第248話 虎臥ラフィアスの憂鬱
一方その頃タルバ王都では、タルバ王国軍と叛乱軍の戦いがひとまず鎮静化していた。
戦いが終わった訳ではない。叛乱軍は旧市街を中心にタルバ王都の三分の一ほどを占拠して、王国軍と睨み合って膠着状態。結果として戦いが収まっているのだ。
どちらも決め手に欠けているとも言う。
ヤマツとオーサが睨み合っていた寺院も、一度戦場になったが今は収まっている。
北天騎士団の部隊が寺院を包囲するヤマツの部隊を急襲。そのタイミングを逃さずにオーサ達も攻め掛かり、ヤマツ達はほうほうのていで逃げ出していた。
その後ヤマツは家に戻って体勢を立て直そうとしたが、現当主ミノスが反抗して追い払ってしまった。
それからのヤマツ達の足取りはハッキリとしていない。叛乱軍の『純血派』と合流したのではないかと考えている。
なおオーサの方も、その後家には戻っていないようだが……。
「随分と混乱しているな……」
ジェイ達のクラスメイトであるラフィアス=虎臥=アーライドは、虎臥家の兵を率いて王都に到着した。
タルバ王都にほど近い小高い丘から見てみると、既に火事の煙等は無い。今は町中で戦闘は行われていない事が窺える。
戦争準備のために家に戻ったのではと言われていた彼。それ自体は間違っていなかった。
確かに『純血派』中でも過激な者達は、連合王国に対し叛旗を翻す計画を立てていた。ラフィアスの家族もその一員だ。
「まったく、どこのどいつが……!」
「若、声が高うございます」
忌々し気に呟くラフィアスに、虎臥家の執事がそっと注意する。
執事は部隊を率いる嫡男ラフィアスに付けられた補佐だ。彼自身は魔法が使えなくなってしまった魔法使いの血筋である。
「構わん! 予定外の開戦に迷惑を被っているのは確かなのだからな!」
「それは、そうなのですが……」
「計画通りに進められていれば……!」
元々の叛乱計画は、こんな杜撰なものではなかった。
初手で奇襲を行い、まずはタルバ城を押さえる。タルバ王国軍さえ動けなくすれば、実質山岳救助隊となっている北天騎士団は容易い相手だ。
タルバ一国を押さえるまではスムーズに行くだろう。これが本来の計画だった。
皮算用と言うなかれ。これを成功させるために準備は、水面下で着々と進められてきたのだ。
何より「南側と連携すれば」ほぼ確実に成功が見込める作戦だった。
だが、それが崩されてしまった。
なし崩し的に戦いが始まってしまったため、まず南側との連携どころではなくなった。
更に兵力が分散していた。奇襲直前にタルバ王都に集結する手筈となっていたからだ。
ラフィアスがこのタイミングでタルバ王都に到着したのも、突然叛乱が始まった事を知って、各家が慌てて兵を送ったためだった。
「これではどうなるか分からんぞ……」
ラフィアス自身は『純血派』の復権にそこまで本気ではない。
彼はエリート意識が高いが、それは魔法を極めたいという方向性であって、社会的立場の向上とかはあまり考えていなかった。
どちらかと言えば、魔神に到達する事を本気で考えているタイプの魔法使いである。
そんな彼が今回の叛乱に参加しているのは、当初の作戦を聞いて確実に勝てると判断したからだった。それならば付き合ってもいいか、ぐらいの気持ちで。
それが、いざ蓋を開けてみればこの有様である。
「……いっそこのまま王国側で参戦してやろうか」
「若!?」
「…………冗談だ」
半分ぐらいは。
魔法使いであれば、多少の数の差はものともしないだろう。
しかし、今の『純血派』は魔法が使えなくなっている者も少なくない。
現在叛乱軍はタルバ王都の三分の一ほどを押さえているが、逆に言えばその程度なのだ。
もっと魔法使いの血が強ければ、もっと押さえられていたかも知れない。いや、そのまま城を押さえられた可能性だってある。
自分ならもっと上手くやれただろう。そう考えるラフィアスは、今の『純血派』の限界を垣間見てしまった気分だった。
「王都に入ったら、迂闊な事は言わないでくださいよ?」
「……分かっているさ」
そう言いつつ部隊を進めるラフィアス。
旧市街側の門から入り叛乱軍と合流する予定だが、いっそこのまま別の門から入って、タルバ軍と合流するのもアリかも知れない。彼は、半ば本気でそう考えていた。
「おお、来たか! 虎臥の!!」
その後、叛乱軍に合流したラフィアスを出迎えたのはタルバ王都の『純血派』の中心人物、大重であった。
立派な顎鬚をたくわえているが、顔付きも体格も細身で少々アンバランスに見える人物だ。
ラフィアスは、髭のせいでかえって貧相に見えるのではないだろうかと思ったが、流石に口には出さない。
大重は魔法使いであり、タルバ華族としては無役騎士だが『純血派』では重鎮という人物だ。
といっても魔法使いとしての力量はラフィアス以下。
彼以上の魔法使いはいないようで、ラフィアスは諸手を挙げて歓迎される事になった。
ラフィアスは大重を始めとする面々から握手を求められ、にこやかに応えている。執事はその歓迎ぶりに誇らしげだ。
しかし、ラフィアスのそれはあくまで表面上の事。内心では、冷めた目で彼等の事を見ているのだった……。
今回のタイトルの元ネタは『涼宮ハルヒの憂鬱』です。




