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第75話 『THE・WORLD』俺だけの世界だぜ

「こ、ここは……!?」

 影世界に引きずり込まれた万魔は辺りを見回す。

 先程までいた庭と同じ、ただし全てがモノクロの世界。光が無い、しかし見える世界。

「そうか! 影か! これが影の魔法!!」

 しかし彼は、それが魔法によって作られているものであると看破した。

「なるほど! なるほど! これも魔法か! 素晴らしい! 是非にでも回収せねば!」

 モノクロの瓦礫を、興味深そうにベタベタと触る。

 そして両手を大きく広げ、興奮気味に声を張り上げた。

「この魔法を回収できた時! 我等はまた一歩、魔王へと近付くのだ!」

「協力は断ったはずだがな」

 その時、万魔の背後にジェイが現れた。剣は鞘に収めている。

「それより、ひとつ確認だ。今『我等』と言ったな……まさか『万魔』というのは、お前個人の名じゃないのか?」

「当然だ! 我等は万魔! 万の魔法を統べるもの!!」

 何か漏らすかもと考え、試しに問い掛けてみたが、思いの外ハッキリと答えた。

 憑依を利用し全員同じ魔法を習得する。それは万魔達六人だけでは終わらないようだ。

「ついでにもうひとつ……その身体の、元の魂は?」

「フン! そんなもの、とうに消えたわ!!」

 ジェイもおそらくそうだろうと考えていたが、万魔達は憑依してからかなり時間が経っており、完全に身体を乗っ取っているようだ。

 これはもう、ポーラの下に連れて行っても助けられない状態である。

「それに……協力せんと言ったが、ひとつ勘違いをしているぞ!」

 万魔の両手から次々に火球が生み出される。

「貴様の協力など必要無い! 魔法さえ回収できれば良いのだからな!!」

 その言葉と同時に、十を超えるそれらが一斉に撃ち出された。

 だがジェイは避けもせず、棒立ちで全てを受ける。

「むっ……」

 そしてそのまま霧散して消えた。

「また影か……うむ、使い勝手が良い魔法だ」

 万魔も余裕を崩さない。次は周りに冷気を漂わせながら、次の動きを待つ。

 ジェイは姿を見せない。だが、万魔を見ている。

 マントの紋章から、万魔が魔王教団なのは間違いない。万魔というのは教団員が名乗っている名前なのだろう。それが一部か全員なのかは分からないが。

 そして彼等には教団の仲間以外からも魔法を回収する手段がある。

 ジェイに関しても、仲間になればそれで良し。ならなくても『影刃八法』だけは回収するのが狙いなのだろう。

「どうした!? 時間稼ぎのつもりか!?」

 万魔の全身から放たれる吹雪。その魔素が影世界を形作る魔素に干渉し、モノクロの世界を破壊していく。

 砕け、一瞬浮きあがった瓦礫が砂のように散り、地面に落ちる前に消えた。

 残されたのは、ただただ影の大地が広がる空間。だが、ジェイの姿は見当たらず、辺りに声だけが響く。

「お前も勘違いしているようだから、ひとつ訂正しておこう……」

「ほう、何かな……?」

 胸の前に構えた万魔の両手の間に光球が生まれた。それは徐々に大きくなっていき、光も強まっていく。

「さっきから色々と言っているが、ここを見せた時点でお前を生かして帰す気は無いぞ」

「ほざけッ!!」

 両手から放たれた閃光が、声がした方へと撃ち込まれる。

 だが次の瞬間、空を裂き、抉るような音と共に光が消えた。

 カウンター気味に撃ち込まれた影の槍が光を飲み込んだのだ。

「ぐっ……!」

 強烈な脱力感を覚え、万魔は思わず膝をつく。

「まさか、声がした方にいるとでも思ったのか?」

「だとすれば甘いぞ」

 四方八方からジェイの声が聞こえてきた。同時に影の槍が連続して万魔に襲い掛かる。

 モノクロの世界が残っていたならばともかく、今の状態ではほぼ不可視の攻撃だ。

「これは! まさか……!?」

 飛行の魔法を使い避けようとする万魔。何発か食らいつつも飛び立ち、必死にその場から逃げ出す。

 だが、何も無い影世界。どこまで逃げても変わらない。

 おかしい。万魔は心の中で叫ぶ。

 この影世界、魔法で作っているならば限度があるはずだ。体内魔素に限界がある以上、どこまでも続くという事は有り得ない。

「ま、まさか……!?」

 その時、万魔は気付いた。この影世界は、自分の移動に合わせているのだと。

 影世界を作るジェイは間近にいる。いや、

「この世界そのものが、ヤツの手の――!!」

 その言葉を言い切る前に、全方向から放たれた漆黒の炎が万魔を飲み込んだ。



「ふぅ……」

 人気の無い場所を選んで外の世界に戻るジェイ。

 腕を掴み、万魔も引っ張り出す。その身体には傷一つついていない。

 先程の炎は『影刃八法』の『刀』、魂を斬る刃を形作る影の炎。

 魔神すら滅ぼすそれは、彼に憑依する魂である万魔を一瞬で焼き尽くしたのだ。

「さて、こいつは南天騎士団に預けるか」

 ジェイは動かなくなった男を俵担ぎにし、屋敷へと戻る。

 屋敷には南天騎士団の部隊が到着し、野次馬は既に追い払われていた。

「あ、無事だったっスか!?」

 以前の事件で知り合った小熊も来ていたようで、ジェイに気付いて駆け寄ってくる。

 あれからジェイ達の姿が見えなかったので、万魔が逃亡し、ジェイがそれを追っていると判断されていたようだ。

「もしかして、そいつが?」

「ええ、最後の一人です」

「そうっスか……庭の二人は捕まえたんスけど、もう……」

 言いにくそうに視線を逸らす小熊。既に死んでいたのだろう。正確には、元の身体の主はとうに消えており、ここで死んだのは憑依していた魂の方だが。

「今は誰が指揮を? 事情を説明します」

「それならこっちっス」

 小熊に案内されて隊長に会ったジェイは、六人が魔王教団であり、肉体を乗っ取った魔法国時代の魔法使い達の魂である事を説明した。

 回収した魔法書も見せて説明したが、それでも隊長は半信半疑だ。

 ただ応援に駆け付けていた魔法使いの南天騎士のフォローもあって、魔法書の危険性については納得してくれたようだ。

 詳しくは後日ポーラから説明して貰うことにして、倒壊した屋敷の中に、他の魔法書が無いかを確認しておいてくれる事になった。

 ただし、瓦礫を片付けながらとなるので少し時間が掛かるとの事だ。

「そうなると困ったな……あの六人は一体誰なんだ? 憑依されてたって事は、元々は魔王教団じゃないんだろう?」

「それについてはなんとも……一応名前は聞き出しましたが、それが本当かどうかまでは分かりません。どうも仮の名前程度の扱いだったみたいで」

「闇雲に探すよりはマシか……」

 隊長は大きなため息をついて肩を落とした。

 六人の身元については、後は南天騎士団の方で捜索してくれるだろう。

 今日のところは、これ以上できる事は無い。ジェイはおとなしく待っていた騎獣と合流し、帰路につくのだった。

 今回のタイトルの元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険 Part7 スティール・ボール・ラン』のディエゴのセリフ「『THE・WORLD』俺だけの時間だぜ」です。

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