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第50話 傭兵?剣士

「一年赤豹組、ローディ=獅堂=レオニス……推して参るッ!!」

 そう言うやいなや斬り掛かる獅堂。その俊敏で力強い動きは、まるでクラス名にもある豹のようだ。

 ジェイは退いてそれをかわし、振り下ろされた瞬間を狙って横薙ぎの一撃を繰り出す。

 避けられないと判断した獅堂は、あえて一歩踏み出して間合いを外す。木剣の根元が獅堂の左腕を打った。

 そしてすかさず反撃するが、ジェイはかわし、受け流し、隙を突く。

 この剣に比べれば、ラフィアスはまだストレートな騎士の剣といえる。

 大したダメージは無いが、その捉えにくい動きに獅堂はやり辛さを感じた。

 切っ先を相手に向けている獅堂に対し、ジェイは半身に構えて、剣を引いている。

「初めて見るタイプの剣術だな……」

「アーマガルトじゃ、使ってるヤツ割と多いんだけど……なっ!」

 獅堂が気を抜いた瞬間、怒涛の連撃が彼を襲った。緩急の利いた剣、防ぎ切れずに数発食らってしまう。

 だが、その程度では怯まない。反撃に出た獅堂の剛剣がジェイに襲い掛かる。

「軽いなッ!!」

「知ってるよ!」

 避けきれずに木剣で受ける。木剣同士とは思えない激しい音に紛れて小さくミシリと嫌な音が鳴った。

 ジェイは剣の角度を変えて攻撃を逸らし、獅堂の体勢を崩した。そして無防備になった彼の腹に蹴りを叩き込み、その反動で距離を取る。

「面白い……剛剣相手に戦い慣れているな!」

 腹を押さえながらも、獅堂は笑った。それはもう、楽しそうに。

 その笑顔を見て、ジェイは確信する。彼は勝ち負けそのものよりも、本気の戦いを求めているのだろうと。

 ラフィアスに対して怒っていたのもそうだ。あれは魔法を使わなかった事そのものではなく、手を抜いていた事に腹を立てていたのだろう。

 対するジェイは、色々と察しつつも軽く言い返す。

「当たり前だろ。ダイン武士と戦うための剣だぞ」

 華族の武芸というのは、土地柄の影響を大きく受けるものだ。よく戦う敵に対応して洗練されていくと言い換えても良いかもしれない。

 アーマガルトの剣術は、ダイン武士の剛剣に対し柔よく剛を制す剣である。

 子供の身で戦場に立つ事となったジェイがそれを更に昇華し、龍門将軍を撃退するまで練り上げたのだ。剛剣に対して滅法強いのは当然といえる。

 獅堂の方も、ジェイの剣の本質を掴みかけていた。

 風になびく柳のように受け流す剣。なるほど、相性が悪い。

「うおぉぉぉぉぉッ!!」

 だが、相性が全てではない。獅堂は獣のような咆哮と共に斬り掛かる。

 力任せだけではない剣。荒々しくも鋭い連撃にジェイも防戦に回る。

 だが、先程木剣は嫌な音を出したばかりだ。酷使できない。ジェイの足下から『射』の応用で影を伸ばして数発の攻撃を防ぐ。

「なるほど、それが魔法か!」

「便利だろ?」

 木剣は使えてもあと一、二発だろうなと思いつつも、余裕の態度は崩さない。

 獅堂もジェイの剣の状態を察したようで、この好機を逃すまいと更に剣速を上げる。

 速いだけでなく、一撃一撃に力が込められている。これでは木剣が無事でも、長くはもたなかっただろう。

 ジェイは受け流し損ねた――フリをして、体勢を崩しつつ相手の脛に蹴りを入れる。

 弁慶の泣き所、頑丈なブーツでも防ぎ切れないダメージ。獅堂は不意の一撃に思わず屈んで足を押さえる。

 その瞬間、ジェイは影の矢を放った。ただし、鞭のようにしならせた打撃武器として。これもまた『射』の応用だ。

「ぐおっ!?」

 獅堂はそれに対応できず、無防備に顔面で受けてしまう。その間にジェイは悠々と体勢を立て直した。


「ところで……獅堂って、内都出身だっけ?」

 ここでジェイは、追撃を入れずに問い掛けた。

 獅堂は不思議に思いつつも、その隙を逃さず赤くなった鼻を押さえながら立ち上がる。

「……いや、マグドクだが」

 セルツ連合王国は五つの国から成り、マグドクはセルツの西に位置する、セルツに次いで大きい国だ。

「じゃあ、マグドクの王都か」

「そうだが……何が言いたい?」

 怪訝そうな表情になる獅堂。ジェイが何を言いたいのか、さっぱり分からない。

 しかしジェイの方は、このやり取りでいくつかの確信に至った。

「ついでにもうひとつ確認だ。獅堂は強くなるために、強いヤツと戦いたいのか?」

「……そうだ。お前は良い、虎臥よりもよっぽど」

 まず獅堂は、尚武会での勝敗にはそこまで拘っていない。

 魔法使いという強敵との戦いを経験して、糧にする事こそが彼の目的だったのだろう。

 魔法使いのブロックに割り振られたため、そういう判断になったのかもしれない。

「じゃあ、最後に確認だ……俺の助言を、聞く気はあるか?」

