第281話 実体を見せずに忍び寄る……!
明日香がその動きに気付いたのは、鋭利な腕が今まさに振り下ろされようとする瞬間だった。
次の瞬間、明日香はあえて前に踏み込んだ。振り返る時間も無いという判断だ。
空を切る一撃。蘇った騎士は即座に追撃を仕掛けようとする。
「させんよ!」
しかし、ジェイの伸ばした影が巻き付き、持ち上げてそのまま他の騎士に叩き付けた。
その衝撃で蘇った騎士の上半身と下半身は再びバラバラとなる。くっついたと言っても回復した訳ではないようだ。
まだ動くのか? 警戒して見定めようとするジェイだったが、その背後で再び倒したはずの四騎士が立ち上がる。
「こっちもか!?」
ジェイは横っ飛びで避けると同時に魔法『影刃八法』を発動。振り下ろした騎士の腕が影に『潜』り始めた。
影はその足元まで広がり、騎士の身体を丸ごと飲み込んでいく。
直後、影に『潜』ろうとしていた騎士の身体から「力が抜けた」。そしてガクリと項垂れたまま影の中に消えていく。
その様子を訝し気に見ていたのはジェイ。
蘇った騎士が、再び骸に戻った。そのように感じられた。
「後ろぉ!」
アメリアが、ラフィアスを指差しながら甲高い声を上げた。
「こっちにも来たか!?」
ラフィアスは振り返る事なく、背面に向けて魔法を発動。
それから悠々と振り返ると、襲い掛かろうとする体勢のまま氷漬けになってる四騎士の姿が。
「……こうすれば、流石に蘇らんだろう」
そしてドアをノックするようにコンと叩くと、氷は中の四騎士ごと粉々に砕け散った。
何が起きているのか。ジェイは辺りを見回す。
玉座を挟んで向こう側では、龍門将軍の独壇場だ。彼が倒した騎士達は、斬られると同時に燃え上がっている。
周りは黒焦げになって倒れ伏す者ばかりで、あちらは蘇っている様子は無い。龍門将軍が、気付かずに再び斬っている可能性もあるが。
対して明日香やアメリアが倒した騎士達は、次々に蘇ってきていた。ジェイとラフィアスがフォローに入る。
ジェイ、明日香、ラフィアスの三人で、白兵戦ができないアメリアを守る形だ。
「こいつら、斬っただけじゃ倒せないのか……?」
話せる距離まで近付いた事で、四人はこの異様な状況の推理を行う。
この謎が解けなければ、延々に蘇る騎士達と戦い続ける事になりかねない。
「鉱物のような肉体でも生き物なんだ。真っ二つにされても生きているとは考えにくいが……」
龍門将軍やラフィアスが倒したものに比べ、明日香とアメリアが倒した騎士達は、表現として適切かは微妙なところだがきれいなものだ。きれいに切断されている。
そのため、これだけではまだ倒せていないのではという疑問を抱いてしまうのも無理はないのかも知れない。
「ジェイ、ジェイ、多分ですけど、ちゃんと倒せてますよ」
しかし、明日香はそうでなかった。
「……どうして分かる?」
「だって、生きてる方と蘇った方で気配が違いますし」
怪訝そうな顔をするラフィアスに、明日香は眼前に騎士を斬りながらしれっと答えた。
「気配が違う……?」
ラフィアスは「何を言っているんだ、お前は」と言いたげな顔になるが、ジェイの方は真剣にそれを受け止めた。明日香の直感は信じられると判断したのだ。
考えられるとすれば、何者かが骸を操っている可能性だ。
しかも次々に蘇っている事を考えると、それは複数いる。或いは……。
「……蘇っているんじゃなくて、何者かが操ってる?」
龍門将軍やラフィアスが倒した者は、操れないレベルで破壊されていると考えると納得できる。
「明日香が気配を感じているという事は……そいつが憑依しているのかもな」
その時ジェイは、玉座に座っていたフード付きマントの姿を思い出した。
まるで一瞬で中身が消えたように見えたが、あの中身こそが憑依している者ではないか。
「じゃ、じゃあ、そいつって……あいつらよりも強いの?」
アメリアが周囲を取り囲む四騎士達に視線を向けながら言う。
その言葉に三人はハッとなる。彼女の言う通りだ。明日香のように刀で物理的に斬っているだけならともかく、アメリアとラフィアスは魔法も使って倒している。
もしゴーストのような存在が憑依しているならば、魔法で倒された時に一緒に倒されているだろう。
つまり、憑依しているのは魔法にも耐えうる強者。その正体は……。
「魔神ダ・バルト! 奴は実体を持たない魔神なのか……!?」
魔神とは魔法の極みであり、その姿は魔法の性質によって千差万別となる。
ならば「実体が無い姿」というのも、魔法によっては有り得る話であった。
その言葉を皮切りに、四騎士達の攻撃が激しさを増す。龍門将軍側にいた者達も、踵を返してジェイ達に向かってきた。
「これは、ジェイに正体を見抜かれて怒りましたかね?」
「それなら私は無視してくれないかなぁ!!」
アメリアが悲鳴を上げるが、そもそもジェイ達に守られているので彼に向かえばおのずとアメリアも攻撃範囲に入ってしまうのである。
「つまり、ダ・バルトの魔法は『憑依』か?」
「『操る』方じゃないか?」
百魔夜行の整然とした動きも、そういう『操る』魔法によるものだったと考えると筋が通る。
「……『操る』事を極めたら、操り手の姿は必要無くなったという事か」
人形浄瑠璃等で観客から「いないもの」として扱われる黒子、その究極形と言えるかも知れない。
「…………そこまでは正解、と言っておこう…………」
悪寒を呼び起こすような声が響いた。どこから聞こえてきたかは分からない。
エコーが掛かっているように聞こえるが、そうでない。
ジェイ達を取り囲む四騎士達の眼窩が不気味に光る。そう、声は全ての四騎士から発せられ、重なって聞こえているのだ。
この声は操り手、すなわち魔神ダ・バルトの声だろう。
百魔夜行の主、その片鱗がジェイ達の前に姿を現したのである。
今回のタイトルの元ネタは『科学忍者隊ガッチャマン』の口上の一部です。
魔神ダ・バルトは白くもないし、影でもないので途中までですが。




