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第210話 ……逃がさん……お前だけは……

 ここからは後日談となる。

 内都を騒がせた反乱騒ぎは、極天騎士団によって鎮圧された――という事になった。

 魔神ロン・ティールの討伐に関しては「隣人がいきなり魔神になるかも知れない可能性」を触れ回るのはまずいと判断され、伏せられる事になってしまった。

 代わりという訳ではないだろうが、反乱騒ぎのどさくさに紛れてアルフィルク王が誘拐されかかった事は隠さず公開されている。

 金貸しのオリヴァーから始まった一連の事件は、全てこの少年王誘拐につなげるための陰謀であり、反乱騒ぎもその一環と認定された。

 これにより反乱に参加した者達は、少年王誘拐に加担したと見なされる事になる。

 そして……一つの華族家がお取り潰しになった。『絶兎』の家だ。

 セルツ連合王国を構成する五つの国の一つ、北方のタルバ王国。『絶兎』はタルバの華族、兎柄家の当主だった。

 それが少年王誘拐犯の一味として討たれており当主不在。これはもはや庇えない。あるいは庇う価値が無いと判断されたのか『絶兎』の正体は、すぐに王家の知るところとなった。

 空間転移というかなり特徴的な魔法。今回の件を知っていたかどうかはともかく、その魔法の存在は『純血派』の中では有名だったようだ。

 それ故に自分が隠したところで、誰が漏らすか分からない。その時自分が庇い立てしたと思われてはまずいという保身もあったと思われる。

 なお兎柄家は最後まで抵抗しようと反乱を起こしたが、タルバ王国の騎士団によって攻め滅ぼされたとの事だ。

 今回の件はセルツ対タルバの戦いに発展しかねないため、タルバ王家も必死だったのか、反乱の報せが届くやいなや即決即断で騎士団を動かしたとか。



「フン……今のタルバ王家に魔法使いはいないと聞く。『純血派』に巻き込まれるのは御免だという事だろう」

 吐き捨てるようにそう言ったのは、風騎委員長のトレイス=周防=シーザリア。整った顔立ちから不機嫌さがにじみ出ている。

 あの事件から三日。反乱の鎮圧が宣言されたものの内都は被害が大きく、華族学園は休校している。ロマティのような内都出身者は実家に一時帰還していた。

 この時ジェイ、明日香、獅堂の三人は、風騎委員室で彼に指導されながら、今回の件の報告書を書いていた。

 彼等もこの三日間は事後処理に追われて睡眠時間を削らねばならぬほど忙しく、この報告書を提出し終わればようやくひと段落といったところである。

 なお魔神の件は公表されていないため、当然報告書にも書かない。その辺りでミスをしないよう集まって書いているという面もあった。


「……まぁ、王家転覆を狙う敵の正体がタルバ華族というのは、特に驚きは無い。『純血派』は元々北方に多いからな」

 周防は椅子の背もたれに身を委ねて、天井を仰ぎ見る。

「ジェイ、ジェイ、そうなんですか?」

「そういう話は聞いた事があるな」

 魔法国が滅んだ際に、魔王側に付いていた魔法使い達は方々に落ち延びたと言われている。特に北側が多かった訳ではない。


 ここでセルツ連合王国を構成する五国の位置関係を整理しておこう。

 まずセルツとは海を挟んで南にある島国、アーロ。こちらに落ち延びた魔法使い達は、神殿騎士達によって更に南の『死の島』へと追いやられたと言う。

 他の三国は地続きであり、セルツの北西にあるのが獅堂の故郷マグドクだ。ここはセルツよりも広い国土を持っている。

 この国に落ち延びた魔法使いがどうなったかはよく分かっていない。ただ、今ではセルツよりも『純血派』どころか魔法使い自体が少ない国と言われている。

 次にセルツの北東には、ニパという国土のほとんどが山という小国がある。

 マグドクの方はセルツと同じく南が海に面しているが、ニパには海が無い。魔法使い達のほとんどが落ち延びる先に選ばなかったと言えば、その地勢の険しさが伝わるだろうか。

 そしてマグドクとニパの更に北にあるのが『絶兎』の兎柄家があったタルバ。こちらは北が海に面しているのだが、冬になると海も荒れ、雪も深くなる。連合王国内でも最も貧しい地域だ。

