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第251話 転ばぬ先の内助の功

「ねえ、どうかしたの?」

 モニカがジェイにそう声を掛けたのは、二人きり――夜の寝室での事だった。

 明日香、エラより先に子供ができたら不都合があるため二人とも寝巻姿だ。それは似たデザインであり、ほぼ色違い。お互い子供の頃を思い出す心安らぐ時間のはずなのだが……。

「何か気になる事があるんでしょ?」

 モニカはジェイの隣に腰掛けると、うりうりと許婚の頬をつつく。

 彼女は付き合いが長いだけあってか、ベッドに寝転がり天井を見上げるジェイが安らぎとは程遠い心境である事に気付いた。

「その顔はアレだよ。なんか見逃がしてるかも~って思ってる顔」

 ジェイの隣に自分も寝転がったモニカが言う。

 言うなれば、喉に小骨が引っ掛かっているかのような違和感。

 しかし、その正体が分からない。

 アーマガルトで何かあれば、自ら忍軍を率いて解決してきたジェイ。だが今は、どこを調べればいいのかも分からない状態。

 その現状にもやもやしたものを感じているのだろうなとモニカは読んでいた。


 モニカは、ジェイの耳元に顔を近付けて問い掛ける。

「気になってるのは『南側』?」

「ああ……」

「……それってアーロだったりしない? あそこの商人が協力してたんでしょ?」

 ジェイと明日香が南天騎士団の捕り物に遭遇した際に聞いてきた話だ。

 アーロのゴーシュには魔王教団がいたので、今も別の町等に残っている可能性はあるが……。

「それだと、ちょっと違和感があるんだよな」

「どうして?」

「タルバの叛乱は南側と連携するのが前提だったんだと思うんだが」

「連携できてない?」

「……いや、連携しても戦力が足りないんじゃないかなと」

「ああ……」

 タルバの『純血派』に、アーロの魔王教団。どちらも今は主流派ではない。

 「追い詰められているからこそ、一発逆転を狙う」という動機は理解できないもない。

 しかし、それだけに両者の戦力を合わせてもセルツには届かないのではないかというのがジェイの分析だった。

 『純血派』は数の上ではタルバ軍に勝てないだろうし、アーロの魔王教団も神殿騎士団には勝てないだろう。

 その後更にセルツとも戦うとなると、マグドク、ニパも相手にする事になる。とてもじゃないが勝ち目があるとは思えなかった。

 特に今は、ダイン幕府との和平が進められているので、東天騎士団の戦力がある程度自由に動かせるのだから尚更だ。

 それならば、他に両者が頼りにしていた戦力が存在していたのではないか?

 ジェイはそこまで考えたが、やはりそれが何であるかが分からない。結局もやもやは晴れないままだった。

「実はマグドクやニパが……って事は?」

「南じゃないんだよなぁ」

 現在確定しているのは、タルバの『純血派』と連絡を取り合っていたのはアルマより南にいるという事。

 そしてマグドクは西寄りの北西、ニパは北寄りの北東である。

 戦力的には、マグドクも向こうに回ればセルツとも戦えそうではあるが……。


 そこまで考えたところでジェイはハッとなって身体を起こした。

 そして考える。自分はひとつ勘違いをしていたのかも知れないと。

 アーロはタルバの『純血派』に協力していたが、それはどのような形でのものだったのか。

 『純血派』と魔王教団の大きな違いは、前者は落ち目とはいえ華族であるのに対し、後者はアーロ神殿に押さえ込まれて隠れて信仰しなければならない立場。

 戦力が足りないのは確かだが、そもそも国を相手取れるだけの戦力を用意できるのだろうか?

 協力と言っても、叛乱を起こす以外の形でのもの。その方が納得できる。

 ならば魔王教団に何ができるのか。そう考えた時、ジェイの脳裏にひとつの可能性が浮かび上がった。


 モニカも身体を起こし「何か分かったの?」とその顔を覗き込む。

 するとジェイは、真剣な面持ちでずいっとモニカに顔を近付けた。

「モニカ、ひとつ頼まれてくれるか?」

「え、いいけど……何?」

 するとジェイは手を添えてモニカの耳元でひそひそと話し始める。

 頼み事の内容を聞いた彼女は、目を丸くしてジェイの顔を見た。

「それくらいならできるけど……必要?」

「まぁ……無駄に終わるなら、それにこした事はないんだがな」

 閃いたと言っても確証は無い。しかし、考えが至ってしまった以上は無視もできない。

 ジェイとしては、もし当たってしまった時のためにあらかじめ手を打っておこうという意味合いが強いようだ。

 しかし、モニカは知っていた。彼の石橋を叩いて渡る的な考え方が、何度も大きな被害を未然に防いできた事を。

 そのジェイから頼まれた以上、彼女に断るという選択肢は無い。

「じゃあ、明日の朝一で連絡取るから」

「頼む」

「ホント、無駄に終わればいいんだけどね……」

「まったくだ」

 二人はそう言いつつも、内心嫌な予感は拭えない。

 翌朝、モニカは朝一番に商店街のシルバーバーク商会支店に連絡を入れ、ジェイの頼み事を伝えるのであった。



 それから三日後の事であった。事態が大きく動いたのは。

 今年の投稿は、これで最後となります。


 皆さま、来年もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
良いお年をー
今年も一年更新お疲れ様でした。 良いお年をお迎えください。
今年も楽しい物語をありがとうございました! 良いお年を!
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