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第67話 魔法書はもう、死んでいる

 まずは魔法書を売り、直後に姿を消したという露天商の正体を探らねばならない。

 しかし、認識阻害の魔法によって顔すら覚えられない者をどう探せばいいのか。

 ポーラ曰く他人に掛けられる魔法ではないとの事なので、露天商が魔法を使った事だけは確かだろう。いや、商人かどうかも分からないので、推定『露天商』と言うべきか。

 これはハッキリ言って難しい手掛かりが無さ過ぎる。

 こういう時は固執せず、別アプローチを考えた方が良いだろう。

「その露天商も乗っ取られていて、魔法書とは協力してたって考えていいんだよな?」

「乗っ取られている事に関しては、今の時代に認識阻害なんて高度な事ができる魔法使いがいるって考えるよりは可能性が高いんじゃないかしら?」

 そう答えたエラは、同級生などを通じて今の魔法使い達の状況をある程度知っていた。

 改めて考えると、魔法書というのも不安定な手段である。乗っ取ろうにも、誰かが読むのを待つしかないのだから。

「そういえばママ、魔法書は人を乗っ取って何するの?」

「改めて魔神を目指すのですよ、モニカ」

「……もしかして、新しい身体を見つくろってたか?」

 ジェイがふと呟いた。同時に、魔法書を売る相手を選べば、ある程度は誘導する事ができるとも考える。

 魔法書が求めるもの。それは魔神を目指すため、魔法の研究に邁進できる環境だ。

 そう仮定すると、あの露天商がモニカに魔法書を売ってきた理由が見えてくる。

「……もしかして金のために売ったのか?」

「えっ、ボクに売った理由? それヒドくない?」

「でも、必要じゃないか? 魔法の研究をしたいなら」

「そりゃまぁ、先立つ物は必要だろうけど……えー……」

 身も蓋も無い話に、モニカが呆れた声を漏らす。

 しかし、魔法使いだって霞を食べて生きている訳ではないのだ。選べるならば、条件の良い者を選ぶのではないだろうか。

「もしかして、あいつの目的は……学園の生徒を乗っ取る事なんじゃないか?」

 華族ならば大抵魔法使いの血を引いている。つまり、わずかでも魔法の素養がある。

 後継者を乗っ取れば、いずれは華族家の当主にもなれるだろう。

 更に従者を連れている者ならば、華族家の中でも大きめの家である可能性が高い。

「ああ、確かに学生なら、乗っ取られても家族には分かりにくいかも……」

「エ、エラ姉さん? それは家族としてどうなんですか?」

「『三日会わざれば刮目して見よ』って言うでしょ? 学生時代は三年あるから、家族がビックリするくらい見違えちゃう事もあるのよ、これが」

 明日香が引き気味になる一方で、ポーラは心当たりがあるのかうんうんと頷いている。

 なお見違えるというのは良くも悪くもなのだが、それは二人も口にしなかった。


 ともかく、それならば島の商店街で魔法書が売られていたのも理解できる。

 ポーラによると、魔法書に込められた魂の大きさから推察するに、一冊に集中するのではなく、複数冊に分けられている可能性が高いとの事。

 はたして島に持ち込まれた魔法書は、モニカが買った一冊だけだったのだろうか。

 既に乗っ取られている生徒がいるかもしれない。場合によっては、あの露天商もそうかもしれない。そう思い至った時、ジェイの頬に冷や汗が伝った。

「母上、乗っ取られた人間を探知する方法はあるんですか?」

「そうですね……性格の変化などからも気付けるかもしれません」

 一番分かりやすいのは、言動の変化だそうだ。身体を動かしているのが、憑依した魔法使いに変わるのだから当然である。

「あと内面だけでなく、外面に変化が現れる場合もありますね。要するに魔神化に近付いた場合ですが」

 つまり、身体の一部が魔神に変わっていく事により分かるというのだ。

 といっても魔神の外見は千差万別なので、必ずそうなるとは言えないそうだが。

 現にポーラの外見は、人間とほとんど変わらない。かなりの色白である事も、豊か過ぎる双峰も元来のものらしい。

「そういえばエルズ・デゥは角の生えた三つ目ドクロで、母上とは全然違う姿だったな」

「ああ、それは当時流行ったものですね」

「あるんだ、流行……」

 魔神化はその人の心の影響を大きく受けた姿になるため、強く意識していれば流行りの姿にもなるとの事。魔神エルズ・デゥ、実は流行を気にするタイプだったらしい。


「その、取り憑かれている人を見つけたところで……助けられるの?」

 おずおずとモニカが尋ねる。

「そうですね……完全に同化する前ならば、祓う事もできますね」

 憑依した魔法使いの魂は、肉体の魂を取り込み、同化していく。

 完全にひとつになってしまったら、ポーラでも祓う事ができなくなるだろう。

「あら? それって、勇者と魔王の……」

