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第293話 超力少女明日香

「滅びろ、魔神ダ・バルト!!」

 『刀』が突き立てられた肉塊の中で黒炎が燃え上がる。

 形に捉われなくなったそれは、内側から焼き尽くし、それだけでは飽き足らず表面を裂いて噴き出し「醜悪な太陽」を文字通りの「燃え盛る太陽」へと変えた。

 断末魔のような咆哮が黒子世界を震動させ、モノクロの空間に大きな亀裂が走る。

「き……貴様は……何をしたのか分かっている……のか……?」

 今にも消え入りそうな声。『刀』を突き立てるため間近に迫っていなければ聞き逃していたかも知れない。

 この反応、やはり本体だ。ジェイの『刀』は、魔神ダ・バルトの本体を内側から焼き尽くした。

 魔神を滅ぼす事に特化した魔法。魔神ダ・バルトは、これから滅びる。

「見たであろう……あの、新魔王の威風……堂々たる姿を……! 再び、魔法使いの時代が……訪れたのだぞ……!!」

「……ハリボテに跪けと言うつもりか」

 末期(まつご)の呪詛を一言で切って捨てると、ジェイはダ・バルトを蹴ってその場を離れた。

 もはや周囲を認知する事もできないのか、それでも呪詛を吐き続けるダ・バルト。

 しかし、それがジェイの耳に届く事は無かった。


 消し炭となって崩れて行くダ・バルトを背に、ジェイは影世界と同じ要領で新魔王像の影を通って表の世界に帰還する。

 直後、ジェイは力が抜けて、その場に崩れ落ちた。

 指一本動かせない。体内魔素を消耗し過ぎたのだ。疲れ果てて、しばらくは立ち上がるのも難しそうだ。

 戦っている最中も像は進み続けていたようで、場所は繁華街の中心あたりである。

 周囲を見回してみるが、人の気配は無い。避難は済んでいるようだ。

 そしてジェイが改めて新魔王像を仰ぎ見た時、内都に向かっていたその歩みが……止まった。

 操り手である魔神ダ・バルトが、完全に滅んだのだ。

「終わった……な」

 振り返ると、新魔王像が歩んできたルートが瓦礫の山で舗装されている。ここまでにあった建造物を尽く薙ぎ倒してきたようだ。

 しかし、それも終わった。

「それにしても、とんでもない置き土産を残してくれたものだな……」

 残った問題は、城並みの高さがある新魔王像だが……。

「……ッ!?」

 動けない彼の真横に、落ちてきた黒曜石の羽が突き刺さった。

 一瞬ダ・バルトによる悪あがきかとジェイは考えたが、そうではない。

 魔法が途切れたためか、元々造形に無理があったのか、あるいはその両方か。新魔王像が音を立てて崩れ始めたのだ。

「お、おい……冗談だろ……!?」

 そう、城ほどの高さがある像が、繁華街の中心で。

 場所もまずいが、ジェイの状態もまずい。立ち上がれない程の体内魔素を消耗した今の状態では、影世界に『潜』る事もできない。

「くそっ! こんな所で……!」

 無理矢理にでも魔法を発動させなければ、そう考えて体内魔素を絞り出そうとするが、直後視界が歪んでしまう。

 やはり限界だ。このままでは意識を手放してしまう。

 なんとか意識をつなぎ止めなければ。

 しかし、自傷して痛みで意識を覚醒させようにも身体が動かない。

 そうこうしている間に新魔王像の首が折れ、頭部がジェイ目掛けて落ちて来た。

 ここまでか。覚悟を決めたその時――

「ジェイ~~~~~っ!!」

――明日香の声が聞こえてきた。

 崩れた魔王像の瓦礫が降り注ぐ中を、彼女は猛スピードで駆け抜ける。

「見付けましたっ!」

「お、おい……!」

 そして通りすがりざまにジェイの身体を担ぎ上げると、一気にその場から離脱する。

 直後、ジェイがいた場所に轟音と共に魔王の頭部が落下した。間一髪だ。

 その危地を脱しても、数秒足を止めれば瓦礫の下敷きである。体勢を変える余裕は無い。

「待て! このまま行く気か!?」

 それでもジェイを落とさぬようにと明日香が両手でしっかりと担ぎ上げた結果、いわゆる「お姫さま抱っこ」の形になったのは仕方のない事だろう。

 そしてほぼ力尽きているジェイには、抵抗する力は残されていなかった……。



 不幸中の幸いは、崩れる瓦礫が大きく広がらなかった事と、新魔王像の足元は既に破壊された後だった事だろう。

 像はその規模の割には、大した被害を出さずに崩れ落ちた。

 もっとも大きく広げた翼も崩れ落ちたため、被害ゼロとはいかなかったが。

 結局明日香は、あれから一度も足を止める事なく味方と合流。

「ウム! 仲睦まじくて大変結構!」

 なおその味方は、龍門将軍である。

 武者大路率いる騎士団は、学生街の手前まで退いて防衛線を構築しているため、一番近くにいたのが彼だったのだ。


「……生き延びたようだな」

 次に合流したのはラフィアス。

 彼は海に放り出された後、自力で陸に上がって新魔王像を追跡していた。

 しかし、あと少しで追い着けるというところで像が崩壊していく様を目の当たりにしたらしい。

「魔神は?」

「倒したよ」

 ジェイはお姫さま抱っこされたままだが、ラフィアスはそれには触れずに話をする。

 彼も魔法使いだけあって、体内魔素を消耗し過ぎたためだというのは分かっているのだろう。

「……手強かったか?」

 続けてラフィアスが神妙な面持ちで尋ねた。

「…………本体を見付けるまでは、な」

 彼が何を知りたいのか分からなかったが、ジェイは変に魔神を持ち上げたりせず素直に答える。

 魔神ダ・バルトは、黒子世界にたどり着けない限り絶対に倒せないという、正に無敵の魔神だ。

 おそらく魔神同士の戦いでも同様だろう。魔神を支配できる王という意味では魔王に相応しい力があった事は間違いない。

 そういう意味では、なんともチグハグな魔神だったと言える。

「なるほど……な……」

 答えを聞いたラフィアスは、何やら思うところがある様子だった。

 そのまま彼は踵を返し、町に向かって歩き出す。

 確かに、早く武者大路達と合流してジェイを休ませなければいけない。

 ジェイとしてはそれまでに立ち上がれるぐらいになっておきたい。

 しかし消耗は激しく、今もまだ指一本動かせない状態が続いていた……。






 なお、急ぐ明日香達が走り出したため、武者大路達と合流するまでの時間はあとわずかである。

 今回のタイトルの元ネタは、マンガ『超少女明日香』です。

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― 新着の感想 ―
いやもう「お姫さまが抱っこ」のまま行きましょうよw
超力ロボ ガラット でしょう
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