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第249話 リビングデッドタウン

「商店街も静かになりましたねぇ」

 辺りを見回しながら明日香が呟いた。

 明日香と侍女、ジェイと忍軍の四人で商店街を巡回している。風騎委員としてだ。

 学生の多くが避難した今、南天騎士団は『純血派』の潜入を警戒するのに力を入れており、巡回のような日常業務が風騎委員に回されているのだ。

「商店街の人も、減ってるみたいだな」

 ジェイの言う通り、商店街の大通りは休んでいる店が目立つ。学生が減ると商売にならないというのもあるのだろう。既に島から避難している人もいるようだ。

 開いているのは主に食料品など残った者達にとって無くては困るような店ばかり。

「向こうの魚屋の女将さん、残ったあたし達の生活を支えるんだって張り切ってましたよ!」

「気合い入ってるな……」

 ある種の使命感、なのかも知れない。


 四人が通りを歩いていると、慌ただしく駆けて行く南天騎士の一団とすれ違った。

 小熊の姿も見えたので明日香は声を掛けようとしたが、彼はこちらに気付きもせずにそのまま行ってしまう。

「あれ?」

「……何かあったのか?」

 顔を見合わせるジェイと明日香。潜伏している『純血派』が見つかったのかも知れないと考えた二人は、踵を返して小熊達の後を追った。


 小熊達は大通りから脇道に入って行き、そこにある店に踏み込んでいた。

 それを見たジェイは、すぐさま忍軍に指示を出して裏口へと回らせる。念のためのフォローである。

 そして自らは明日香と侍女を連れて表口へと近付いて行った。

「何事です?」

「ああ、君か」

 小熊は店に突入していたようで、待機していた南天騎士に声を掛けた。相手はジェイの事を知っており、すぐに事情を説明してくれる。

「前の叛乱の時に、この店が潜入の手助けをしていたらしい」

「集会をしてた人達ですか?」

 明日香の問い掛けに、南天騎士は頷いた。

 つまり、この店の商人は『純血派』の協力者だったという事だ。南天騎士団は、こういう方向からも潜伏者を探している。

「タルバの商人ですか?」

 そうジェイは尋ねた。

 この商店街には、遠方から入学する学生の生活をサポートするため付き合いのある地元の商人が貸店舗で店を開くという事がよくある。

 だからタルバの商人ではないかと考えたのだが……。

「いえ、違うみたいですね……アーロ商人のようです」

「……アーロ?」

 しかし、その推測は外れていた。北国のタルバどころか、セルツから見れば唯一南側となる島国アーロの商人だったらしい。

「ど、どういうつながりなんでしょう?」

 これには思わず明日香も疑問を口にした。

 連合王国の北端と南端の両国。国交が無い訳ではないが、今タルバで叛乱を起こしている『純血派』はれっきとしたタルバ華族だ。

「利用するならばタルバ商人の方が容易いし、島に潜入もさせやすいだろう」

「にも関わらず、利用したのはアーロ商人……ジェイ、ジェイ、どうしてですか?」

「タルバ商人を利用したら自分達の存在がバレると思ったのか……」

 まず考えられるのはこれだろう。あえてタルバ商人を使わなかったという事だ。

「他に考えられるのは…………あ」

「あ?」

 他に何かないかと考えたジェイは、ある事に気付いて思わず声を上げた。

 隣の明日香がオウム返しにしながら小首をかしげる。

「そう言えば魔王教団があったな、アーロには」

 『純血派』ならば、魔王教団ともつながりがあってもおかしくない。

 もしかしたら魔法使いでないタルバ商人よりも話を通しやすいかも知れない。

「そうなのですか?」

 南天騎士が問い掛けてきた。

 ジェイ達が祭壇を発見した結果、ゴーシュに残っていた魔王教団については壊滅させる事ができた。

 その件は宮廷にも報告しているはずだが、同時に魔神サルド・カルド、ワルム・カルド討伐についても報告している。

 魔神のインパクトで、魔王教団は話題にならなかったのかも知れない。

「ジェイ、ジェイ、ゴーシュの魔王教団は……壊滅させましたよね?」

「他の町にいないと確認した訳じゃないからなぁ」

 アーロに魔王教団がまだいるのかについてだが、他の町についてはなんとも言えない。

 その後アーロで調べられてはいるだろうが、その結果をジェイ達は知らなかった。

「アーロの魔王教団が関係しているかも知れない。狼谷団長にそう伝えてもらえますか?」

「分かりました。伝えておきましょう」

 そんな話をしている内に、店内の捕り物は終わったようだ。

「おお、二人とも来てたっスか!」

 逃がす事なく捕らえられたようで、小熊達が意気揚々と店から出てきた。

 フォローの必要は無かったようで、忍軍もそっと戻ってくる。

「小熊さん、どうでした?」

 明日香が尋ねると、小熊は少し困った顔になって頭をかく。

「前の時に『純血派』に手を貸してた事は確かなんスけど、今回は声も掛けられてないって話っスね……これから本部で、もっと詳しく聞き出すっス、狐崎隊長が」

 そういう尋問は、狐崎の得意とするところだとか。

 捕らわれた商人達は、がっくりと項垂れている。ここまで大事になるとは思っていなかった、と言ったところか。この様子なら、頑なに喋らないという事は無さそうだ。

「何か知ってたらいいんですけどね~」

「期待薄……かな」

 しかし、今調べるべき「南側の脅威」について分かるかどうかは微妙だと思われる。

「ま、ま、こいつらを本部を連行したら、次は港の方を調べるっスよ」

 なお、小熊はまったくへこたれていないようだ。

 見つかるまで探せばいいと、捜査は足で稼ぐを地で行くつもり満々らしい。

「それじゃあ凱旋っスよ! はっはっはっー!」

 元気に先頭を歩き、南天騎士団本部へ戻っていく小熊達。

「……あの明るさ、今のこの町には貴重かも知れないな」

「あ、明るさなら負けませんよっ!」

 明日香が対抗心を燃やすが、方向性が少々異なるかも知れない。

 いずれにしても、暗くなっているよりはあれぐらいの方が良いかも知れない。そんな事を考えながら、ジェイは彼等を見送るのだった。

 今回のタイトルは「ゴーストタウンまではいってない」という意味合いで付けました。

 「リビングデッド」はアンデッドモンスターではなく「生気に欠けた人」という意味合いで使っています。

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― 新着の感想 ―
生きている死体ではなく 死んでない生者 と言うことですか 人の気配の少なくなった街から、 ゾンビパニック的な奇襲が始まるのかと 身構えてしまいましたね。 極めて唐突に始まるのかなと?
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