「…………聞かせてもらおうか」

 獅堂の片眉がピクンと跳ねた。同学年の対戦相手に言うセリフではない。

 しかし、相手は『アーマガルトの守護者』だ。聞く価値は有る。そう判断した獅堂は、承諾の返事をした。

 ならばとジェイは、木剣を彼に向けて突き付けハッキリとした口調で言い放つ。

「じゃあ言うが……もう少し実戦を想定しろ。このままじゃ危ういぞ」

「なんだと……?」

「さっき左腕で一撃を受け止めただろう? あれは木剣での試合に慣れてるヤツがよくやるんだよ……道場出身のな」

「……ッ!」

 獅堂の目が驚愕に見開く。どうやら図星のようだ。

 真剣相手にあんな真似をした場合、左腕はただでは済まない。いざという時は左腕を犠牲にしてでも……という考え方もあるが、それはあくまでも非常時の手段である。

 あの一瞬の攻防でジェイは考えた、この男は歴戦の傭兵のような風貌とは裏腹に、道場で修行した剣士なのではないかと。

 それからの攻防でも試してみたが、攻撃を受け止めれば良いという考え方や、想定外の方向からの攻撃に弱いなど、道場出身者によく見られる特徴が見て取れた。

 傭兵のような出で立ちについては、おそらく経済的な理由なのだろう。

 立ち居振る舞いからも察するに、獅堂はマグドク王都の無役騎士の子だと思われる。

 それが剣で身を立てるために道場での修行に励み、あの剣技を身に付けた。ジェイは彼の事をそう判断した。

「木剣だから平気って考え方も無くもないんだが……」

「……いや、お前の言う通りだ。確かに真剣が相手ならばなどとは考えた事も無かった」

「暗殺者が刃に毒を塗るっていうのは、割とオーソドックスだからな? マジでそのクセは直した方が良いぞ。道場出身者、そこに引っ掛かるの多いから」

「そ、そうなのか……」

「魔獣の爪にやられて、小さい傷だと油断してたら、翌日高熱って例も……」

 毒を持たない魔獣でも起こり得る話である。

 国境領主家の軍に関わる者として、実際に被害を受けた者を何人も見てきたジェイだからこそ言える助言であった。言わざるを得なかったとも言う。

「この際だから言うが、お前なまじ強いからかえって危ういんだよ」

「そ、そうか……」

 褒められている気がしない。獅堂はそう感じた。

 実際その通りなのだろう。ジェイから見れば、彼は心配する対象だ。

「まぁ、回避の技を磨くか、防具を固めるかするんだな」

「……そうだな。尚武会が終わったら、そうさせてもらおう」

 そう言って獅堂は、再び木剣を構える。まだ試合は終わっていない。

「……じゃあ、こっちはもう少し魔法を使おうか」

「ああ、是非そうしてくれ!」

 獅堂は斬り掛かるが、ジェイは先程までよりも大きく退いて影の矢を『射』る。

 先程までの話もあって獅堂はそれを避けようとしたが、矢は追尾して脇腹に直撃した。

「ぐっ……!」

 だが、試合用に手加減しているのもあって、大したダメージではない。

 手加減されていると感じつつも、獅堂は戦い続ける事を選択して再び攻撃を仕掛けた。

 しかし、剣で防ぐという選択肢が無くなったジェイを捉えるのは難しい。

 試合前にアメリアに言った通り、足で距離を取りつつ魔法を放つ。

 それでも負けじと獅堂は距離を詰める。

「試合は、俺の勝ちだッ!!」

「それはどうかな?」

 渾身の力で振り下ろされた剣に対し、ジェイは受け止めるのではなく攻撃を繰り出す。

 当然木剣は砕け散り、木片と折れた刀身が勢いよく飛び散る。

 獅堂は咄嗟に目を庇うが、ジェイは足下から空に向かって伸ばした影でそれを防いだ。

 二人の身長よりも大きく伸びた影が、二人の間に立って視界を遮る。

「目くらましか!?」

 左右から回り込んでくるかもしれない。そう考えた獅堂が身構えた瞬間――

「ぐはぁっ!?」

――大きく伸びた影が先程の剣のように振り下ろされ、獅堂の頭を直撃した。

 想定外の所からの一撃に倒れ伏し、獅堂は起き上がる事ができない。審判は彼の状態を見て、戦闘続行は不可能と判断した。

「勝者、昴選手!」

 高々と勝者の名が宣言され、観客席から大歓声が巻き起こった。

 ジェイもこれで三戦全勝である。

 今回のタイトルの元ネタはT&Tソロアドベンチャーシリーズの『傭兵剣士』です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 傭兵剣士懐かしい。 理不尽なデストラップが多かったなあw
[一言] 基本影が動いたり飛んだり足掴んだりするみたいな 相手の死角を突くような魔法の使い方が多いから 対人は悉く無敵っぷりを発揮しますね、ジェイ君。
2021/06/10 06:42 退会済み
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