第277話 五人そろってゴニンジャー
「では、出発する時に呼ぶがいい!!」
そう言うや否や、龍門将軍は刀を抜き放って魔物の群に飛び込んで行った。
刀は赤熱を通り越して赤々と燃え上がっている。魔法『魁刀炎魔』によるものだ。 ダイン幕府ではそう呼ばれる事は少ないが、彼もまたれっきとした魔法使いである。
これで時間を稼げる。ジェイはその間に、誰を連れて要塞級に乗り込むかを考えた。
まず実力的に、ジェイ、ラフィアス、そして龍門将軍は確定だろう。
「あいつはどうする?」
ラフィアスが、顎で指したのはアメリア。彼女もまた魔法使いだ。
それに気付いたアメリアは、巻き込まれてはたまらないと防塁に身を隠す。あまり意味は無いが。
「魔法の威力はなかなかなんだが、それ以外はな……」
しかしジェイは、アメリアを連れて行く事にはあまり乗り気ではなかった。
少しでも戦力は欲しいが、生半可な実力では命を落とすだけ。厳選しなければならない。
確かにアメリアの魔法は強力だが、それ以外が心許ない。魔物相手に自衛ができないのだ。
「それなら、あたしが守ります!」
「はいぃ!?」
はい、はい!と手を挙げる明日香。その唐突な申し出にアメリアは素っ頓狂な声を出す。
余計な事を言うなと言いたげだが、言葉にならずに口をパクパクさせている。
明日香は百魔夜行の親衛隊相手でも戦えるが、魔法は使えない。
ならば二人をセットにして、明日香がアメリアを守るのに集中すればどうかという事だ。
「姫様は私が守りますので……」
「いや、それはダメだろ」
明日香の侍女も同行を申し出るが、それはジェイが止めた。
残念ながら彼女の腕では、魔物騎士の強靭な甲殻を斬る事ができない。
「明日香の護衛対象が増えるだけだ。それなら明日香も同行させない」
「そこは私の名前も出してくれないかなぁ!?」
もしや自分だけ連れて行かれるのではと危機感を抱いたアメリアが抗議の声を上げた。
「大丈夫です! お父様も一緒ですから!」
「……分かりました」
明日香に言われれば、侍女も引き下がるしかなかった。
「決まったか?」
「ああ、この五人で行こう」
他にも魔物騎士に対抗できる者はいる。武器を戦槌に持ち替えた獅堂などもそうだ。
しかし、敵の本拠地に乗り込むと考えると魔法無しでは厳しい上に、防塁に残す戦力を減らし過ぎてもいけない。
それを踏まえると、ジェイ達三人に、明日香とアメリアを加えた五人が最適だろう。
周囲を見回すと、龍門将軍が散々斬って回ったおかげで一時的に魔物の数が減っている。ジェイ達はその隙を突いて戦場を突破。そのまま森に入り南岸の要塞級へと向かうのだった。
一行はジェイ、明日香、龍門将軍が前に出て魔物の群を切り開き、ラフィアスとアメリアがその後に続く。
アメリアは当初逃げようかどうしようかと迷っていたが、ある程度進むとここから一人で逃げる方が危険だと判断したらしく、諦めた様子でおとなしくついて来ている。
道中問題があれば、影世界に『潜』る事を考えていたジェイだったが、幸いその必要は無かった。
魔物と遭遇しなかったのではなく、魔物相手に足を止める必要が無かったという意味で。
「魔物、まだ尽きないんですかーっ!?」
「ハッハッハッ! 明日香よ、この程度で泣き言を言うとはまだまだだな!!」
悲鳴のような声を上げながらも、目の前に現れた魔物は斬り伏せて突き進む明日香。そんな娘を、父親は笑いながら嗜めた。
「で、でも……結構な数倒しました……よね?」
「…………」
息を切らせながら問い掛けるアメリアだったが、ラフィアスは返事をしない。消耗した体内魔素を少しでも回復させようとしているのだ。魔素結晶を握りしめたまま走っている。
しかしアメリアは、そんな事は分からず刺々しい態度と感じて若干怯んでしまう。
「おそらく百魔夜行の半分以上は倒せている。今こっちに向かってきているのは、要塞級の後方にいた連中だろう」
代わりに答えたのは、前を走っているジェイだった。
「……じゃ、じゃあ……あとちょっと?」
「今回率いているっていう魔神ダ・バルトが追加で呼んだりしなければな」
魔法で喚ぶ可能性も考えられる。
それからしばらく走り続けると、一行は海岸が見えるところまで到着した。
すぐに森を出ようとはせず、まずは要塞級の様子を窺う。これは息を整えるためでもある。
もっともそれを必要としているのはアメリアだけであり、明日香とラフィアスはさほど間を置かずに回復。ジェイはまったく呼吸を乱しておらず、龍門将軍に至っては鼻歌混じりであった。
「ジェイ、ジェイ」
「どうした?」
「お父様、ご機嫌ですよ。ジェイと肩を並べて戦えて、嬉しいんでしょうね」
そう言う明日香も、実に嬉しそうだ。
結婚すれば義理とはいえ親子となるのだ。やはり仲良くしてくれた方が良いのだろう。
「さて、どうする義息子よ」
少々気の早い言葉が混じっていたが、ジェイはそれをスルーする。
要塞級の上には黄色い雲の姿をした魔物『黄煙』が群を成している。
砂浜、及び要塞級周囲の海には、魔物の姿は無い。
「黄煙を片付ければ、内部に突入できそうですね」
「……ああ、あれも魔物か。どのように攻撃してくるのだ?」
初見の龍門将軍とラフィアスは、要塞級上部に漂う雲が魔物だと気付かなかったようだ。
ジェイはあれが一体ではなく無数の魔物の群であり、地上に向けて電撃を放つ事と、上には攻撃できない事を伝える。
普通に剣が届く距離ではないので、魔法で片付けるのが一番だが……。
「なるほど……余に任せよ」
そう言うやいなや、龍門将軍が刀を抜きながら森を抜けて砂浜に歩を進める。
接近を察知したのか、黄煙の群がバチバチと電流を迸らせ始める。
しかし龍門将軍は意に介さずに魔法『魁刀炎魔』を発動。刀身を大きく燃え上がらせる。
危険を察知したのか、黄煙の群が龍門将軍に向けて動き始めた。
そして一斉に電撃を放とうとする……が。
「邪魔をするでないわァッ!!」
龍門将軍が刀を振り下ろすと同時に噴き出る炎。それは大きな火焔の竜巻となって黄煙の群を飲み込んだ。
周囲にも余波が襲い掛かるが、ラフィアスが氷の壁を張ってそれを防ぐ。
「まったく無茶苦茶だな……君は本当にアレに勝ったのか?」
「……撃退しただけだよ」
アーマガルトを守り切ったという意味では、勝利した事には違いない。
それはともかく、竜巻が収まると、そこに黄煙の姿は無くなっていた。
要塞級へと突入を阻むものは、もう無い。
この隙を逃してはならない。ジェイ達は顔を見合わせて頷き合うと、森を抜けて要塞級に近付いていくのだった。
今回のタイトルの元ネタは『秘密戦隊ゴレンジャー』のセリフです。
ジェイは多分ブラックですね。ゴレンジャーにはいなかったはずですが。




