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第74話 戦いの年季の違い

「見せてやるよ……戦いの年季じゃ負けてないって事をな!」

「黙れ、小童!」

「小僧の分際で何を抜かすか!」

 途端に激昂して一歩前に出る左右の二人。この時点でジェイは通りを背に、三人の男は倒壊した屋敷を背にしている。ジェイが逃げ道を防ぐ形だ。

 後は残りの三人も捕らえる。まず手始めにジェイが、足下の木片を右の男の顔を目掛け蹴り飛ばした。

「な、なん……ぐべっ!?」

 男は咄嗟に避けるが、次の瞬間強烈な一撃が炸裂した。視線が逸れた隙を突き、ジェイが影の槍を撃ち込んだのだ。

「大丈……ぐわっ!?」

 左の男が安否を確認しようとするが、ジェイはその隙も逃さず影の槍を撃った。

「こ、姑息な真似を……」

「そこでそういう発想が出てくる辺り、戦いの年季が足りないんだよ、お前達は」

 倒れる二人。ここまでの対応から、戦闘経験に欠けているとジェイは判断していた。

 手早く片付けるため、挑発してその隙を突いた形だ。

 残った男は、彼等には一瞥もくれず真っ直ぐジェイを見据えている。

 隙は見せてくれない。やはりこの男が五人組のリーダー格、別格と見るべきだろう。

 フードを被っているが、顔の下半分は見える。認識阻害の魔法は使っていない。

 見える範囲で分かる事は、大人の男性。髭などは生やしておらず、体格は良さそうだ。

 鍛えられた騎士、あるいは傭兵だろうか。どちらにせよ元は戦いを生業とする者ではないかとジェイは判断した。

「いいや、姑息だよ。それは弱者の戦術だ」

 そう言って男は、掌の上に生み出した火球をジェイに向ける。

「魔法使いたる者、正面から蹂躙するべきではないかな?」

 そう言い切る男の目は、絶対の自信に満ちていた。魔法があれば、小手先の技に頼る必要は無いという事なのだろう。

 龍門将軍達を相手にしてきたジェイに言わせれば、それこそ甘い考えではあるが……。

「せっかくだ、名前を聞いておこうか」

 話には乗ってくるようなので、ジェイは更に情報を引き出そうとする。

 しかし男は、虚空を見つめ答えない。

 ジェイが何事かと怪訝そうな顔をしていると、一拍置いて男は答えた。

「……それはどちらの名かな? 私か、この身体か」

「その身体だ。後で身元を確認するのに必要だからな。ついでに四人の名も教えてもらいたいものだが」

 すると男はしばし考え込む仕草をしてから、十程の家名を挙げていった。

「……まぁ、その内のどれかのはずだ。蛮族の名は分かりにくい」

「適当だな。数も合っていないぞ」

 しかも、自身の名がどれかも覚えていないようだ。

「所詮は仮の名よ」

 おそらく過去に憑依していた身体の名も含まれているのだろう。

 意識は憑依した魔法国時代の魔法使いのものであり、いざとなれば捨てられる身体。元より思い入れも無いのかもしれない。

「そうだな……私の事は、『万魔(ばんま)』と呼ぶが良い」

「中身の名前……じゃなさそうだな」

 そもそも人名ではない。文字通り、万の魔法といったところか。

 この男達は、魔法書を利用して魔法を収集していると考えると、おかしな名前とは言い切れない。流石に万は誇張だろうが。

「……そうか、お前仲間の魔法も収集していたな?」

 憑依した後の魔法書を使えば、魔法を覚える事ができる。つまり一回憑依するごとに同じ魔法の使い手を二人に増やせる。

 そして彼等は魔法国時代から何度も憑依を繰り返してきている。チャンスはいくらでもあったはずだ。

 家を襲撃した男はいくつもの魔法を覚えていたが、どうして目の前の男を含む他の四人が同じ事をしていないといえるのか。

 五人全員、同じ魔法が使えた。そう考えるべきだろう。

 つまり万魔は、自分一人になったとしても、魔法に関しては何ひとつ失っていない。

 問題が有るとすれば、魔法書単体では動く事もままならないので憑依し直す事が難しくなる事だが、それを気にした様子も無い。

 おそらく他にも仲間がいるのだろう。魔王教団と呼ばれる者達が。


「さて、一応確認しておこうか……君は、今の魔法使いにしては見所がある。私と共に魔神を目指さないかね?」

「それ、承諾すると思ったか?」

