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第245話 色部、総勢一名参陣!?

 有事の際に参戦したがる。これは色部に限った話ではない。

 華族として見た場合、家を躍進させるチャンスである事は確かなのだ。

 ヤマツも、それを利用したに過ぎない。もっとも、そのために有事を起こす側に加担した事については擁護できないが。

 かくいうジェイも戦いで名を上げてきた側であり、またそういう騎士達が参戦してきたのを受け入れてきた側だ。

 そのためこの件については口出ししにくい。若さ故の過ち……と言うほど年月が経った訳ではないが。

 ただ、今回に関しては止めた方が良いのではないかという思いがあった。

 後手後手に回っている状況。いまだにハッキリしない黒幕。具体的に何が危険だと説明はできないが、漠然とした不安がある。

 いざという時に自分の身を守れるようにと装備を整えさせたりもしたが、これは身を守る程度では済まなくなるかも知れない。

 だからこそ彼は考えている。色部のような危うい者は、戦場になりそうな場所から引き離しておいた方が良いのではないかと……。

 

「オードのところは、農園の警備を臨時で雇うとかできるか?」

「えっと、それは……」

「無理だな」

 ユーミアがフォローしようとするのを遮るように、オードが即答した。

「我が家の農園は、王家から任されているもの。素人に警備は任せられんぞ」

 家業については、しっかりしているようだ。

 これは予想外だったようで、ユーミアだけでなくソックもオードの顔を見て目を白黒させている。

 ジェイとエラが平然としているのは、同じようなタイプを知っているからだ。

 ぼんくらだが家業についてはしっかりしたタイプというのは意外に多く、ジェイはこれまでに何人か出会った事があるし、エラのクラスメイトにもいた。

「それは卿も同じであろう?」

「まあ……な」

 臨時とはいえ雇うとなると、雇う側にも相応の責任が求められるのだ。

「……なんか役目を振る方向で話進めてますけど、普通に避難させるじゃダメなんですか?」

 呆れまじりにそう尋ねてきたのはソック。二人の会話は、彼にはピンとこないようだ。

「一発逆転狙いで参戦してきた奴を、俺は何人も見てきたからな……」

 遠い目になるジェイ。逆転できた者と、できなかった者。どちらが多いかは言わぬが花である。

「その経験から言わせてもらうと、色部も含めてそういう奴等はただ避難するだけってのはしないと思うぞ」

「難を避けられても、家の躍進にはつながらないからね?」

 エラの言葉に、ジェイはコクリと頷いた。

 ジェイがそういう者達を受け入れてきた側だとすると、エラは内都でそういう者達を見送ってきた側だ。

 その後家を躍進させたみたいな話は、数えるほどしか聞いた事がない。そのためエラも、それがいかに無謀な話であるかは理解していた。


「そんな、学生の内から生き急がなくても……」

「ウム、焦り過ぎな気もするが……」

 ソックの呟きに、オードも同意している。

 確かに、卒業する頃にはソックも一端の騎士になっているかも知れない。戦場に赴くなら、それからでも遅くないというのが彼の考えだ。

 それに対し、複雑そうに顔を見合わせるのはエラとユーミア、そしてジェイ。

 三人は、色部達がそうできない事情も理解していた。

 そして視線を逸らしながらジェイが口を開く。

「俺にも、その一因があるからな……」


 焦って学生の内から参戦する事はない。確かにソックの意見には一理ある。

 しかし、色部のような者達は素直に頷く事はできないだろう。

 何故なら……「次がある」とは限らないからだ。

 近年セルツにおいて大きな戦と言えば、ダイン幕府と国境のサルタート川を挟んで幾度となく戦った『サルタートの戦い』だった。

 それ以外は賊や魔獣の討伐のような、言い方は悪いが小さなものしかない。だからこそ、アーマガルトに一発逆転を狙う騎士達が集まっていたのだ。


 ところが、その状況が一変した。

 ジェイと明日香の縁談に伴う両国の和平によって。


 多くの者は、上手くいくか半信半疑だっただろう。長年争ってきたのだから当然である。

 失敗につながりそうな要素はいくつもあった。ダイン幕府から、和平に反対する者達が隠密部隊を送り込んできたのもそうだ。

 だが、それでも、和平の鍵となる縁談は揺るがなかった。

 明日香とエラが対立するような事も、ジェイが幼馴染のモニカに入れ込んで二人を蔑ろにするような事もない。

 結婚こそまだだがジェイと明日香は仲睦まじく、縁談も、和平も順調に見えた。

 そのため多くの者が思ったのだ。このまま本当に和平が成されるのではないか。平和が訪れるのではないか。

 そして、家を躍進させられるような大きな戦いは、もう起きないのではないかと……。


