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第297話 アルマよいとこ一度はおいで

 援軍に来てくれた龍門将軍率いるダイン幕府軍をアルマで歓待せよ。

 そう命じられたジェイは、その日の内にアルマ行きの準備を整えている。

「褒賞とかもらうまで、ここにいないといけないんじゃなかったの?」

 そう問い掛けて、首を傾げるのはアメリア。

 確かに、そういう要請はあった。しかし、状況が変わった。

「追加のお役目が舞い込んで来たって感じだから……」

 答えたのはエラ。彼女もようやく帰宅できたというのに、すぐさまアルマに行かなくてはいけなくなった立場である。

「というか他国の軍を迎えるのに、責任者不在って訳にはいかないでしょ」

 同じ立場のモニカも、旅行鞄に着替えを詰め込みながら続いた。

 もうひとつ鞄を用意しているが、そちらには本が詰め込まれている。

「じゃあ……内都を離れちゃダメだけど、アルマに行かないといけない?」

「この場合は、役目優先でいい」

 ジェイは呆れ気味に答える。

 宮廷が歓待の役目を振ったにもかかわらず、ジェイに内都を離れるなと言うのは、責任者不在で隣国の要人を歓待しろと言っているようなものとなる。

 宮廷もそれは分かっているだろう。一応出発の際に連絡はするつもりだが、止められる事は無いはずだ。

「歓待も事後処理の一環だから、まだお役目が終わってないとも言えるわね」

「延長戦かぁ~……」

 むしろ残業と言った方が正確かも知れない。

「お役目と言っても、歓待するのはお父様とダインの人達ですから! 問題ありませんよ!」

 そもそも相手が父親と故郷の人達、しかも征異大将軍の親衛隊――旗本となると大体顔見知りとなるので明日香は気楽なものだ。

 鼻歌まじりに準備をし、足取りも軽く今にも小躍りしそうな程であった。


「とりあえず、エラとモニカは一足先にアルマに行って準備をしておいてくれ」

 準備がひと段落し、休憩に入ったところでジェイが言う。

 ジェイと明日香は、ダイン幕府軍に同行して龍門将軍達をアルマに案内する事になる。

 そのためエラ達には先にアルマに行ってもらい、歓待の準備をしておいてもらおうという事だ。

「は~い」

 エラの方は落ち着いたものだ。

 予想はしていたのだろう。先行して準備するなら自分の出番だという事も。

「予算は?」

 すかさず懐から算盤を取り出して尋ねる商人の娘、モニカ。

「無制限で」

 対するジェイは、大胆不敵に答えた。

 冷泉宰相から言質を取っているので強気なものである。

「ダイン料理の方がいい?」

「……人数分揃えるのが難しそうだし、セルツ料理で」

「それって大丈夫?」

「大丈夫だと思いますよ。旅の醍醐味ですっ!」

「旅行気分か~……」

 フォローに入った明日香の言葉に、モニカは何か言いたげだ。

 しかし、それぐらいの方が気楽でいいと考え直す。


「え~っと……私は?」

「アメリアも二人と一緒に」

「良かったぁ……」

 ほっと胸を撫で下ろすアメリア。ジェイ、明日香と一緒だと、おのずと龍門将軍とも一緒になるので避けたかった。

 しかし、次の言葉でその安堵の表情がひきつる事になる。

「セルツの方には『純血派』の残党はいないと思うが……いざという時は頼むぞ」

「おぉぅ……」

 つまりは二人の護衛である。

 一応忍軍も同行する事になるが、相手が『純血派』の残党となると魔法使いの可能性があるためアメリアがいてくれた方が良い。

「ジェイも一緒に来てくれたりは?」

「明日香一人に龍門将軍を案内させる気か?」

 つまりアメリアの選択肢は、物理的に危険があるかも知れないエラ達と同行するか、精神的に疲弊しそうなジェイ達と同行するかの二択だったのだ。

 こうなると、何もなければ物理的にも精神的にも安全なエラ達の方を選ぶしかない。

「……はい、残党に会わないように祈っておきます」

 嘘でも「がんばります」と言わない辺りが実にアメリアであった。



 翌日、エラ達が出発。ジェイ達の出発は避難者達の帰還の後という事で、その二日後となった。

 元々船で援軍に駆け付けた事もあって多くの者が徒歩であり、ジェイ達は騎獣に乗って隊列半ばにいた。明日香の両隣をジェイと龍門将軍が並走している形だ。

「婿殿の新しい領地か!」

 実に楽し気な龍門将軍。

 ジェイの新しい領地だからと言うよりも、魔神討伐で得た褒賞だからという事に重きを置いていそうだ。

 龍門将軍は再会した娘よりも、その頭越しにジェイにばかり話し掛けている。

 しかし間に挟まれた娘は、仲良さげに見える二人に満足気であった。


 その後一行は何事もなくアルマに到着。

 エラ達も何事もなく到着しており、二日空けたおかげか歓迎の準備は既に整えられていた。

 ダイン幕府軍一行には、セルツ建国当時からあるという老舗の温泉旅館が用意されている。

 ジェイ達は当然領主邸だ。宴等を行う際には、ジェイ達が温泉旅館の方に出向く事になる。

 四六時中龍門将軍と一緒だと、それはそれで大変だろうというエラとモニカの気づかいであった。

 道中ずっと龍門将軍の相手をしていたジェイとしてはありがたい話である。

 ひとまず幕府軍は、旅館に預けて疲れを癒してもらう。

 しかし、おそらく一番疲れているのはジェイだ。主に気疲れだが。

「あたし達はどうします?」

「領主邸に行くぞ。宴は……」

「まずは旅の疲れを癒してくださいって事で、式典含めた宴は明日にしてるわ」

「ありがたい……」

 ジェイは本気で疲れていた。

 それを見たアメリアは、先行組に同行できて良かったと心底思うのであった。

 今回のタイトルの元ネタは、草津温泉の民謡『草津節』です。

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― 新着の感想 ―
ウナギの捌き方問題みたいなのあるのかね(腹開きが切腹につながるから背開き的な)
歓待も事故処理の一環だから 「事後処理」ですねー。 食文化自体は、そう大差ないだろうしなぁ。 隣国くらいだと取れる食べ物もたいして変わらないから似たものになりやすいし
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