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第291話 黒き太陽

 影世界に入ったジェイが感じたのは違和感、いや浮遊感だった。

 まるで海中を泳いでいるかのような感覚だ。息ができない訳ではないが、ジェイが作り出す影世界とは微妙に異なる。

 光の無い、モノクロの世界。そこまではジェイの影世界と同じだが、こちらは表の世界を再現している訳でも無さそうだ。

 何も無い、果てが見えない世界に、ジェイとダ・バルトの本体であろう醜悪な太陽だけが浮かんでいる。

 似て非なる世界、そんな言葉がジェイの脳裏に浮かぶ。ここはダ・バルトの魔法が作り出した世界なのだろう。

 ダ・バルトの影世界、いや、傀儡の魔法を極めた操り手の世界。操り手は舞台上には上がらない、その概念を形にしたような世界「黒子世界」とでも言うべきか。


「ようやく会えたな、ダ・バルト……!」

 山のような巨大な肉塊――ダ・バルトの本体を睨みつけるジェイ。もっとも相手には目らしき器官が見当たらないため「目が合う」という事は無いのだが。

 ダ・バルトから目を離さないまま、ジェイは手足に力を込めて自由に動ける事を確認する。

 『影刃八法』も発動する。影を使えば、泳ぐというよりも飛ぶに近い感覚で動く事ができそうだ。


「まさか、この世界に潜り込んでくるとは思わなかったぞ……」


 辺りにダ・バルトの声が響く。

 ジェイは本体を見つめて怪訝そうに眉をひそめる。

 声が本体から聞こえていない気がするのだ。

 ここまで何度も騙されてきた事もあり、ジェイの中にあれも本体ではないのでは?という疑念が生まれてしまうのも無理はない。


「ククク……どうした?」


 次は背後から聞こえてきた。

 ここに至って、目の前の肉塊が本体であると断言できない。ジェイの頬を冷や汗がつたう。

 ダ・バルトの笑い声が響き渡る。反響もあって前後、左右、上下、どこから聞こえてきているのかもはや判別不能だ。

 ガンガンと頭を叩かれているかのような衝撃。それは途切れる事なく続く。

 思わず両手で耳を押さえるが、ほとんど効果が感じられない。まるで耳ではなく頭に直接響いてるようにも感じられた。

 これは一刻も早く本体を倒すしかない。

 だが、斬るべき本体はどこにいるのか。心に迷いが生まれる。

 ここで考えていても消耗していく一方だ。

 そう考えたジェイは、とにかく目の前の巨大な肉塊をどうにかしなければいけないと決断した。

 あれが本当に本体か、また偽物なのかは分からない。

 しかし、今も表面から太陽のプロミネンスのように肉の触腕を伸ばしている醜悪な塊。いつあれらがジェイの方に襲い掛かってくるか分からない。

 あれを放置して、黒子世界の中に潜む本体を探すのは現実的ではないだろう。そういう行動を取った時点で、ダ・バルトは攻撃を仕掛けてくるはずだ。

「……いずれにせよ、目の前のアレは放っとけん!!」

 ジェイは決断を下した。

 現時点で本体を特定する事はできない。まずは眼前の醜悪な太陽を打ち倒し、本体かどうかを確認してやると。


 問題はいかにしてそれを実行するかだが、ここは影世界と同じ、周りの全てが影だ。『影刃八法』が使える事は確認している。

「ここで決着を付ける……!」

 『影刃八法』を発動させたジェイは、自身の背中に影の大蛇を生み出す。

 影世界に近い黒子世界で使用しているため『影刃八法』は全力を発揮できる。

 表の世界で生み出す大蛇よりもはるかに大きい、八つの鎌首をもたげる八岐大蛇である。

 これはダ・バルトの太陽を破壊するためのものであると同時に、背後からの奇襲を防ぐためのものだ。

 この期に及んでも本体が特定できぬ状況において、ジェイは慎重であった。


 影の大蛇に対し、太陽が反応を示す。

 大蛇に並ぶ大きさの肉腕を何本も生み出し、鞭のようにしならせてジェイに襲い掛かってきた。

「守る価値はあるようだな……」

 大蛇で迎え撃ちながら、ジェイが呟く。ただの囮ではない。

 やはりあの醜悪の太陽が本体なのか。声だけ別の場所から発生させる術でもあるのか。

 様々な考えが浮かぶ。後者に関しては、そういう機能を持った操り人形がこの黒子世界のどこかに仕込んでおけば可能かも知れない。

 ただ、これまでの正体隠しが執拗、かつ徹底的だったため断言はできない。

 現状で断言できる事があるとすれば、目の前に浮かぶ醜悪な太陽は表の巨人に勝るとも劣らない、いや、おそらく巨人に勝る力があるという事だ。

 影の八岐大蛇相手に、まるで怪獣同士の決戦のような激闘を繰り広げる肉腕。眼前の異様な光景を見れば、その強さも窺い知れるというものである。

 巨人が、その影が内都の王城にたどり着いた時、どれだけの被害が出るか。

 少なくともダ・バルトは、魔法国を滅ぼしたセルツ王家の子孫を決して許さないだろう。

 巨人もそうだが、この太陽も内都にたどり着かせてはならない

 ジェイは改めて決意を固めると、大蛇を背にしたままゆっくりと太陽に近付いて行く。

 対して肉腕は、数を増やして攻撃を激化させた。

 大蛇でその攻撃を受け止めながら、ジェイは不敵な笑みを浮かべる。

「なるほどな!」

 醜悪な太陽が本体かどうかは、まだ分からない。しかし……。

「そいつを倒されるとまずいってのは確かなようだな!!」

 その言葉に反応するかのように、肉腕の攻撃が更に激化する。

 しかしその激しさも、まるで図星を突かれたかのように感じさせる。

 本当に本体である可能性も高い。そうでなくても何かある。

 それはあの巨大の肉塊を一『刀』両断してやれば分かるだろう。

 ジェイはその時が来るのに備えて、両手に魔素を集めるのだった。

 「ドス黒き太陽」の方が正確かも知れません。

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