「……所詮は蛮族混じりか」

 肩をすくめる万魔。期待していなかったが、ジェイの使う『影刃八法』を回収できれば儲けもの。一応聞いてみたといったところか。

 いつの間にかジェイの背後、屋敷前の通りが騒がしくなってきた。屋敷の倒壊に気付いた野次馬が集まり、南天騎士団も駆け付けてきたようだ。

 南天騎士団は、野次馬が屋敷の庭に入り込まないようにしつつ、「君達、何があったのだ!?」と声を掛けてきた。

 対するジェイは視線を逸らさず「こいつは魔王教団だ! 魔法使いだから無暗に近付くな!」と答える。

 すると背後の南天騎士達は、応援を呼べと騒ぎ出した。数少ない騎士団の魔法使いを呼ぶつもりなのだろう。逆に言えば、今はジェイ一人で対処するしかないという事だ。

 一方万魔は、魔法も使えぬ者は視界にも入れないと言わんばかりに、周りの騒ぎを気にする様子も見せない。

「そんなに余裕を見せていていいのか? こちらはお前を逃がす気は無いぞ」

 魔法で無差別に攻撃されるとまずい。ジェイはあえて挑発するように話し掛け、彼の意識を自分に向けようとする。

「余裕? 違うな、これは王者の振る舞いというのだよ」

「魔神にもなれないのに魔王気取りか?」

 その言葉に、万魔の肩がピクリと動いた。

「……試してみるかね?」

 その言葉と同時に、彼の頭上に火球、氷塊、鋭利な岩の槍が同時に生み出される。

 ジェイは足下から伸ばした影の槍に乗って跳躍。上から斬り掛かろうとする。

 万魔はすぐさま三種の魔法で迎撃するが、それこそがジェイの狙いだ。空に向けて撃たせれば、流れ弾で周りに被害は出ない。

 飛び上がったジェイに容赦なく魔法が突き刺さるが、その身体は霧散して消えた。『影刃八法』の『幻』で生み出した分身だ。

 本物のジェイは影の槍に紛れて『潜』り、万魔の背後に回り込んでいた。上のジェイが霧散した瞬間を狙って斬り掛かる。

 万魔は霧散した方に気を取られており、不意打ちできる――はずだった。

「なっ!?」

「不意打ちとは……やはり姑息な蛮族混じりだな」

 なんと撃ち込んだ剣は、万魔の背後に生み出された光の盾で防がれてしまったのだ。

 ジェイは咄嗟に飛び退いて距離を取る。

「それも魔法か……!」

「万魔の名は伊達ではないぞ!」

 掲げた両手から真空の刃が渦を巻いて迸る。

 四方に襲い掛かる刃。ジェイはあえて近付く事で、可能な限り広い範囲の攻撃を影で防ごうとする。しかし、それでカバーできるのはせいぜい三分の一程だ。

 南天騎士達は魔法への対処方法も学んでいるようで、両腕と鞘に入れたままの剣を盾として民を守る。またジェイの騎獣も、身体を張って庇っていた。

 万魔が容赦無く魔法を使えば、周りにどれだけ被害が出るか分からない。

 このままここで戦い続けるのはまずいとジェイは判断する。

「大丈夫か!?」

「野次馬を退避させろ!!」

 その時、応援の南天騎士達が駆け付けた。彼等の持つ魔動ライトが万魔を照らし、その影がジェイに向かって伸びて来る。

「チャンス!」

 ジェイはすかさずそれを『踏』んで魔法を発動。

 動きを封じられた万魔は、抵抗せず興味深そうに視線を足下へと向けている。

 余裕を見せているのだろうが、ジェイにとっては好都合だ。

 すかさず近付いて万魔を掴み、影の槍を『射』出する勢いも利用して投げ飛ばす。瓦礫の陰、表通りからは見えない場所へ。

「二人の確保をお願いします! あと、屋敷の中に三人!」

 南天騎士達にそう伝えると、ジェイは万魔を追って自らも瓦礫の陰へと飛び込むと、倒れた万魔を再び掴み影世界へと『潜』るのだった。

 今回のタイトルの元ネタは『ジョジョの奇妙な冒険』のジョセフ・ジョースターのセリフです。

 セリフの一部だけですので、これだけだと他にも言っている人がいそうな気もしますが。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 掴んで潜った……という事は 自分のフィールドで戦うのか? [一言] 魔法使いが正面から戦うとか 割と笑えない価値観なんですが やはり古い時代の人間なのか。
2021/08/29 22:53 退会済み
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