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第274話 影、出でよ、汝……

「うわわわ!? こっち来たぁ!!」

 慌てた声を上げたのはアメリア。

 一歩、一歩、ゆっくりと近付いてくる土騎士。アメリアにはそれが「自分を狙っている」と感じられた。

 その直感は間違っていない。この戦場にいる数少ない魔法使い。それは四騎士の優先排除対象であった。

「来るな! 来るなァッ!!」

 防塁に身を隠しながら風の刃を放つが、土騎士の表皮を傷付ける事はできない。

 尻尾を巻いて逃げ出そうか。迫り来る土騎士の圧に負け、そんな選択肢が頭をよぎる。

 だが行動に移すよりも先に、空から急降下してきた影が。アメリアは思わず目をつむる。

 その影はジェイ。突き出した黒炎の『刀』、その炎を纏って一筋の流星となっての一撃。足元が岩の槍に囲まれて近付けなければ、真上から攻撃すればいい。そう言わんばかりの急襲だ。

 土騎士は盾を頭上に掲げて防ごうとするが、『刀』の前には無意味である。

 恐る恐る目を開いたアメリアが見たのは、盾ごと頭部を貫かれ、顎から黒炎の刃先を飛び出させた土騎士の姿。

 直後、全身の甲殻の節々から勢いよく黒炎が噴き出し、ジェイが土騎士の頭から飛び降りた。

 黒い火柱の中で、バラバラになって崩れ落ちていく土騎士の肉体。その様はまるで鎧の内側から黒い炎に焼き尽くされているかのようであった。

 火柱を呆然と見上げるアメリア。そこにジェイが声を掛ける。

「大丈夫か?」

 アメリアはジェイの方を見上げるが、返事はできずにコクコクと頷くばかりだった。


 その一方で、ラフィアスの相手は残った炎騎士となる。

「下がれ……お前達は雑魚の相手をしておけ」

 傲岸不遜な物言い。突然現れた学生騎士に言われては、カチンとくる者も少なくない。

 しかし、水騎士を氷漬けにした事から彼が魔法使いである事は分かっている。

 彼は水騎士を内部まで凍り付かせ、周囲の氷ごと粉々にしてみせた。魔法使いの中でもかなりの強者である事は間違いないだろう。

 それに炎騎士相手では、命懸けの足止めしかできないのは事実。現にここまでに大きな犠牲を払っている。周りの南天、極天騎士達は素直に退いた。

 炎騎士は、それを追おうとしない。その視線はラフィアスを正面に見据えて動かない。目かそれに類する器官が顔の正面にあるとすれば、だが。

 炎騎士もまた、脅威となり得る魔法使いを優先的に狙うという事だろう。

 ラフィアスは倒れ伏す騎士の側に落ちていた剣を手に取った。炎に焼かれ、まだ熱を持っていた柄が、冷気を放つ手によって急速に冷やされていく。

「やれやれ、面倒な事だ」

 そして、その剣を軸にして瞬く間に氷の剣を生み出す。

 表には見せていないが、ここまで急行してきた疲労が蓄積しているため、大規模に氷を生み出すような真似は難しいだろう。

 だが、ラフィアスは余裕のある態度を崩さない。

 彼は魔神を目指す者として、魔神に到達していない魔物如きに負けるつもりは無いのだ。


 騎士達が遠巻きにして魔物達を食い止める中、ラフィアスと炎騎士の戦いが始まった。

 人間ならば両手で持たねばならないであろう大剣。間近で見ると、大剣が繋がった右腕だけ太くなっているのが分かる。

 その重量を活かした一撃。しかし、剣速自体は、そこまで速くない。

「おっと、随分と豪快だな!」

 ラフィアスは軽々と避けて見せた。

 だが、追撃を掛けるように炎の帯が襲い掛かってくる。

「遅い……が」

 それと同時に彼の周囲で煙のようなものが発生する。

「……なるほどな」

 ラフィアスは、それが何であるかを瞬時に判断した。

 水蒸気だ。炎騎士が放つのは炎だけではない。それに付随して熱波が周囲の者達に襲い掛かる。

 並の騎士では、目を開けている事もできなくなり、そこを狙われ返す刀で一刀両断となるだろう。

