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第282話 力を合わせて

「『刀』ッ!!」

「ちょっ……!?」

 その正体の片鱗を見せた魔神ダ・バルトに対し、ジェイは間髪をいれずに黒炎の『刀』を一閃。突然の動きにアメリアは驚きの声を上げた。

 前列にいた三体が、上下に両断されて崩れ落ちる。

「……この程度では、相手にならんか……」

 響くダ・バルトの声。四騎士を倒された事については、気にも留めてない様子だ。骸を操っているとすれば、痛みを感じているかどうかも怪しいところだ。

 他の騎士達は眼窩を不気味に光らせながら、ジェイ達を遠巻きにしている。攻撃を仕掛けて来る様子は無い。


「何体か斬ったぐらいじゃ、ダメージは無さそうだな……」

 一方ジェイも、崩れた四騎士の骸を影世界に『潜』らせつつダ・バルトを分析しようとしていた。

 実体を持たない、操る魔法を極めた魔神。ならば操っている対象を『刀』で斬ればダメージが入るのではないかと考えたジェイだったが、結果はご覧の通りだ。

 もっと数を斬ればダメージが蓄積されるのか、それともいくら斬っても無駄なのか。現状では判断がつかない。

 この謎を解く事ができなければ、ダ・バルトを倒す事はできないだろう。

「どうした、どうした? 手が止まっているぞ、義息子よ!」

 そこに声を掛けてきたのは、龍門将軍。彼の周囲の四騎士を全て倒し、ジェイ達側に駆け付けていた。

 四騎士達はジェイ達を取り囲み、龍門将軍には背を向けている状態だ。声を掛けると同時に斬り掛かっている。

 確かに彼の言う通りだ。分析するにも、新しい情報を引き出す必要がある。そのためには動かなくてはならない。

 ジェイは気を取り直し、指示を出す。

「ラフィアス、とにかく砕いていってくれ」

「操られないようにだな」

「明日香とアメリアは俺と一緒に」

「はいっ!」

「ちゃんと守ってくださいよ!?」

 ラフィアスと龍門将軍は、四騎士を操れないように倒す事ができる。

 明日香とアメリアが倒した四騎士はダ・バルトに操られてしまうが、ジェイが影世界に『潜』らせればそれを防ぐ事ができる。

 とにかく全員で数を減らす。ジェイ達も龍門将軍に続き、四騎士達に斬り掛かった。

「……これでも影響は無さそうなのが気になるがな」

 問題があるとすれば、この状況でもダ・バルトが焦る様子も見せない事。

 四騎士の数を減らす事は、敵の攻撃を緩める事につながる。

 しかし、それは魔神ダ・バルトを倒す事にはつながらない。

 明日香が斬り伏せた騎士を影世界に『潜』らせながら、ジェイはそう考えずにはいられなかった。


 戦いは一方的に進んで行く。

 四騎士の力は、人間の一般騎士から見れば確かに見れば脅威だろう。しかし、ここにいる面々は一般とは遠くかけ離れている。アメリアでさえも魔法の威力だけなら相当なものなのだ。

 ひとまずは四騎士を片付けられそうだ。

「なっ……!!」

 そう考えた直後、大きな衝撃がジェイを襲った。

「ジェイ!?」

 側で戦っていた明日香には見えた。人の背丈ほどある巨大な拳が、ジェイを殴り付けたのを。

 拳はそのままジェイを壁に叩き付けようとするが、ジェイは影世界に『潜』ってそれをかわした。

 そしてすぐに明日香の影から姿を現す。

「なんだあいつは?」

 壁にめり込んだ巨大な拳。正確には肘ぐらいまで腕もある。

 四騎士と同じ鉱物のような表皮。だが既に壁際に垂れ下がっていたタマゴは全て破壊されている。そもそも、あの大きさのものが入るタマゴは無かった。

 ならば何かと考えるよりも先に、拳が次の動きを見せる。

 ラフィアスによって閉ざされた、通路を塞いでいる氷に殴り掛かったのだ。

「ま、まずいよアレ!」

「チィッ!」

 ラフィアスは拳ごと再び凍らせようとするが、それよりも早く通路が開かれてしまった。待ってましたとばかりに魔物騎士達が雪崩れ込んでくる。

「数だけ増えてもなぁ!」

「寄らば斬りますっ!!」

 龍門将軍と明日香の親子は迎え撃つ気満々で身構えるが、魔物騎士達は二人を相手にしない。

「うわあぁぁぁ!?」

 なんと魔物騎士達は、明日香達に斬り掛かるのではなく、自らの首を刎ねてみせた。

 しかし身体は倒れる事なく動き続け、宙に浮かぶ巨大な拳に縋りつくように集まり、重なり、山となっていく。

 そのおぞましい様を見て、ジェイは気付いた。

 ダ・バルトは一刀両断された四騎士も、磁石のようにつなぎ合わせて立ち上がらせていた。

 龍門将軍に斬られた四騎士は切断面から焼かれていたが、全身全てが燃やされていた訳ではない。

 そう、無事な部分もあった。それを操り、束ねて形作ったのだ。あの巨大な拳を。

 今も拳にしがみついた魔物騎士達が原形を失い、存在しない肘を、その先を形作っていく。


 これがダ・バルトの余裕の正体だろう。

 通路を塞ぐ氷を砕いたのも、援軍を呼び寄せるためではない。

 ダ・バルトにとって魔物は駒であり、材料。四騎士で勝てないならば、より強いものを作ればいいのだ。なんとも邪悪な再生利用(リサイクル)である。

 拳は既に肩をあたりまで完成しており一本の腕となっていた。


「……これでも、お前達を容易く握りつぶせそうだが……」


 ラフィアスに向かって伸ばされる腕。

 咄嗟に氷の壁を作るが、腕の質量の前には紙切れ同然で、容易く砕かれてしまう。

 しかし、その先にラフィアスの姿は無かった。氷を砕く僅かな時間があれば、退避するには十分なのだ。

 空を切った手は、何かを確かめるように握っては開くを繰り返す。


「このまま戦うのも悪くないが……ここは新たな魔王として振る舞うべきか……」


 次の瞬間、地面が揺れた。いや、正確には要塞級が揺れた。

 要塞級が生きていない事は先程確認した。つまり、これはダ・バルトによるものだ。

 どこかに動かそうとしているのか。そう考えたジェイ達だったが、そうではない。

 この時腕の根本は、しがみついて山となった魔物騎士達だけでなく、その下の床――すなわち要塞級にも接続されていた。

 ドクン、ドクンと脈打つように蠢く壁や天井。

「ま、まさかこいつ……要塞級を材料にしているのか!?」

 そう、魔神ダ・バルトにとって全ての骸は材料。

 生きていない要塞級は、それ自体が巨大な骸の塊であった。

 皆で力を合わせてますね。

 敵の方が。

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焦っているように見せつつも、諸共に灰にしてしまえば… とほくそ笑む主人公のイイ笑顔が見える様な…
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