足を止めて刀を抜いた。
ジェイはその動きから、刺客の十三人は武士と隠密の忍びが半々だと判断する。
隠密らしき一人が、大太刀の男に耳打ち。すると男は視線を一瞬明日香の方に向ける。
「そっちから来てくれるとはなぁ……てめえらは姫を捕まえろ!」
そう言いつつも男の視線はジェイに戻っている。
「サルタートでは世話になったなぁ……この傷の借り、返させてもらうぜッ!!」
大太刀を担いだまま一歩踏み出し、そして吠えるのだった。
今回のタイトルは、ゲーム『ドラゴンボールZ 強襲!サイヤ人』です。
どちらかというと、ダイン人の方が強襲される側のような気もしますが。




