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第230話 エラ先生の特別授業

「えっ? 行かなくていいの?」

「むしろ行ったらまずい」

 今日は授業のある日のため登校しなければいけないが、アメリアは欠席で留守番である。

 というのも華族学園は華族家の後継者を育てる場所であり、華族家の嫡子を、学園が責任をもって預かっている場所である。

 そのため学園は、学生とその実家の方針が相反した場合、基本的には実家側優先という事になってしまう。

 アメリアの場合、連合王国に対する謀反が絡んでくる可能性があるのだが、それもまだハッキリとはしていない。

 そのため学園からは「現状では、高城家の方針を優先せざるを得ないので連れてくるな」と密かに連絡が来ていた。

 アメリア本人ではなくジェイの方に連絡が来ているあたり、学園側もアメリアの華族としての知識と自覚の無さは把握しているのだろう。


「いってらっしゃ~い♪」

 という訳で、にこやかな笑顔で見送るアメリア。学園を休んでいい事を喜んでいる。

「休んでる間に、お勉強しましょうね~♪」

「は~い……」

 なお、エラも休む事になっている。

 ジェイ達が学校に行っている間に、もう少し華族の常識を教えておくとの事。

 モニカが話した事もそうだが、知っていれば対処できるであろう問題は結構ある。

 この手の事は華族学園で教えるのは基礎編とすれば、エラが教えようとしているのは応用編。

 家のお役目、家族内での立場によって変わってくるものなので、学園では基礎しか教えられないとも言える。

 ガックリと肩を落とすアメリアの背を見つめながら、エラは考える。

 彼女は養子になってすぐに華族学園に送られた。そのために最低限の事は詰め込まれたという話だが、それには偏りがあるのではないだろうかと。

 具体的に言うと礼儀作法は無礼にならない程度に教えられているが、華族の常識はあまり教えられていないように見える。

 アメリアがあまり熱心な生徒ではなく、それだけ教えるのが精一杯だったという可能性はもちろんある。

 しかしエラは、その偏りに何か意図があるのではないかと思えた。

 そう、元々アメリアには「魔法使いの子を産む」事以外求められていなかったのではないかと。

 養子と言っても、家の実権を握らせるつもりが無いのであれば、それこそ無知の方が扱いやすいというもの。

 それこそ裏で、真の後継者となる者――アメリアの婿候補が選ばれていた可能性だって考えられる。

 社交で自爆しない程度の作法を身に着けておけばいい。そんな軽い神輿である事を求められているのではないか。エラはそう訝しんでいた。

 いくら教えてもアメリアが華族の常識を覚えないので、そういう風に方針転換された可能性もあるのは、ここだけの話である。



 ジェイ達を見送ると、場所を居間に移して授業となる。

 エラが眼鏡を掛けているのは、教師役としての雰囲気作りだ。

「――という訳で、戦のために子供を呼び戻す事自体は問題ないのよ」

「えぇ……」

 まず教えたのは、高城家がアメリアを呼び戻そうとした件の是非について。

 結論から言ってしまうと、それ自体は間違った事ではない。アメリアは納得できていない様子だが。

「たとえば村の周りに魔物の群が棲み付いた時、学園に通っている子が村の最大戦力だったら?」

「そりゃ騎士団に……」

「……騎士団を呼ぶと、お礼をしないといけないから」

「へ~、あれお礼もらえるんだ」

 そのため地方領主では、呼びたくても呼べない事が多々ある事をエラは知っていた。これはセルツでもタルバでも変わらないだろう。

 領地領民を守るのは華族の義務。そのために必要とあらば在学中の嫡子を呼び戻すのは当然と言える。

 今回のアメリアの件、問題となるのは呼び戻そうとした事そのものではない。戦をする相手が誰か、王国相手ではないかという事。

 アメリアの現状は、その疑惑があるからこそ認められているものなのだ。


「そういえば、高城家って王都にあるの?」

「えっ? あ、はい。タルバの王都に」

「あなたの生まれも?」

「はい、ここに来るまで王都を出た事無かったです」

「やっぱり……」

 その返事にエラは納得した。

 騎士団が地方に出向く事は知っているが、謝礼を受け取っている事は知らない。

 その謝礼を払うのが難しいため、在学中の嫡子を呼び戻してでも領主一家が対処しようとする事も知らない。

 何より「お礼をもらえる」という言葉。あれは騎士団を派遣する側、すなわち王都からの視点である。

「そういうの分かるんですか?」

「ええ、ちょっとね……」

 エラ自身、華族学園に入学して地方華族と交流するまで似たようなものだったから、かつての自分を見ているようだったというのは秘密である。

 


 一方アメリアは、少し話しただけで色々と見抜いてくるエラに、やっぱり自分とは違うなと感じていた。

 かつての彼女は、華族とは程遠い、親の顔も知らない孤児だった。

 タルバの王都という大都市、その影とも言うべき場所スラム。彼女はそこを根城にする、いわゆる孤児グループの一人だった。

 最初は年齢の割にはすばしっこい程度。

 それがやがてグループで一番足が速くなり、衛兵からも簡単に逃げられるようになった。

 結果として衛兵を引き付ける囮役をやらされるようになったが、それで上手く回っていた。

 そう、高城家が本腰を入れて彼女を捕まえようとするまでは。

 彼等は気付いたのだ。アメリアの足の速さが、彼女の魔法の片鱗である事に。

 いかに魔法があっても、無自覚で使いこなせてもいないもの。

 本気を出した華族には敵うはずもなく、アメリアはあっさりと捕まってしまった。

 そして、そこで養子縁組の話を持ち掛けられたのである。

 そんな育ちから、命あっての物種という考えを持つに至っていた彼女。華族になれれば一発逆転だと、一も二もなくその話に飛び付いたのは言うまでもない。


「あの、お嬢様……」

 その時、エラの侍女が手紙を手に居間に入ってきた。

「どうしたの?」

「先程、高城家から使者が。これをアメリア様に渡してほしいと……」

「あらあら」

 そう言って侍女が見せてきたのは、高城家の家紋が封蝋された白い封筒。

 ジェイ達をスルーして、アメリアに直接手紙を渡す。昴家が預かっている事自体が微妙というか非常手段なところがあるので、無くはない手段だ。

 そういう手段を取るという事は、手紙の内容も予測がつく。

 侍女から手紙を受け取ったエラは、特に気にする事なくアメリアに手渡した。

 アメリアはチラチラとエラの様子を気にしながら封蝋を割り、内容を一瞥し、そして露骨に嫌そうな顔になった。

「うっわ、マジで来た……」

 要約すると、そこには「戦には出なくていいから、とにかく戻ってこい」という内容が書かれていた。

 そう、先日にモニカに教えられた内容ほぼそのままだったのである。

 本当に来るとは。完全に行動を読まれていた実家に、アメリアは呆れ気味に天井を仰ぎ見るのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これは酷い。 しかし、これじゃあ高城家への帰属意識も忠誠心もまるでなくて当然だわな。 嫁になって子供産むことだけ期待されてる感じやね。 昔の家なんてそんなもんだけど。
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