第83話 ロマティ、あなた疲れてるのよ
「いやー、皆さんが大変仲睦まじい事はよーっく分かりましたー。記事にはできなさそうですけどー」
「するつもりだったのか」
ジト目でツッコむジェイに対し、ロマティは笑って答える。
そんな会話がなされているのは、翌朝の登校中の事。幽霊らしきものを目撃した件の調査のために早めに家を出たため、辺りはまだ人影もまばらで静かなものだ。
まるで通学路を自分達だけでひとりじめにしているような光景。そのいつもより広く感じられる道を舞台に、明日香が踊るような足取りでくるくると回っている。
ジェイ達は、その少し後ろをのんびりと話しながらついて行っている。
「一年生は期末試験が終わると、婚活が盛んになっていくって聞いてますから、今こそ需要があると思ったんですけどねー」
「……婚活の参考にはならないんじゃないかなぁ?」
モニカのツッコミ通り、四人は婚活をして許婚になった訳ではないので、参考にはならないだろう。特にエラは、結婚しないまま卒業しているのだから。
という訳で、昨夜聞いた話は記事にはしない。ロマティは婚活のアドバイスになるような情報が欲しいのであって、ジェイ達のプライベートを暴きたい訳ではないのだ。
「ところで期末試験って、何か関係あるの? あ、夏休み入るから?」
「かもしれませんねー」
モニカが疑問を口にするが、ロマティも、その件については放送部の先輩から聞いただけで詳しくはないようだ。
「それは、最初の定期試験だからよ」
この中で、その辺りを知っているのはエラだ。
「定期試験の成績は、その子の将来性を計る指標になるからね」
「あ~、夏休み前に狙いを定めるため?」
モニカの呟きに、エラは苦笑しつつ頷いた。
夏休みになってもポーラ島に残る者は結構多い。帰郷するとなると護衛などを用意する必要がある、すなわちお金が掛かるというのもあるが、それだけではない。
「夏休みにはお祭りとかもあるし、一緒に遊びに行ったりするのよ♪」
「つまりはデートですねっ!」
聞き逃さなかった明日香が、目を輝かせて駆け寄ってきた。
「お祭りは内都でもありますよー」
ちなみに夏休み中は、橋を渡って内都まで遊びに行く者も多かった。学生ギルドの依頼でバイトに行く者も多かったりするが。
それはそれで出会いの場になったりするので、なにげに社交面でもプラスである。
「家同士の関係もだけど、本人同士の相性も大切だからね」
そう言いつつ、エラはチラリとジェイを見た。
彼女達の縁談は本人達のあずかり知らないところで決められたもの。
幸い相性は悪くないと思っているが、それはそれとして気にはしていた。何せエラは、幕府に対抗するため押し込まれる形で許婚となったのだから。
もっとも彼女が気にしているのは、それだけではないのだが……。
ジェイは視線に気付いたが、その意図までは分からない。
そうこうしている内に一行は学園に到着。早速調査を開始する。
まず向かうのは職員室。昨晩ジェイ達補習組が下校した後、教師達が一通り調べたそうだ。しかし、あれ以降人影も幽霊らしき影も発見できなかったらしい。
今は試験期間中という事で、この件は風騎委員には回さず、自由騎士達を臨時の警備として雇う事になっているとか。
「今回は、風騎委員も出る幕無さそうですねー」
「……だといいんだけどねぇ」
ロマティは教師達の話を素直に受け取ったが、モニカの方は微妙そうな表情だ。
青い影の正体次第では、ジェイが動かざるを得ないのではないか。そう考えてしまうのは、幼馴染として彼をずっと見てきたからか。
ジェイも何やら考え込んでいる。やはり幕府の和平反対派を警戒しているのだろう。
一通り話を聞いた後は、改めて別棟の調査に取り掛かった。朝になって明るくなれば、見えてくるものがあるのではないかと考えたのだ。
別棟は三階建てであり、青い影が目撃されたのは二階と三階をつなぐ中央の階段だ。
しかし、階段と三階を見て回ったが、結果は芳しくなかった。
人が通った形跡はあるが、それが学園関係者のものか、それ以外かが分からない。
「この辺りは……部室か?」
「ああ、ジェイ君みたいに風騎委員に入っていると、この辺りには来ないでしょうね」
エラの言う通り、別棟は部室棟だ。見回してみると、各部屋の扉の上に部名が書かれたプレートがあった。
「あ、だから放送部の部室も一階にあるんですね」
「そだよー」
放送部のような学園外との関わりが深いもの、または剣術部、馬術部のような武芸系の部室が一階に集められているため、二、三階は文化教養関係の部が多い。
ちなみに風騎委員室のような、学園の運営にも関わる委員室は本棟にある。
「……放送部みたいに、この辺りの部室にも人が残っていたという事は?」
「許可が無いと居残りできないから、いたら先生達が把握してるんじゃないかしら?」
一年生がやっているテスト勉強の補習と同じだ。職員室でそれらしい話を聞かなかったという事は、居残りはいなかったという事だろう。
「ジェイ、ジェイ、隠し部屋があったりしませんか?」
「う~ん……城を再利用した旧校舎ならともかく、この新校舎はどうだろうな」
結論から言ってしまうと、隠し部屋などは無かった。今はロマティがいるからできないが、後で影世界に『潜』って調べてみたのだ。
こうも痕跡が見付からないと、ジェイの不審者潜入説も怪しくなってくる。
「つまりは幽霊ですねっ!」
「いや、それはそれで幽霊の目的は何かって事になるんじゃないかなぁ?」
かといってロマティの幽霊説が強くなるという訳でもない。
何故ならこの世界の幽霊には、幽霊になるほどの強い感情――主に怨恨があるからだ。
「この辺りで、幽霊が生まれるような事件はあったのか?」
「私の知る限りでは無いわ」
「昔の事件かもしれませんよー。放送部なら調べられます!」
「それはそれで動き出すのが遅い気がするんだが……」
誕生した幽霊は、原因となった感情を晴らすために動き出す。そして、それを晴らすと核となる感情を失って存在を維持できなくなると言われていた。
そのため昔の幽霊がずっと残っている可能性は低いと考えられる。
とはいえ現状では、あらゆる可能性を追った方が良いだろう。
「昼休みにでも調べておきますねー♪」
昔の事件の件はロマティに調べてもらう事にして、朝の調査は終了とした。
なお昼休みが終わる頃、ロマティは分厚いファイルを抱えて教室に戻ってきた。
あの別棟で起きた事件に関する記事のスクラップを借りてきたらしいのだが、思いの外多かったようだ。
流石に授業をサボる気はなかったようで、午後の授業は真面目に受けている。
そしてそれも終わると、放課後の補習が始まった。
昨日と同じく課題をこなす訳だが、ロマティは猛烈な勢いでそれを終わらせると、さっさと教室を飛び出して行ってしまった。
昨日と同じくエラがお茶会を開いている休憩室で、ファイルを見るつもりなのだろう。
「ロマティ、一人で調査に行ったりは……」
「そこはエラ姉さんが止めてくれるんじゃないかな?」
「あたし達も早く終わらせましょう!」
しかし放っておく訳にもいかない。ジェイ達も急いで課題を終わらせ、彼女の後を追うのだった。
今回のタイトルの元ネタは、『Xファイル』のセリフです。
今週二回目のワクチン接種がありますので10/6(水)の更新はお休みさせていただきます。
その後の経過次第では10(日)も更新できないかもしれませんので、ご了承ください。




