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第73話 実体を見せずに忍び寄る黒い影!

 騎獣に跨り駆け出したジェイは、最短距離を爆走する。

 魔法で作ったモノクロの影世界なので、邪魔になる物は消してしまえばいい。

 男との距離がどんどん縮まっていく……が、しばらく追跡すると男の移動スピードが急に上がった。同時に高度も上がっている。おそらく飛行魔法を使っているのだろう。

 位置的に商店街と繁華街の間の平原。おそらくジェイの追跡を察知できなかったため、追跡は無い、飛行魔法を使っても問題無いと判断したのだろう。

「……まずいな」

 それによって男の移動スピードが上がった。できれば繁華街に入るまでに追い着いておきたかったが、それも難しくなる。

 必死で騎獣を走らせるが、ジェイが影世界で繁華街に到着した時には、既に男の反応は止まっていた。目的地に到着したようだ。

 行く手を遮る建物を消し、最短距離で反応がある場所に向かう。

 そこは繁華街の郊外、華々しい店などが並ぶ表通りと違い、住宅が連なっている。

「この辺りは、教師街じゃなかったよな……」

 元々旧校舎がこちらにあった関係で、教員用の宿舎は今もこちらにある。

 だが、ここではない。ここは繁華街で働く者達のための住宅街だ。

 男の反応がある建物は、その中でもやや大きめの二階建ての屋敷の中だった。

 ジェイは騎獣を降り、手綱を引いて屋敷の門を潜る。

 そして庭を見回す。荒れてはいない。むしろしっかり手入れされている。

 潜伏のため取り繕っているのだろうか。ジェイはそんな事を考えながら屋敷に入った。

 中もきれいに掃除されていた。男の反応は一階の奥の部屋にある。

 騎獣を通すのに邪魔になる物を消しながら奥へと進み、その部屋に入る。するとそこにはソファや大きいテーブルが並べられていた。どうやら居間のようだ。

 これだけ家具があれば、外を覗き見する物陰はいくらでもある。

 ジェイは男に仲間がいると仮定。彼等はテーブルを囲んでいると考え、向こうから見えないであろう場所を選んで様子を窺う。そう、テーブルの下だ。

 どうせ顔は認識阻害の魔法を使われたら分からなくなるのだ。それなら声だけ聞ければいいという考えである。

 テーブルの下の影から頭を上半分だけ出す。大きいテーブルなので周りの足にぶつかる心配はしなくてよさそうだ。

 テーブルを囲んでいるのは六人。といっても足しか見えず、履いている物などから読み取れる事は少なかった。

 例の魔法国の紋章入りマントも脱いでいるらしく、どれが先程の男かも分からない。

 何か会話から情報を拾えないかと考えたが、聞こえてきたのは詠唱らしき声だった。

 ジェイの『影刃八法』のような魔法と違い長々とした詠唱を必要とするのは、いわゆる儀式魔法と呼ばれるものだ。

 高度な魔法であり、その分できる事も多い。独学で魔法の修行をしたジェイでは、その内容を知る事はできなかった。

 しかし分かる事も有る。それは、詠唱する声が先程の男のものだという事だ。

 それに気付いた瞬間、ジェイはこう考えた。何の儀式をしているかは分からないが、ロクなものではあるまい。それが終わるのを、わざわざ待つ必要も無いと。

「……よし、邪魔するか」

 影世界側の口がそう呟いた瞬間、テーブルの影から数本の影の矢が『射』られて、テーブルを粉々に破壊した。

「な、何事だ!?」

 不意の攻撃に詠唱していた男以外の五人が立ち上がり、敵の姿を探す。しかし、この時既にジェイは影世界に『潜』っていたため、彼等には見付ける事はできない。

 ジェイは先程までとは別の場所から再び部屋の様子を窺う。

 五人はキョロキョロと部屋の中を見回しながら、魔法国の紋章が入ったマントを羽織っていた。魔法防御に優れた物だから、まずは戦闘準備といったところか。

 それとは別に、粉々になったテーブルの上に口髭を蓄えた男が倒れていた。

 その頭の近くには一冊の本。その表紙は、モニカが買った魔法書にそっくりだ。

「……そうか、顔を知られたかもしれないから、憑依し直す気だったのか」

 魂を分割せずに丸ごと魔法書に宿せば、憑依後も確実に魔法書を作る事ができる。

 おそらく彼等は同じように憑依した魔法国時代の魔法使い達。彼等のように仲間がいれば、憑依に失敗する可能性を抑える事ができるだろう。

 つまり、安易に今の身体を捨てる事もできるという事だ。既に魔法書を用意していた準備の良さが、魔法書になる事をどれだけ軽く考えているかを窺わせる。