 だが、ラフィアスは違う。

 氷の魔法使いである彼は、魔法を発動している間、常に微細な氷を含む冷気を纏っている。それが相殺し合って、水蒸気を発生させているのだ。

 おかげで彼は、炎騎士を前にしても問題無く戦う事ができていた。水騎士とは別の意味で相性が良い相手である。あるいは、炎騎士にとって相性が悪い相手と言うべきか。


 再び大剣を振るう炎騎士。ラフィアスはそれを氷の剣で迎え撃つ。

 巨人の両手剣と人間の片手剣、傍目にも凄まじい質量差だが、ラフィアスはその重い一撃を軽々と弾いてみせた。

 遠巻きにしていた騎士達から、思わずおおっと声が上がる。

 種明かしをすると、ラフィアスは剣同士が接触する瞬間を狙って魔法の出力を上げているのだ。

 緻密とも言える魔法の制御能力。彼の魔法使いとしてのレベルの高さを示している。

 もっとも当人は、疲労もあってできるだけ消耗を抑えながら戦おうとしているだけなのだが。

「……さっさと終わらせようか。あまり時間を掛けたくないのでね」

 後半、掛け値無しの本音である。

 対する炎騎士は感情を見せない。そもそも、あるのかどうかも分からない。ただ、圧倒的な力で大剣を振るう攻撃を繰り返している。

 当たれば一撃必殺。避けても炎と熱波が襲い掛かる三重の攻撃。そして生半可な攻撃では傷ひとつつかない鎧のごとき表皮。凡百の騎士ならば、それで十分だったのだろう。

 特に後者は、ラフィアスも例外ではない。氷程度の強度では、四騎士の表皮は傷付けられないだろう。

 しかし、今目の前にいる敵はラフィアス。魔神に到達すべく研鑽を重ねる若き俊英である。

 ただ強いだけの攻撃など、彼にとっては児戯に等しい。

 ラフィアスは迫り来る一撃を、弾か――ない。

 弾くと見せかけ、繰り出すはずの剣を空いたもう片方の手で掴んで引く。

 そして攻撃を空振りさせると懐に潜り込む。炎騎士の大きな身体を、ラフィアスが至近距離で見上げる形となる。

 ここまで近付くと炎騎士自身の放つ熱が襲い掛かってくるが、冷気を纏うラフィアスには通じない。

 そして刀身を掴んだままの氷の剣を、まるで槍の様に――


「剣とは、ただ振り回すだけの物じゃないんだよ」


――狙いを定めて突き立てた。

 氷の切っ先は寸分違わず炎騎士の首、硬質の表皮で覆われていない鎧で言うところの装甲の隙間を刺し貫く。

「フッ……案の定だ」

 如何に硬い表皮をしていても、身体を動かしている以上、関節部分は他より脆い。鎧に似た形状をしているのだから、その構造も同じような物。そう想定しての一撃だ。

 途端に首から噴き出す蒸気。炎騎士の熱と氷の剣、ただの氷であれば剣が溶けて終わりだ。

 だが、これは魔法で生み出す氷。魔素が続く限り氷は生み出される。

 そして疲労しているラフィアスは、ここで魔素の量を比べるつもりは無い。

「……弾けろ!」

 直後、その言葉と同時に炎騎士の頭部が勢いよく宙を舞った。

 首を貫いた剣は、魔法で生み出した氷。魔素を注ぎ込めば、大きさも形も変わる。

 そう、内側から傷を広げる事で、炎騎士の首を切断してみせたのだ。

 そのまま動かなくなる炎騎士。ラフィアスに向かって倒れるが、彼は咄嗟に身を引いて避けた。

「やれやれ……往生際が悪い」

 最後の攻撃……という意図があったかどうかは謎だが、そのまま受け止めていれば大火傷は確実だっただろう。

 だが、それも不発に終わった。噴き出していた炎が消え、炎騎士の身体は輝きを失っていく。

 平原の戦いにおいて猛威を振るっていた四騎士は、ここに全滅したのである。

 今回のタイトルの元ネタは、アニメ『魔導王グランゾート』の呪文「光、出でよ、汝グランゾート」です。

 グランゾートが「炎と大地の魔導王」なので丁度良いかなと。

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