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第222話 波乱の情報戦

 このタイプのクラス対抗演習は、基本的にはまず情報戦となる。各クラスの拠点がランダムで決められるため、それを探さなければいけないからだ。

 これは規模こそ違えど実際の戦争も同じであり、それを学ぶための演習授業となっている。

 これに対し白兎組は拠点の守りを固めつつロマティとビアンカを偵察に出している。

 対する青燕組は、攻撃・守備チームに分けて燕子花(かきつばた)率いる攻撃チーム全員でいきなり攻める事を選んだ。

 どちらが正攻法かと言えば、間違いなく白兎組の方だろう。

 しかし、青燕組の選択もなかなかに厄介だ。

 確かに彼等の動きは、あまり意味があるとは言えない。いきなり攻めると言っても、どこを攻めればいいか分からないからだ。大勢で動けば、偵察のロマティ達にも見つかりやすいだろう。

「えぇー……」

「何やってるの、あれ……」

 案の定、ロマティ達の方が先に燕子花達を発見した。彼等の方はロマティ達に気付いていない。

 これは楽勝かと考えたロマティだったが、ふとある事に気付いた。燕子花達は早急に拠点から離れてしまっているため、見つけても青燕組の拠点が分かる訳ではない事に。

 むしろロマティ達にしてみれば多勢に無勢。彼等に見つかってしまえば戦死判定か、捕縛判定か。

 メリットはほとんど無く、デメリットばかりある状況になってしまっている。

「い、いざという時は私が殿を……!」

「馬鹿な事言ってないで退きますよー」

 こうなれば相手が気付いていない内にと、ロマティはビアンカを連れてその場を離れようとする。偵察の役割は無事に情報を持ち帰る事である。

「いいの? もっと調べた方が……」

「もう十分ですよー」

 正確な数は分からないが、青燕組は約半数を攻撃チームに割いて速攻を狙っている。

 逆に味方が少人数で彼等と遭遇するとまずい。

 そして攻撃チームに、魔法使いであるアメリアの姿が無い。

 燕子花のチームを遠目に見ただけでも、これだけの事が分かる。まずは見つからずにこれらの情報を持ち帰る。それがロマティ達の役目であった。



 ロマティ達は見つかる事なく無事に帰還。途中で拠点周辺を探っていた色部達を見つけたので彼等と共に屋敷に戻った。

 屋敷では最低限の見張りだけ残して玄関ロビーに集まり、そこで報告を受ける。

 なおラフィアスは、見張りに残って降りて来ていない。

「――という訳でしてー」

「うわぁ……」

 報告を聞いたモニカは、引きつった笑みを浮かべている。

 ジェイは何か言いたげな様子でこめかみを押さえていたが、結局何も言わなかった。

 確かに燕子花の動きは有効だ。しかし、ひとつ問題がある。二人はそれに気付いたのだ。

「……それ、ダメな作戦じゃない?」

 ここにいるクラスメイトでそれに気付いたのは……なんとソックだった。

「あら、何か反撃する作戦がありまして?」

 エイダは扇で口元を隠しながら問う。

「あ、いや、そうじゃなくて。目標がどこにいるかも分からないまま軍を動かしちゃダメじゃないかな、と……」

「ああ、そう言う……」

「その目標を調べるための動きではないのかね?」

「それなら、もっと人数少なく……現に百里さん達に見つかってるじゃないか、一方的に」

「ムゥ……それは確かに」

 ソックの言葉に、何人かがうんうんと頷いている。座学の方を得意としている優等生寄りの面々だ。

 そう、軍を動かすコストの問題もあるが、何より大人数だと敵に発見されやすくなる。

 ソックは騎士隊長の家の生まれだけあって、その辺りの兵法の基本は分かっていた。


 となると考えなければいけないのは、次の一手である。

「どうしましょう、昴君。明日香さん達を呼び戻した方がよろしいのでは?」

 そう問い掛けてきたのはエイダ。明日香達は今、拠点周囲を調べに行っている。

「吾輩もそう思うぞ。相手がクラスの半数なら、こちらは全員で……」

「……向こうは、こっちの拠点見つけられますかね?」

 ソックの言葉に玄関ホールが静かになり、皆の視線が彼に集まる。

「ど、どうなのだ? 流石に見付けられないという事は……」

「でも、結構脳筋っぽい作戦ですわよ?」

 こちらを見つけられないかも知れないと暗に言っている。

「打って出て、どこかで迎え撃つのも手……だと思うんですけど、向こうがどう動くか分からないんですよね……」

 そう、それが燕子花の作戦のもうひとつの問題だ。目標が定まらないまま進軍しているので、進行ルートが予想できないのである。

 そのため下手に待ち伏せしようとしても、不意の遭遇戦になってしまう可能性が考えられた。

 籠城か、迎撃か。これはどちらかが正解という事は無い。状況次第だ。簡単に結論は出ず、話し合いが続く。

 だが、その前にやらなければいけない事がある。見かねたジェイは、少し口を挟む事にした。

「……とりあえず、合流してから考えた方いい。今一番まずいのは、外にいる明日香達が青燕組と遭遇してしまう事だ」

 不意の遭遇戦、明日香達にも同じ事が起きかねない。

 二つの攻撃チーム、見張りを含めた守備チームに分かれている今、彼女達の人数は白兎組の三分の一に満たない。今燕子花達と遭遇すれば、倍近い相手と戦う事になってしまうだろう。

 ……明日香ならそれでも切り抜けてしまいそうだが、それはそれだ。

「そ、そうですわね。ロマティさん、すぐに……!」

「あっ、その前に見張りに確認を! 離れてないなら二階から見えてるかも!」

 ソックが気付いて確認したところ、明日香達の居場所はすぐに判明した。また燕子花達の姿も見えないとの事だ。

 すぐに彼女達を呼び戻し、全員合流したところで改めて次の一手を考える事になるのだった。


「そういえば、アメリアはいなかったんだよな? 向こうの攻撃チーム」

 明日香達を呼び戻している間に、ジェイがロマティに確認した。

「ええ、見ませんでしたねー」

「どうしてだろ? 魔法使いなのに」

「あいつの魔法、加減しにくいからなぁ……」

 モニカの疑問に、ジェイが答えた。彼女の魔法は風の刃、その攻撃力の高さから演習では使いにくい面がある。

 同時にジェイは、風騎委員の同僚である燕子花が指揮を執っているのではないかと考えていた。

 ジェイのようにあえて指揮を執らないのでもない限り、風騎委員が演習の中心になるのは珍しい話ではない。

 そして何より、ジェイは彼の事がとても印象に残っていた。

「あいつ、なんか俺の事ライバル視してるんだよなぁ」

 直接突っかかって来るような事は無いが、明らかに意識されていたからである。

 その話を聞き、モニカとロマティが顔を見合わせる。

「それは、また……」

「無ぼ……根性あるんですねー、その人」

 そして呆れ気味の声で、そう言った。

 ジェイという桁違いの実力者に対抗心を燃やす。その事に対する率直な感想であった。

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