第80話 GSジェイナス極楽大作戦!!
「後は任せていいんだな?」
「ああ、こっちでやっておくよ。明日香も放っておく気はなさそうだしな」
ロマティの件はジェイ達で対応する事となり、風騎委員も解散して帰宅。明日香はロマティの手を離さず、家へと招こうとしている。
確かに今の彼女を、このまま帰す訳にはいかないだろう。
「見張りが必要だな」
「お泊りですねっ!」
「こっちの家にな」
「……わ、分かりましたー。せめて準備をですねー」
「じゃあ、まずはロマティの家です!」
嬉しそうに目を輝かせる明日香。ロマティも諦めたようで、抵抗せず素直に明日香に手を引かれて行った。
「……ちょっと私も行ってくるわ」
少し遅れて二人を追って行くのはエラ。明日香だけで十分ではないかと首を傾げつつ、ジェイとモニカは一足先に家に戻り、ロマティを出迎える準備をするのだった。
ちなみにポーラはすぐに自室に戻ってしまった。明日の補習の準備があるらしい。
その後エラと明日香は、疲れた様子でロマティを連れて帰ってきた。
ただし、彼女一人ではなく彼女の年配の侍女も一緒に。
彼女達を居間に招き入れ、ソファに座らせたところでエラに問い掛ける。
「どうかしたのか?」
「ある意味、予想通りの事が起きたのよ……」
エラの話によると、泊まる準備をするために家に戻ったところ、侍女に何故宿泊するのかと問われたそうだ。まだ婚約者も決まっていない身なので当然の反応である。
そこでロマティとエラで事情を説明したところ、今度は侍女が一人で幽霊を探しに行くと言い出したらしい。
そこまではエラの予想通りだったが、彼女の勢いが予想以上だったそうだ。
「えっ? 意外とパワフル?」
モニカは侍女を見るが、細身の女性で力が強そうには見えない。
「どちらかというと『使命感』かしらね」
そう言ってロマティの方を見て笑みを浮かべるエラ。
モニカは首を傾げているが、ジェイの方はそれでおおよそを理解したようだ。
「百里家の者として、青い影の正体をハッキリさせないといけない?」
「…………はい」
コクリと頷くロマティ。侍女の暴走を見て自分が何をやろうとしていたのか理解したらしく、バツが悪そうに小さくなっている。
百里家は、新聞の発行を家業とする家。それはすなわち、セルツ王家から情報の発信の一端を信任されているという事を意味する。百里家の名誉であり、誇りだ。
「えっっと……もしかして、幽霊を見たって話をボク達が信じなかったから?」
「そのー……はい」
情報に関して王家の信任を受けているからこそ、百里家の者にとって情報を疑われるという事は想像以上に重い意味を持っている。
「……あれ? 俺にも原因があるのか?」
一番強く幽霊である事を疑ったのは、他ならぬジェイだ。彼にも責任があるといえる。
「い、いえ、私もハッキリしないまま口走っちゃったのでー」
今となってはロマティ自身、あれが本当に幽霊だったのか疑問を抱いている。
だからこそハッキリさせ、間違いであれば訂正しなければならないのだ。ロマティ個人だけでなく、百里家の名誉にかけて。
ここまで話を聞いて、明日香も納得がいったようだ。華族と武家という違いはあれど、名誉と誇りが大切だというのは共通している。
「なるほど! 本当に幽霊だったら、名誉をかけてジェイに決闘を挑むのですねっ!!」
「えーっと、認めてくれたらそれでいいかなー……っと」
「本当に幽霊だったら普通に認めるし、謝るよ」
その違いが結構大きいという点は、否定できないが。
なお、百里家の歴史を紐解くと、決闘の実例があったりするのはここだけの話である。
「……記事として世に出した訳でもないのに、気にし過ぎじゃない?」
一方モニカは、まだいまいちピンと来ていないようだ。
「そういう訳にもいかないんですよー。学園側の目撃証言として残るでしょうし、間違っていたならちゃんと訂正しないとー」
「あ、訂正はアリなんだ」
「訂正しない方が問題ですよー」
今回の場合問題となるのは、ロマティが青い影の正体がハッキリしないまま、幽霊だと口走ってしまった事にある。