「兄と義弟の場合は、ある程度力が拮抗していましたので、どちらでもない魂となりました。しかし、当時の魔法使いと今の子達の魂では……」

 一方的に取り込まれる事になる。たとえ魔法使い側が魂を分割していたとしても。ポーラはそう予想していた。

「そうですね。いざという時に対処できるよう、簡単に祓う方法を教えておきましょう」

 そう言ってポーラが教えてくれたのは、物理的な攻撃と共に魔素を叩き込むという少々乱暴な方法だった。手遅れになる可能性もある事を考えると覚えておいて損はあるまい。

 もっとも、簡単といってもポーラ基準の話で、使えそうなのはジェイだけだったが。



 それからすぐにジェイ達は動き出した。

 まず「急に性格が変わった人」を探す訳だが、これは元の性格を知っていなければならないため、大勢を調べるとなると人海戦術が必要となる。

 そこでジェイは、風騎委員を頼る事にした。学生の事は学生が一番詳しいだろう。

 露天商については、難しいだろうが南天騎士団に追ってもらう。

 彼等としても、島内に危険物が持ち込まれたのは大問題なので必死だ。

 なお、魔法書の危険性を周知するべきかについては、エラが宰相と学園に相談してみたが、興味本位で読む者が現れかねないため止めておいた方が良いという結論になった。

 ただ何もせずに放置という訳にもいかないため、モニカが商会支店に頼んで探してもらい、見つけ次第回収してもらう事になっている。

 という訳でジェイ達は、とにかく友人が憑依されていないかを調べる。特に明日香は友達が多いので大張り切りだ。

 幸い、クラスメイトにそれらしい者はいなかった。

 商会支店を紹介したのが良かったらしい。皆武具などの方に興味が向いて、古書を買おうとする者がいなかったようだ。

 放課後はジェイとモニカ、明日香とエラの二手に分かれてクラス外の友人を調べる。

 ジェイはまず赤豹組の獅堂を探したが、彼は毎日のように学生ギルドで魔獣討伐の依頼を受けているらしく、会う事ができなかった。

 ただ赤豹組の生徒に話を聞く限り、急に性格が変わったという事は無さそうだ。

 続けて青燕組のアメリアを探すと、こちらはすぐに彼女は図書館に行ったという情報を得る事ができた。魔法の勉強のために足しげく通っているようだ。

 図書館に移動すると、中庭で教本片手に魔法の練習に勤しむ姿がすぐに見付かる。

 フード付きのマントに大きな杖と、相変わらずの典型的な魔法使いの出で立ちである。

「おーい」

 声を掛けつつ近付くと、彼女は振り返る。そしてジェイ達に気付くと、バサッと大きくマントを翻し、杖を構えた。

「フッ、我が魔法を盗みに来たか! だが、甘い! 我が魔法の真髄、見抜けるかな!?」

「悪霊退散ッ!」

 直後、ジェイがすかさずチョップと共に魔素を叩き込んだのは言うまでもない。


「あ~……なんというか、スマン」

「……いえ、いいデス。私の方にも問題が有ったみたいですし……」

 結論から言ってしまうと、アメリアは憑依されていなかった。

 単に魔法の勉強が上手く進んでいたので調子に乗っていたようだ。

 今は頭を押さえて、涙目でぷるぷるしている。

 なお、彼女が勉強していた内容は基礎的なものであり、魔法の真髄とは程遠いものである事を伝えておく。

 ちなみに、チョップをした理由を説明するため、魔法書についても話している。

「でも、いきなりチョップする程怪しかったですかね?」

「かなり怪しかったよ」

「はぅん!?」

 モニカの容赦ないツッコミに、アメリアがうめき声を上げた。

「とにかく、お詫びはさせてもらうから」

「……ご飯、おごってくれたら許します」

「許婚がいるから、家の夕食に招待でいいか?」

「わーい、やったー!」

 鳴いていたカラスが、もう笑った。先程までとは打って変わって満面の笑顔である。

 青燕組には、彼女の友達がいるはずだ。せっかくなので、彼女にも調査に協力してもらうとしよう。

 今回のタイトルの元ネタは、現在アニメが放送中の『探偵はもう、死んでいる』です。

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルはヒデブッ!とかタダバガニッ!とかボヒューしちゃう方じゃなかったですか。 何か、魔導書、各処にばら撒こうとしてるのか上手く行ってないのか状況がまだ見えてナイなぁ。
[良い点] タイトルは北斗の〇かと思ったら最近の方だったw [気になる点] 魔神の流行 [一言] 今回はなんとも頼りない情報が 武器という捜査になってますねえ。 ジェイ君は果たして本丸に辿り着けるのか…
2021/08/04 21:10 退会済み
管理
[一言] つまり、魔神(の一部)は中二病であった、と。 流行ったという事は一部じゃなく結構な数かもしれんが。 タイトル、北斗の拳かと思った。(他の魔法書も見つかって処分されたという事かと)
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