第53話 きらきらと輝く金ヅルという美しい鳥
ロマティはメモ帳を手にニッと笑いこう言った。
「おいしい依頼の情報先取りしちゃったんですけど、皆さん乗りませんか?」
その言葉に何人かは顔を見合わせ、何人かは怪訝そうな表情になる。
とりあえず、ここはジェイが代表として問い掛ける。
「放送部の情報か? そういうのを利用して利益を得るのはまずいんじゃ……?」
「そーいう違法行為じゃないですからー!」
ロマティは、慌てた様子でふにふに両手を振りながら抗議の声を上げた。
家業が家業だけに、そういうところはしっかりしているのである。
「実はですね、PEテレの方から先日の旧校舎の件について取材したいという指名依頼が来てるんですよ。ジェイ君に」
「いや待て、初耳だぞ。どうして俺への取材の依頼が、俺に来てないんだ?」
「ああ、生徒への取材とかは学園が仲介するんですよー」
華族子女となると、場合によっては家にも影響を及ぼす事がある。
ジェイならその辺りは任せても大丈夫なような気がしてくるが、忘れてはいけない。彼は特殊な部類に属するのだ。
「それに取材したいのはあの日自主訓練に参加した全員ですしー」
「なるほど、あの日訓練に参加した皆もか」
家への影響まで責任を負わせるというのは、ほとんどの生徒達には酷な話である。
学園が仲介に入るのは、そういうトラブルを未然に防ぐためであった。
そうやって仲介された案件は、指名依頼という形で取り扱われ、学生ギルドから生徒に話をするのが通例となっていた。
今回は放送部を通じて学園に取材の話が持ち込まれ、学園から学生ギルドに話が行く事になっていたのが、当の学生ギルドがこの混雑ぶりだ。
そこで同じクラスのロマティが、呼んできてほしいと頼まれたという訳だ。
学生ギルドに話が行く前に頼まれたので情報を先取りした事には違いないが、結局のところはただのおつかいである。
「というか名指しの依頼だと、乗る乗らないの問題じゃなくないか?」
「いやー、それは……」
ロマティは視線を泳がせながら言う。
「……ちょっと、こう、腕利きの情報屋みたいで格好良いかなーっと……」
そして恥ずかしそうに顔を伏せた。
ロマティ=百里=クローブ、色々な意味でお年頃である。
「あの日の事は詳しく知りたいって事で、皆にも話が聞きたいって言ってるんです。当然依頼ですから報酬も出ますよー」
「マジで!?」
報酬という言葉に、思わず大声を上げてしまった色部。
周りの視線が集まり始めたため、ジェイ達はオードも回収して移動する事にする。
「ならば僕達は、もう少し混雑が収まるのを待ってから探してみる事にしよう」
あの日不参加だったラフィアス、エイダを含む五人は、ここで分かれる事となった。
ちなみに彼等は、この後私塾の助手の仕事を見つけたそうだ。
いわゆる文官タイプ向けの仕事であったため、尚武会を経て集まった面々には見向きもされずに残っていたのだろう。
ジェイ達が、ロマティに案内されて向かったのは講堂のひとつだった。あの日訓練に参加した十五人全員を呼べる広さとなると、教室以外ではここぐらいだろう。
そこで待っていたのは、生活指導担当の教師。一年生にも既に生真面目な堅物として知れ渡っている、長身の男性教師である。
「来たか……話は聞いたか?」
「PEテレから取材の依頼が来たという事は」
「うむ……今回は注意喚起も兼ねているので是非受けてほしい」
「注意喚起? 何のです?」
学園側にも何かしらの意図がある。そう察したジェイはすかさず問い掛けた。
すると堅物教師は不機嫌そうに眼鏡のズレを直す。
「……旧校舎に人が入り込んでいた件は知っているな?」
「ええ、まぁ」
その痕跡を見つけたのもジェイ達である。
「学園はその件を重く見て、旧校舎の警備を強化する事となった」
「……なるほど」
PEテレを通じてその事を伝え、旧校舎に近付くなと牽制したいといったところか。
旧校舎は学園が管理しているが、普段の警備は騎士ギルドを通じて依頼した自由騎士達に任せられている。
それでも入り込んだという事は、しっかり警備されていなかったという事。堅物教師が不機嫌になるのも無理は無い。
「現在は騎士ギルドへの依頼は停止し、風騎委員と生徒で警備を賄っている。取材は旧校舎で行うとの事なので、当日は君達にも受けてもらう事になる」
風騎委員も南天騎士団の調査を手伝っているため、風騎委員だけでは人手が足りない。
そこで学生ギルドの方にも依頼が回ってきたという訳だ。
無論、指揮を執るのは風騎委員だが……。
「当日の警備指揮は君が執るのだ、昴」
ご存知の通り、ジェイも風騎委員である。一年生ではあるが。
「そちらの報酬もいただきますよ?」
「無論だ」
警備の報酬は、参加するクラスメイト全員に支払われる。
一日で二つの仕事分の報酬。警備の方はそこそこだが、取材の報酬は悪くない。
合計額を見て、色部を筆頭に一部のクラスメイトが色めき立った。
確認してみたところ、皆多かれ少なかれ取材を受ける事に前向きのようだ。
「それで、参加してくれるかね?」
「……分かりました。引き受けましょう」
夜間の警備は楽ではないだろうが、皆は乗り気のようだ。
これならばなんとかなるだろう。そう判断したジェイは、皆を代表して承諾した。
「ウム、今のところ警備は君達だけとなるが、応援は必要かね?」
「入り込みを防ぐだけなら問題無いと思いますが……経費は?」
夜警となると泊まり込みになるので色々と必要となる。
「食費、燃料代は申請してくれればいい。毛布も必要ならば貸し出そう」
「分かりました。後はPEテレと話します」
「ウム、頼んだぞ」
堅物教師は、重々しく頷いた。
その後、警備担当が元々空けられていた日にジェイ達が組み込まれた。
その日に取材を受けるとPEテレに連絡すると、すぐに承諾の返事がくる。
それに合わせてジェイ達も準備を進め始めた。
「当日は、全員実戦用の制服で」
「えっ、野外用じゃダメなの?」
「警備は本当にやるからな」
裾が長めの半ズボンの野外用と、ロングコート付きの実戦用では、守備力が段違いなので当然の判断であろう。
また食料と燃料については、モニカがシルバーバーグ商会を通して注文する。
「そうだ、毛布買う人いるならまとめて注文するよ」
「あ……私、買う」
シャーロットを始めとする数人が注文した。まとめ買いなので少しお安くなっている。
また食料、燃料も安く抑えられており、これには学園もにっこりである。
「はい!! 武器も安くなりますか!?」
「経費で落ちないよ?」
「デスヨネー……」
シルバーバーグ商会ならばクラスメイトの誼で多少は安く抑えられるが、それは今ではない。その資金を作るために依頼を受けているのだから。
ちなみに警備の仕事を受けると、捕縛用の武器を貸し出してもらえる。
それと実戦用の制服で、警備をする上では過不足ない装備となるのだ。
そういう事情もあって、この仕事はいわゆる「初心者向け」となっていた。
騎士ギルドでも同じような扱いであり、今回の旧校舎侵入の件はそれが悪い方に出てしまったといえるだろう。
もっとも、その辺りの対処を考えるのは学園と騎士ギルドの仕事である。ジェイ達は気にせず、この仕事を今後のために利用してしまえばいいのだ。
こうして準備を終えた彼等は、取材当日を迎える事となるのである。
今回のタイトルの元ネタは、ソードワールドRPGリプレイ・バブリーズシリーズのPCスイフリーのセリフです。