まずこれをハッキリさせなければならない、百里家の一員として。ロマティ的には期末テストよりも優先事項である。
それこそが、彼女を一人で深夜の学園に行かせようとしていた使命感であった。
侍女の場合はロマティ、ひいては百里家への忠心故だろう。
とはいえ明日香に見抜かれて引き留められ、そして自分と同じように暴走する侍女を見た事で、ロマティは少し冷静になっていた。
ジェイの話を聞いて幽霊か不審者かハッキリしないと考え直していたにもかかわらず、深夜の学園で不審者に遭遇する可能性が頭から抜け落ちてしまっていた。
「あのっ、青い影の正体を突き止めるの……力を貸してもらえませんかー?」
自分だけでは手に負えない。そう判断したロマティは助けを求める事にした。
対するジェイは即答できない。ロマティのやりたい事は分かるが、彼にしてみれば危険が予測される所に彼女を連れて行く事になる。
だが彼女は、青い影の姿を知る唯一の目撃者。一度でも見た事の有る者と無い者、その差は決して小さくないだろう。
「……ジェイ、なんとかなりませんか? あたしがロマティを守りますから」
どう返事したものかと考え込んでいると、明日香が袖を引きながら頼んできた。友人の望みを叶えてあげたいようだ。
かくいう明日香も、龍門将軍に鍛えられていただけあって腕が立つ。
彼女も加わる事を踏まえた上で、ジェイもまた決断を下した。
「……分かった。ただし、調査する時は絶対に三人でだ」
「あ、ありがとうございますー!」
「良かったですね、ロマティ!」
明日香が護衛として加わってくれるならば、ロマティを連れて行っても大丈夫だろう。ジェイは三人で青い影の捜索を行う事にする。
「それじゃ早速!」
「待て、今夜は行かないぞ」
すぐさま行こうと立ち上がったロマティを、ジェイが引き留める。
「不審者だったらとうに逃げてるだろうし、幽霊だったら急ぐ必要は無い」
前者は、あの状況で今も別棟に留まっているとは考えにくい。後者であれば、たとえ今夜教師達に倒されたとしても、特に問題は無い。
「それじゃ、どうやって調べるんですかー?」
「別棟の階段と三階以降で、痕跡を探す所からだな」
「ジェイ、幽霊も痕跡が残るんですか?」
「……足跡が残るって話は聞いた事が無いな」
幽霊は、基本的に足が無く浮遊しているといわれている。
いわゆる日本式の幽霊だが、実はこれは武士達が持ち込んだ文化だと言われている。
召喚された武士の中に、その後そういう姿の幽霊となった者がいて、それが大きな噂となった結果、足の無い幽霊が増えたそうだ。
それはさておき、痕跡を探すのは青い影が不審者であった場合の調査だ。幽霊であった場合の調査は、また別口となる。
「そうだな……エラとモニカで幽霊の噂を調べてくれないか?」
「いや、それはエラ姉さんに任せた方が……」
「学園内だけなら、な」
ロマティが見たのが幽霊だとしても、それが元々学園内に潜んでいた幽霊なのか、外から侵入したものなのかが分からない。
そのため学園内外で、目撃されていないか調べる必要がある。
風騎委員や放送部があるため、ポーラ華族学園には夜遅くまで学生が残っている事が多い。幽霊が学園内をさまよっているならば、他にも目撃した者がいるかもしれない。
外から侵入した幽霊なら学園に向かう姿、もしかしたら去る姿も目撃されている可能性も考えられる。
学園内ならばエラの顔の広さがものをいうし、外ならば商会の組織力が使えるだろう。
「俺達は、明日早めに登校して情報を集めるって事でどうだ?」
「なるほどー、分かりました! では、それで!」
ロマティも納得してくれたようだ。
しかしジェイは、更にもう一言付け加える。
「あと、放課後の補習は、引き続き参加するって事で」
「えー……ぴぃ!?」
ロマティは思わず抗議しそうになったが、廊下から半分顔を覗かせてこちらを見ているポーラの姿に気付き、辛うじてその言葉を飲み込むのだった。
今回のタイトルの元ネタは『GS美神極楽大作戦!!』です。




