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第289話 家畜に王はいないッ!!

「では、掛かってくるがいい……貴様を歴史の一節としてやろう……!」


 挑発するような物言いの魔神ダ・バルト。しかしジェイはまず、相手の出方を窺った。

 飾り気の無い、青白い人型。ここまで何かを操る事で戦ってきた魔神が、本体を晒してどのような戦いをするかが予想できなかったのだ。

「どうした、来ないのか?」

 その言葉でダ・バルトに意識を向けた次の瞬間、背後の内壁が変形してジェイに襲い掛かった。光沢ある材質ではあるものの形状はシンプルな槍、純粋な殺意が感じられる。

 頭の内部という狭い場所で、四方八方からこの攻撃を続けられる。それはまずいと判断したジェイは、まず巨人の頭部から破壊する事を考えた。

 しかし、ダ・バルトも黙って見てはいない。ジェイを止めるのではなく、自ら頭の上部、冠部分を開いてみせた。

「何を……」

 するつもりかと言おうとしたところで、ダ・バルトは次の行動に移る。

 なんと巨人と同じように背中から翼を生やし、外へと飛び立ったのだ。

「逃がすかッ!」

 ジェイは咄嗟に『影刃八法』を発動。ダ・バルト自身が生み出す影を使って自身と魔神をつなぎ、ダ・バルトにぶら下がる形で共に外へと飛び出す。

 巨人と違い全身白く、翼も白いため、遠目には天使に見えるかも知れない。日の光の下で見ると、ある種の美しささえも感じさせる姿だ。


 ダ・バルトは自在に飛べるようで、巨人の頭上で翼を羽ばたかせている。

 ジェイは飛べないが、ダ・バルト自身の光の当たらぬ場所に影ができているため、そこを起点に影を結んで振り落とされないようにしている。

「無様な姿よ……」

 文字通りジェイを見下しながら言う。影を絶てば、ジェイは落ちるしかないのだから、ダ・バルトは余裕綽々の態度だ。

「地を這う虫らしく、地に伏せておればいいものを」

 先程のように落下中に巨人にしがみ付く事ができれば墜落を免れるが……。

 しかし、そう考えるジェイの目の前で巨人が移動を再開した。

 遠隔操作なのかダ・バルトはそれについて行こうとはせず、巨人はジェイ達から離れて行く。

「……蹴散らせ」

 そして巨人は、繁華街に足を踏み入れた。

「見ているがいい……魔王の歩みは誰にも止められんのだ」

 容易く踏みつぶされていく家屋。武者大路達は既に退却しているようだが、残っていれば軽く蹴散らされていただろう。

「むしろ、王としては失格だろう。民無き国でふんぞり返る気か?」

「民と言うのは、魔法を使える者を指すのだ」

 思わず皮肉を口にしたジェイだったが、ダ・バルトには効いていない。

 魔法を使えない者達を蛮族とした、旧魔法国時代の常識で生きている。


 壊されていく町並み。屋根から屋根へと飛び移りながら対抗しようとしている龍門将軍の姿も見えるが、黒羽の外套が完成した事で更に攻撃を通しにくくなっているようだ。

 もっともこの状況で片足だけでも斬れてしまうと、巨人が繁華街に向けて倒れる可能性が高いため、斬れない方が良いのかも知れない。

 龍門将軍もそれに気付いたのか、ジェイ達の方に近付いてきている。

 しかし、空で戦う彼等に対してどれだけの事ができるのか。彼の炎ならば届くかも知れないが、高速で飛行するダ・バルトに命中させるのは難しいと言わざるを得なかった。


 ジェイ達から、ゆっくりと離れて行く巨人の背。

 巨人を一刻も早く止めなければならない。そのための方法はひとつ。ジェイは頭上に視線を向ける。そう、操り手であるダ・バルトを倒すのだ。

 両者を結ぶ影は伸縮自在、勢いよく縮める事で高速で距離を詰める事ができる。

 対するダ・バルトは、両手をジェイに向けた。

 悪寒を感じ、咄嗟に発動する魔法を『射』へと切り替え、その反動で軌道を変える。

 直後、地面が閃光を放って爆発した。

「ほう……よく避けたな。小物らしく、小器用に魔法を使いおるわ」

「本体でも同じ事ができるのか!?」

 規模こそ小さいが、巨人が古城を消滅させたものと同じ攻撃だ。

 しかもこちらが連射ができるようで、次々に光球という形で攻撃してくる。

 時に影を切断され、結び直しながらの攻防。いや、伸縮自在の影を駆使しても、ジェイは逃げ回る事しかできない。

 ジェイでなければとうに叩き落とされていただろうが、それでも一方的な戦いだ。

「どうした? 攻撃せんのか?」

「そう焦るなって、そこでおとなしく待ってろ」

 そう言い返したものの、接近するのも難しい状況だ。

 ダ・バルトもそれは見抜いているようで、赤い目をニィッと細める。

 両手を構えるダ・バルト。ジェイは軌道を変えようとするが、その瞬間ダ・バルトは翼を羽ばたかせ、地を見下ろしたまま急上昇した。

「なっ……!?」

「これが、自由に飛べぬ者の末路よ……!」

 影を結んでいる関係上、ダ・バルトが急激に動くとジェイは引っ張られてしまう。

 ダ・バルトが急上昇すると、当然ジェイの位置は――

「死ねいッ!!」

 ――地を見下ろすダ・バルトの真下、構えた両手の先、光球の射線上である。

 回避は間に合わない。そう判断したジェイは、自ら影を切断し、全ての力を防御に回す。

 光球、いや、光線が襲い掛かる。確実に射抜けると全力を注いだ一撃だ。

 重ねた影の防御が、ひとつ、またひとつと破られていく。

「させるかァッ!!」

 だが、防ぎ切った。打ち払うように腕を振るい、光線が霧散する。

 少し光線を浴びてしまい左腕が痛むが、それを気にしている余裕は無い。

 影は絶たれた。再びダ・バルトと結ぶには距離が開き過ぎている。

「まだ終わりではないぞ!」

 何より、ダ・バルトがそれを許さない。両腕に再び力を込める。

 影が無い状態では、ジェイは魔法で軌道を変える事ができない。だから今この瞬間に止めを刺そうと言うのだ。

「これが新たなる魔王の力よッ!!」

 地面の影も届かぬ位置、その最悪のタイミングで最大の光がジェイ目掛けて降り注いだ。

 今回のタイトルの元ネタは、リマスター版の発売が近い『ファイナルファンタジータクティクス』の名セリフ「家畜に神はいないッ!!」です。

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― 新着の感想 ―
ソレはつまり、ダ•バルトのCVは吉野裕行想定… と言うわけでもない?
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