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第246話 エラの贈り物

 『アーマガルトの守護者』が、白兎組のクラスメイトをアルマへ避難させる。

 特に隠そうともしていなかったので、この話は瞬く間に広まった。

 そうなると当然というか、便乗して避難したいと言い出す者が出てくる。

 たとえば同じ風騎委員の者達。当人は元々武で身を立てようとしていた者達なので、自分達は残る気満々だが、家族だけは避難させたいと頼んできた。

「……さて、どうしようか」

 クラスメイトの避難については、学園と交渉して長期実習という形にした。しかし、こちらはそうはいかない。引き受けるならば、個人としてという事になるだろう。

「周防委員長が、善処してくれって言ってましたね」

 明日香の言う通り、周防としてはできるだけ受け入れて欲しいようだ。風騎委員長として、委員の心配の種はできるだけ取り除いておきたいのだろう。


 それ以外に他のクラス、学年からも要請を受けている。

 こちらは見ず知らずの相手ばかりで、対応に困っていた。

 しかし、そうして頼んできているのは他に当ての無い者達だ。それこそクラスメイト等に引き受けてもらえる相手がいれば、そちらに頼んでいるだろう。

 それだけに安易に断っていいものかという思いがジェイにはあった。

「引き受ける事はできるの?」

「湯治客も減ってるみたいだから、できるかできないかで言えば……」

 エラの問い掛けに、ジェイは言葉を濁した。

 正確には、短期滞在の湯治客が減っている。

 長期滞在の方は増えているそうだが、総数で言えばそこまでではない。

 そのため受け入れる事自体はできるのだが……。


「……無理だな」

 断るのが。

「だろうね」

 ジェイの結論は、モニカにとって予想通りのものだった。

 ここで見捨てられるような性格だったら、龍門将軍が攻めてきたあの時に、無謀にも立ち向かおうとはしていなかっただろう。彼女はその事をよく知っていた。

 そもそもジェイがクラスメイトを避難させる方向で動いているのは、最近の内都に不穏な空気を感じ取っているからだ。

 情報から推測というより「嫌な予感がする」と言った方が正確だろう。

 勘と言ってしまえばそれまでだが、ジェイ自身は確信に近い何かを感じ取っている。

 それが何であるかは口で説明する事はできないが、彼は「得られている情報以上の事が起きるかも知れない」と危惧していた。

「何か問題あるんですか?」

「こっちの負担で避難させるとなると、限度がね……」

 明日香の疑問に、モニカが答えた。身も蓋も無い言い方をすると、金銭的な理由である。

「そもそもジェイがやる事?って問題もあるよね」

 更にモニカが続けた。

 クラスメイトを助けるまでは、ジェイは仕方ないな~ぐらいの気持ちで見ていたモニカ。

 しかし、見ず知らずの人まで助けを求めてくるのは、ジェイの優しさにつけこんでいるんじゃないかと思う。

 それでも「見捨てればいいじゃない?」と言えないあたり、なんだかんだでモニカも優しいというか甘いのかも知れないが。

 いずれにしても、ジェイに余計な負担を押し付けてくれるなとモニカは思っていた。

「それなら……恩を売る方向で調整しましょうか」

 そんなモニカに対し、エラは華族的な案を提示してみせた。


「確かにね、ここまできたらもっと大々的に避難させたらいいと思うの。上の人達が」

 エラの案は、もっと上に学生を避難させる決断をさせようというものだった。

「上って……学園ですか?」

「そういう判断は宮廷じゃないかしら?」

 明日香の疑問に、しれっと答えるエラ。要するにこの件を祖父に投げるという事だ。

 確定情報が無いから動けない。そうなるのはエラも理解できる。

 それでも不穏な空気が拭えないから、自主的に避難する人が増えている。

 それに歯止めが利かずに、ジェイやオードといった家に力がある者に助けを求める人が増えてきているのが今の状況だ。

「そりゃ確定情報無しには宮廷も動けんだろう。それは仕方ないと思うぞ」

 宮廷の決断で学生を避難させるとなると、華族学園は休校となるだろう。これは結構大きな問題である。

 これに関してはジェイも理解していた。だからこそ、自主的にクラスメイトを助けようとしていたのだ。

「そろそろ限界だと思うの、それも」

「それは……」

「まあ……」

 明日香とモニカが、顔を見合わせながら同意する。

 実際、ジェイやオードのような力のある家に避難させて欲しいと頼み込む事例が出てきている。しかもクラスの枠を超えて。


「だからね、ちょっと……宮廷を脅しましょう♪」

「……はい?」


 エラは見惚れるような笑顔で、とんでもない事を言い出した。

 しかし、これは冗談などではない。

 自主的避難が増えているのは学園、ひいては宮廷が、現状について何も言わない事に起因している。

 そして自分の家の力では避難できない者がオードやジェイに助けを求めて、二人はそれに答えた。

 これは要するに宮廷よりも地方領主を頼ったという事だ。

 実際助けを求めた者達にとって、どちらが頼りになるように見えるかは言うまでもないだろう。

 だからエラは、宮廷を脅すのである。このままだとどうなるのか分かっているのかと。

 危機感を煽ると言えば言葉が悪いが、現実に存在する危険性を教えるのだから、ある意味親切である。

「でも……大丈夫ですか? 決定的な情報が無いというのは変わらないんじゃ……」

「そうね、これまではダメだったけど、今なら……」

 フフッと微笑むエラ。彼女にはある勝算があった。



 その後エラは、冷泉宰相に話を通した。

 すると宮廷は『アーマガルトの守護者』がクラスメイトを避難させようとした事を重視し、他の学生達も避難させるべきではという方向に舵を切ったのだ。

 不穏な空気を感じ取っていたのは、彼等も同じだったのだろう。

 そんな状況で切り札となるジェイに、これ以上負担を掛けさせるなという意図もあったと思われる。

 これにより白兎組以外から避難させてほしいと言ってくる者は、ほとんどいなくなった。

 それでも言ってくる者は滞在費を払ってでもと言う者達であり、ジェイとしては普通に長期滞在の湯治客として扱えばいいという事になる。

 白兎組の長期実習はそのまま行われる事になるが、これは元々そうする予定だったので問題は無い。

 こうして学生の避難問題は、ひとまずの解決を見るのだった。

 今回のタイトルの元ネタは小説『賢者の贈り物』です。

 そちらと違って、エラ達はすれ違ってはいませんが。

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― 新着の感想 ―
別にちゃんと宿泊客として金払ってくれるなら構わんよな。 居座られたり我が儘放題言われたら叩き出すだけだし。
「嫌な予感がする」と言って方が正確だろう。 >言った 貴族が避難って、民衆からの信用が地に落ちると思うが良いんだろうか
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