 当時はまだ別国であったマグドク・ニパが間にあったため、追跡の手も届かなかったらしい。

 タルバが連合王国に組み込まれる頃には、落ち延びた魔法使い達はそのまま土着し、タルバ華族に取り込まれていたと言う。

 そのためかタルバは、今でも五国の中で最も魔法使いが多く残っており、そして『純血派』も多いとされていた。


「ウチの方には逃げなかったんですか? 魔法使い」

 明日香の故郷ダイン幕府は、セルツの東に位置している。

「逃げたけど、それを追い掛けて行った武士達が……色々やって幕府を開いたんだよ」

 『セルツ建国物語』は、この東に逃げた魔法使い達を追って武士達が旅立つところで終わる。

 そこで終わるのはその後の武士達の戦い振りがお見せできないものだから……という説があったりするのは余談である。


 閑話休題。


 周防委員長がタルバ華族が黒幕ならば驚かないと言ったのには、そういう背景があった。

 口にこそ出さないが、王家転覆を目論んだのは経済的な理由もあったのではと睨んでいる。魔法国を再興するという事は『純血派』が豊かな南方に返り咲くという事だからだ。

 フライヤが尖兵として利用されたのも、その辺りにシンパシーを感じたからではないか。彼はそう考えていた。

 ここで獅堂が、ふと報告書を書く手を止めて顔を上げる。

「……このまま南北で戦争になったりするのでしょうか?」

 この場合、南のセルツと北のタルバで内戦という事になる。マグドグは、セルツが有利な内はセルツ側に付くだろう。

「そこまではいかんだろ。『純血派』も、あくまで兎柄家の暴走だって言っているし」

 獅堂の不安を、ジェイはバッサリと切り捨てる。

「信じるのか?」

「真正面から戦う戦力は無いってのはな」

 兎柄家を損切りして『純血派』全体を守ろうとしているのがその証拠だ。


「そう言えばラフィアス君も『純血派』ですけど、どちらの国でしたっけ?」

「ああ、あいつもタルバだな。アーライドはタルバの南の端だったはず」

 ジェイの返事に、明日香は不安気な顔になる。

「……今回の件、関わってませんよね?」

「無いだろ、それは」

 そして遠慮がちに問い掛けたが、ジェイはそれもバッサリと切り捨てた。

「あいつは、即席魔法使いを増やす事には良い顔しないと思うぞ」

 良くも悪くも魔法使いを特別視しているから、とジェイは心の中で続ける。

「なるほど! 確かにラフィアス君は、誇り高い!ってタイプですよね!」

 ジェイ達のクラスメイトであるラフィアス=虎臥=アーライドという少年は『純血派』の魔法使いであり、エリート意識が非常に強い。

 ラフィアスの言うエリートとは、すなわち魔法使いの事。彼にしてみれば短剣等を使って即席で魔法使いになるのは、愚弄されているようなものだろう。

 そういう理由もあって、ジェイは今回の件にラフィアスが関わっているとは思ってなかったし、また『純血派』全体の意志でなされたものとも考えていなかった。


「まぁ、心配せずともいきなり内戦という事にはなるまい。タルバ王家が『純血派』という訳ではない訳だしな」

 ジェイ達の会話を聞いていた周防が、そう言ってまとめる。

 彼の言う通り、王家が『純血派』に同調しない限りタルバは内戦を避ける方向で動くだろう。セルツ側もそれに応じるはずだ。

「それで、報告書は?」

「あ、今仕上げます」

 ジェイ達は止まっていた手を再び動かし始める。

 黙々と作業する三人を据わった目で眺めていた周防は、再び椅子の背もたれに身体を預けて天井を仰ぎ見た。


「……今回の件で、生徒の中からタルバ討つべしと言い出す者が現れなければいいのだがな」


 そして小さな声でポツリと、そう呟くのだった。

 今回のタイトルは、ゲーム『ロマンシング サ・ガ2』の色々な意味で有名なメッセージです。


 ここでは報告書からのメッセージだと思われます。

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