「要するに、幕府との戦いが起きなくなると困る連中もいるって事さ」

「あ~、そういう……」

 納得した様子のユーミア。これまでの取材で、そういうタイプを見た事があった。

「縁談、ですか……」

 気まずそうなソック。規模こそ違えど、自分達の縁談で問題が起きた身なので、身につまされる思いである。

 次が無い。それは一発逆転を狙う家にとっては死活問題であった。

 今この島にも蔓延している空気も無関係ではない。「戦が起きるのでは?」ではなく「戦が起きて欲しい」と考える家が少なからずいたのだ。

 そういう者達が次は乗り遅れまいと戦支度を整え、それが不穏な空気を生み出していたとも言える。

「……つまり、オーサみたいに後が無いって人達が戦を望んでいる?」

「そ、それ、一緒にしていいのかなぁ?」

 タルラの身も蓋も無い言葉に、ソックは言葉を濁した。

 似たようなものに思える一方で、一緒にするなという声も聞こえてきそうである。

 なにせ戦を望んでいただけの者と、戦を起こそうと動いた者なのだから。

 もっとも「追い詰められている」という意味では同じなのかも知れないが……。


「でもぉ……それって、あなたの責任ですか~?」

「こういうのは自己責任……というのは、分かってるつもりなんだけどね」

 ユーミアの言う通りではある。

 ジェイ達が縁談が上手くいくよう努力した結果、平和が訪れた。

 そのせいで戦が起きなくなったぞ、どうしてくれる!というのは、言いがかりも甚だしいだろう。

「だからと言って見捨てる気にもなれないのね、ジェイは」

 お見通しと言いたげな笑みを浮かべるエラ。ジェイはその言葉にコクリと頷いた。

「損な性分ですねぇ」

「自覚してる」

 苦笑しつつ認めるジェイ。

 手の届くところにいるクラスメイトを、何もせずに見捨てるのはしのびない。なんとか引き留めたい。それがジェイの本音であった。


 ならばどうするか。

 ジェイ、エラ、ユーミアが額を寄せ合って相談するが、これと言った案は出てこない。

 家の利益等も関わってくる話なので、こうなるともはやソックとタルラは理解の範疇外だ。口を挟む事ができない。

 ジェイ達がどうしたものかと頭を悩ませていたその時、意外な人物が提案をする。

「フム……それならば、こういうのはどうかな?」

 それはオードであった。

 彼の案を聞いた三人は顔を見合わせ、実現できるのかと話し合い、そして……可能だと結論付けた。



「という訳で、長期実習を行う事になった!」

 二日後、ジェイは集めたクラスメイトを前にそう宣言した。

 長期実習というのは、現地に赴いて一定期間現場で実習を行う授業である。ジェイがアーロのゴーシュで代官業務実習をしたのは記憶に新しい。

 あの時オードもゴーシュを訪れていたので、それを思い出して提案してきたのだろう。

 これは学園が交渉し、その生徒ならば受け入れても良いと許可される事で実行する事ができるものなのだが――

「場所はアルマだ!」

――許可を出すのは実習を行う場所の領主、アルマの場合ジェイとなる。

 それを利用し、学園に話を持ち掛けたのだ。白兎組はただ避難するのではなく、アルマで長期実習を行うと。

 自主的に避難する生徒達に対し、成す術が無かった学園。同じ島を離れるにしても、長期実習という名目で行ってくれた方がマシだと、すぐさま話に乗ってくれたという訳だ。

「いや~、俺はそういうのは……」

 しかし、色部は難色を示す。実習よりも参戦したいという思いの方が強いのだろう。

「向こうで受ける演習はいくつもあるんだが……ウチの軍と同じ訓練を受けられるぞ」

 正確にはアーマガルト忍軍の訓練である。

「それと、実習中に有事が起きた時は……一緒に戦ってもらう事になるぞ」

 その言葉に色部だけでなく、他にも数人が反応した。

 オードの提案を聞き、ジェイが個人で参戦させるぐらいならばと考えたのがこの案だ。

 これは流石に色部達も無視できず、長期実習に参加する事となったのは言うまでもない。

 今回のタイトルの元ネタは『ヘルシング』を元にした有名なコラです。


 ジェイ達はそうさせまいと動いている訳ですが。

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― 新着の感想 ―
いったい何人が今のアルマに譜代の臣がいないから仕官の狙い目だと気付きますやら… あと実習にアメリアやタルラやユーミアが同行するのか否かは気になります
これ他のクラスも乗りたいところあるかもしれんね。
クラスメイトを危うい状況に行かせたくないのはわかるけど、勇者コスモスみたいになんだかんだ憎めないキャラって訳ではないからなぁ……
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