第247話 UFO撃退の準備はできた!
アルマでの長期実習が決まって数日後、ジェイは現地に向かう一行を校門前に見送っていた。
「ジェイは来ねーの?」
「向こうの事は『賢母院』様に任せてある」
その一行の中にジェイ達は含まれない。彼としてはクラスメイトを危険から遠ざけたいのであって、自分が危険から避難したい訳ではない。
色部達の避難は、態勢作りの一環なのだから当然と言えば当然だ。
そう、非戦闘員、実戦では足手まといになる者達を避難させ、来たるべき敵を迎え撃つための態勢作りである。
「『賢母院』様かぁ……」
大講堂に飾られた肖像画を思い浮かべる色部。
あの絵を見ているだけなら絶世の美女、眼福で済む。
しかしその実態は、無数の生徒を震えあがらせてきた鬼教師。ジェイと彼女のどちらが実習担当として厳しいかは言うまでもない。
「……うへぇ」
思わずうめき声をあげる色部。流石の彼も、彼女の補習をまだ忘れていなかったようだ。
その日の午後、オードも帰郷するべく島を発った。当然のごとくユーミアも、それに同行している。
現在学生達の動きは大きく四つに分かれている。
まず内都華族家の学生は残るか、家族と共に避難するか。
そして領主華族家の学生はオードのように帰郷している訳だが、こちらは帰郷後二つのルートがある。
有事の際には領主が軍を率いて参戦する事になる訳だが、それに従軍するかどうかだ。
従軍せずとも領主不在の領地を守る必要があるため、領主華族家の学生に帰郷しないという選択肢は無かった。
そういう家に対してアピールするチャンスである事も確かなので、各所でユーミアのような動きを見せる者も増えていた。
「皆さん、たくましいですねっ!」
「……まぁ、チャンスは逃がさないって感じねぇ」
明日香は素直に感心しているようだが、エラの方は微妙な反応だ。
華族的にはあまりお行儀良い話ではない。しかし、ここで踏み込める者が婚活の勝者になれるというのも否定できない。彼女はそれをよく知っていたのだ。
「…………」
なお、モニカはその話題をスルーした。
彼女はかつて龍門将軍が攻めてきてジェイが迎撃に出た際、ここぞとばかりに踏み込んで領主婦人まがいの事もするようになった経験があるからだ。
それはともかく、この動きは学生全体で起きている。
こうなると島に残っている方が少数派と言えるだろう。
残っているのは、まず周防委員長を始めとする風騎委員の面々。元々武芸で身を立てたい者達が集まっているだけあって、ここで避難を選択する者はいない。
既に騎士団とのコネが出来ている一部の上級生は、騎士団の巡回に参加したりもしているようだ。
なお、ジェイにそういう話は出ていない。
南天の狼谷団長としては彼の力を借りられたらありがたかったが、現状『アーマガルトの守護者』は宮廷の切り札的な扱いとなっており、ある種の「触るな危険」となっていた。
気楽に仕事を頼める立場ではなくなってしまったとも言う。
代わりという訳ではないが、一年風騎委員からは獅堂が台頭してきていた。
なんと彼は極天騎士団の助っ人に呼ばれている。
ジェイはお近付きになるのも難しいが、獅堂ならば……と考える者もいるようで、彼の周りには人が集まりつつあった。
ロマティも島に残った一人だ。
彼女の家は、新聞の発行を任された百里家。内都で何かが起こるとしても、それを報道する事を使命とする家である。
彼女も家業に誇りを持っており、危険を承知の上で残っていた。今も異変の情報を掴むために走り回っているだろう。
何か掴めばジェイ達にも報せてくれる事になっているので、そういう意味でも期待である。
そしてアメリア。
「私は逃げられるなら逃げたかったんですけどー!?」
彼女の場合は、そもそも逃亡先が見つからなかったパターンである。
「アルマで受け入れてくれても良かったよね!? アーマガルトでも可!!」
「アーマガルトにいるお爺様、ポーラ様とは別の意味で厳しいよ」
「……そうなの?」
ジェイの祖父・レイモンド。不愛想なところが余計に厳しそうに見える人である。
「あと、お義母様も結構厳しいし」
「そうなの?」
「面倒見が良いんだけど、その分ね……」
そうやってジェイの母・ハリエットに鍛えられたモニカが言っているのだから、説得力がある。
「お父さんは?」
「……うん、お義父さんは優しいよ? でも、あんまり口出ししてこないタイプかな?」
なおジェイの父・カーティスは地……もとい、おとなしいタイプだが、口出しもしないタイプなので、庇ってくれたりはあまり期待できなかった。
総合的に見れば、アーマガルトもまた厳しい家と言えるだろう。ジェイを育て、モニカを鍛えた家は甘くないのだ。
「あと、アメリアちゃんの立場的にもダメよねぇ」
「なじぇ!?」
「あなた、タルバ華族ですもの」
そう、現在王都で反乱勃発中のタルバ。アメリアと避難できた面々の一番大きな違いは、彼女の家はその当事者だという事だ。
彼女が避難しようとした場合、故郷の窮地を放って逃げたという印象がついて回るだろう。
同じような立場のソックも、当然避難していない。
ソックはオーサとヤマツの件があるので、何かあれば参戦しなくてはいけないと考えているようだが……。
「アメリアの家って『純血派』でしょ? そっち側で参戦してるならまずくない?」
「……養子縁組解消じゃダメ?」
いざとなったら華族の立場を捨てて逃げたい。
これは見方を変えれば、華族の立場にそこまで価値を見ていないという事。
アメリアがいまひとつこの件について真剣になりきれないのは、その心がまだ華族になりきれてないからかも知れない。
他に残っている面目は、尚武会出場者などそれぞれ腕に覚えのある者達。
自己責任で残っている以上、ジェイが言える事は無い。
こうしてポーラ島の学生は、他に先駆けて敵を迎え撃つ態勢を完成させるのだった。
今回のタイトルの元ネタはSF特撮ドラマ『謎の円盤UFO』のオープニングナレーションの一節です。
今回のタイトルでは「F」は「Fly」ではなく「Fight」とかだと思いますが。