 もっともジェイが妨害したため、儀式は失敗。男が起き上がる事は二度とあるまい。


 その時、ジェイはある事に気付いた。

 紋章入りマントを羽織った五人の内、四人は慌てた様子で廊下や窓の外の様子を窺っているのに対し、一人だけ黙って佇み、倒れた男を見ているのだ。

 いや、違う。見ているのは男ではない。その隣の魔法書だ。

 おそらく製作に失敗した魔法書は、魂が抜けた魔法書と同じように使えるのだろう。

 つまりあの男の狙いは魔法書、正確には口髭の男が使っていた多彩な魔法だ。

 男が魔法書に手を伸ばそうとしたその時、ジェイは再び影の矢を放って部屋のランプを破壊。そして男より先に魔法書を影の中に回収した。

 魔法書の周りに影が無かったため、部屋中を真っ暗闇にして影に閉ざさなければならなかったのだ。

 自らの手の中に収まった魔法書を確認し、ジェイはほっと胸を撫で下ろす。

「こいつら、逃がす訳にはいかないな……」

 鞍袋に魔法書を放り込みながら、ジェイは呟く。

 彼等は、こう考えるはずだ。奇襲されたという事は、自分達の情報が敵に渡ってしまった。今の身体を使い続けるのは危険だと。

 ここで逃がしてしまうと、外見を変えるためにまた憑依し直すだろう。それは新たな犠牲者が出る事を意味する。

 ここで止めるしかない。ジェイは騎獣に跨り、影から真っ暗な部屋へと飛び出した。

 飛び出た瞬間、騎獣が雄叫びを上げる。

「魔獣だと!?」

「一体どこから!?」

 突如部屋の中から聞こえてきた魔獣の声に、男達が驚きの声を上げる。

「隙だらけだ!」

 その隙を突き、ジェイは無数の影の矢を放つ。

 驚きの声を上げた二人の喉元に見事に命中。そのまま仰向けに倒れた。

 他の三人にも影の矢は襲い掛かったが、二人はマントで防御し、一人は炎の魔法で迎撃してきた。迎撃したのは、先程魔法書を拾おうとした男だ。

「やはり影か」

 しかも周りの家具を燃やす事で、光源を確保している。

「ここは退きましょう!」

「あの巨体では部屋から出られません!」

 他の二人が、撤退を進言している。すると男は鷹揚に頷き、ジェイに手を向ける。

「光よ」

 直後、強烈な閃光が放たれた。

 目を焼かれた騎獣が苦しみ暴れ出すが、ジェイは咄嗟に影で目を守る事ができた。影の魔法とバレた時点で、何かしらの光を放つ魔法で攻撃される可能性を考えていたのだ。

 しかし男達の方も防がれる可能性は考えていたようだ。なんとか騎獣を抑えようとするジェイを横目に、追撃する事なくそのまま踵を返して部屋から出て行ってしまった。

 逃げるのではない。三人は家から飛び出すと、振り返り同時に魔法を唱える。

「大地よ、その力を示せ!!」

 その言葉と同時に大地が大きく揺れる。魔法で起こした局所的な地震。その三人分が、屋敷に集中。瞬く間に家の壁にヒビが入っていき、そのまま屋敷は崩壊してしまった。

 豪快に舞い上がる土埃。ジェイは脱出してきていない。

「フハハハハハ! 圧し潰されおったわ!」

「年季が違うのだ! 魔法使いとしてのな!」

 左右の二人が、笑い声を上げる。しかし真ん中の男だけは、笑う事なく崩れた屋敷跡を見つめている。

「この程度では終わるまい……」

 小さくそう呟いた男が振り返った瞬間、三本の影の槍が襲い掛かった。

 男はその全てを、岩の槍を生やして防ぐ。

「やはり、か……」

 そう言ってニヤリと笑う男の視線の先には、騎獣に乗ったジェイの姿があった。

 左右の二人も気付き、驚きの声を上げる。

「なっ、生きていたのか!?」

「あの状況でどうやって!?」

 対するジェイは、埃を払いながら不敵な笑みを浮かべた。

「この程度でくたばるようなら、俺もこいつもとっくにやられてるさ……」

 そして剣を抜き、三人の前に降り立つ。

「見せてやるよ……戦いの年季じゃ負けてないって事をな!」

 今回のタイトルの元ネタは『科学忍者隊ガッチャマン』の登場時のセリフです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジェイ君、やはり一対多での戦いとなると 魔法の傾向もあって強い。 [一言] 年季というよりは密度の方が 濃い気がしますがジェイ君。 幕府側の名だたる猛将を相手取ってただろうし、 戦いが長い…
2021/08/26 06:45 退会済み
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