第257話 夜行の軍団
「ククク……チャンスが巡ってきたぞ……!」
風騎委員室で防衛戦参加者達のリストをチェックする風騎委員長の周防。
思いのほか多い人数に、彼は一人ほくそ笑んでいた。
彼の予想では、防衛戦と言ってもそう危険なものではない。
というのも主戦場となるのはアーロ。正規騎士団は援軍に駆り出されるだろうが、学生騎士までお鉢が回ってくる事は無いだろう。
周防が考えていたのはこうだ。正規騎士団が援軍に向かうと、その間残った別の騎士団が穴埋めしなければいけない。
そうするとまた別のところに穴ができてしまうので、風騎委員がそれを埋める。おそらく騎士団不在となった町の治安維持をする事になるのではないだろうか。
参加者の中から騙されたと言い出す者も出るかも知れないが、嘘の依頼ではない。裏方ではあるが、セルツを守るための役目である。
変に前線に顔を出そうとすると邪魔者扱いされてしまうが、これならば確実に通るだろう。
百魔夜行のニュースを見た周防は、瞬時にそこまで考えて学生ギルドに依頼を出した。
結果は、まだ半日も経っていないのに参加者多数である。そして、この戦力がそのまま周防の功績に繋がる。
この戦力をどう使うか。考えるだけで思わず笑みがこぼれてしまう。
ポーラ島の治安維持を風騎委員だけで担えるかも知れない。送られる援軍の規模によっては内都も手薄になり、そちらの治安維持にも関われるかも知れない。
無論、それで失敗してしまっては意味が無い。
この集まった戦力をどう活かすべきか。周防は参加者達のリストを手に、部隊の編成を考え始めるのだった。
なおご存知の通り、今回の百魔夜行はアーロに上陸しようとせず、真っ直ぐセルツに向かっている。
それを伝える緊急ニュースが放送されるのは、もう間もなくの事である。
その後、周防の絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。
なお進行ルートの件は、東の海上を進む百魔夜行を確認したアーロ大神殿が、慌ててセルツに連絡したものだ。
港からさほど離れていないにもかかわらず、一部の魔物が散発的に襲ってくるだけで、ほとんどの魔物は真っ直ぐにセルツを目指しているとか。
この情報が届いた宮廷は、すぐにSHKに命じて緊急ニュースを放送させたという訳である。
そのニュースが放送されると、町は騒然となった。
百魔夜行が来たと言っても、あくまで戦場はアーロ。夏もセルツには影響が無かった事もあって、そんな意識がどこかにあったのかも知れない。
それが急に、内都が戦場になると言うのだ。いや、進行ルートを考えると、ポーラ島の方が先かも知れない。
特に内都は叛乱騒ぎで大きな被害が出たばかり。次は守り切れない。そう考えてしまうのも無理はないだろう。相手が百魔夜行なのだから尚更である。
「どけ! 道を開けろ!」
「押すなよ! つっかえてるんだから!!」
「うわ~ん! ママぁ~!」
そのため内都から逃げ出そうとする民が続出。とにかく南を避け、北へ、西へ、東へ。各門は内都から脱出しようとする民でごった返していた。
ポーラ島も同様だ。本土とつながる橋は、脱出しようとする人々で大渋滞となっていた。
それらに対し各門、橋を守る騎士達がどうしたかと言うと……特に止めるような事はしなかった。
下手に止めようとすると、かえって混乱が起きる。逃げたい者は逃がしてやれと宮廷から伝達があったのだ。
そのため彼等は、人混みで怪我人が出ないように見守り、無事に安全な場所まで避難できるよう祈るしかなかった。
「なんてこったぁ!!」
一方、王宮内の一室でも絶叫が響き渡っていた。
部屋の主は、極天騎士団長の武者大路。こちらも百魔夜行の進路情報を受けててんてこ舞いである。
百魔夜行は、これまでに何度も起きている。だが、セルツに直接向かってくるというのは歴史上初めてではないだろうか。
何が起きるかは分からない。それよりも早急に考えるべき問題がある。
それに百魔夜行がアーロに上陸しようとしないという事は、セルツに到着するまでさほど時間が無いという事だ。おそらく飛行する魔物達は、到着まで半日も掛からないだろう。
まずは内都の混乱を最小限に抑える事。逃げたい者は逃がせと命令を出したのは彼である。
その次に考えるべき事は、戦力の再配置である。
先程までは内都の騎士達をアーロに送り、必要ならば東天騎士団や西天騎士団からも援軍を呼ぶ事を考えていた。
それが今や、セルツの方が援軍を呼ばなければならない状況に陥ってしまっている。
不幸中の幸いなのは、アーロが大きな犠牲を払いながらも死島防塁での上陸阻止に成功したという報せも届いた事だろうか。
流石にアーロから援軍を呼ぶ事はできないが、セルツは自国の防衛に集中する事ができる。
しかし、北に援軍を送ろうとしているマグドクとニパに対し、やはり南に……と要請する事は難しいだろう。
そもそも時間的猶予が無い。国内から援軍を呼ぼうにも、間に合う範囲は限られているだろう。そして東天や西天のような国境を守る騎士団は、この範囲外である。
「戦力は必要だが……!」
そうなると間に合う範囲に片っ端から魔動電話を掛けて騎士を招集するしかない。
しかし武者大路は、あまり気が進まなかった。
というのも、東天や西天を呼ぼうとしていたのは、彼等が腕利き揃いだからだ。国境を守っているのだから当然である。
特に東天は、ダイン幕府との戦いを繰り広げてきた実戦経験豊富な騎士団だ。それに比べて国内の騎士は、実戦経験に乏しい者が多い。下手に召集すれば被害も大きくなるだろう。
しかし、それでも訓練を受けた騎士なのだ。招集すれば戦力になる。
そして今のセルツの状況では、招集しないという選択はできない。
気が進まない。それでもやらねばならないのが極天騎士団長の背負う責任であった。
今回と前回のタイトルは、二つ合わせて「迫る百魔、夜行の軍団」。
という訳で、初代仮面ライダーの主題歌が元ネタとなっております。




