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第200話 やったか!?

 灼熱の噴煙が、ジェイの姿を飲み込む。後に残ったのは抉り取られたような地面の跡。そこに彼の姿は無い。

 いかに『アーマガルドの守護者』と言っても、所詮は人間。この熱に耐えられるはずがない。

「は……はは……やった……! やったぞ……!!」

 しばし呆然自失状態だったロン・ティールだったが、じわじわと実感がわいてくる。やった、仕留めたと。

「! こうしてはいられん!」

 フライヤ達は今も兵に追われている。助けに行かねばならない。騒ぎが続く町に背を向け、『風の丘』に向かって飛ぼうとし――


「何をやったって?」


――背後から、その太い首に横一閃。黒炎の刃が、その首を斬り落とした。

 いつの間にかロン・ティールの背後に姿を現したジェイが、不意打ちの一撃を食らわせたのだ。

「おおおおおぉぉぉぉぉ…………っ!?」

 叫び声を上げながら落ちる首は、地面に着く前に煙となって消えた。

 直後、首の切断面から煙が噴き出し、それが留まって新しい頭を作る。

「貴様、いったいどうやって……!?」

 まだ少々歪な口で叫ぶロン・ティール。

 ジェイは噴煙を目前に影世界へ『潜』ったのだが、それを教える義理は無い。

「やはりダミーか……」

 彼の言葉を無視して、分析を続ける。

 筋骨隆々の上半身に見えるが、それは人の上半身そのままではない。

 ジェイがそう考えたのは、魔神の額にあるべき『第三の眼』が無かったからだ。頭のように見えるが、本当の頭は別にあるのではないかと。

 現に首を斬り落とすと、落とした頭が消えて胴体が残った。これはつまり、主となるのは胴体の方だという事だ。『第三の眼』は、胴体側のどこかにあるのだろう。


 背後から斬り付けたため、再びジェイが町を背にする事になってしまった。

 この状態で先程のような攻撃をされたら、町に大きな被害が出るだろう。

 ジェイはすぐさま動き、ロン・ティールの注意を引く。

「フライヤ様はやらせんぞッ!!」

 『風の丘』に向かおうとすればほぼ確実に釣れるので、ある意味やりやすい相手である。

 ロン・ティールは、指先を発射し、両目から光線を放って攻撃。

 しかし、周りに被害が出ていい状況だと、ジェイは防ぐよりも避ける方を選ぶ。

 こうなると、ばら撒くだけの攻撃ではジェイを捉える事ができない。ロン・ティールは焦った様子で指先を連射。連続して爆発音が響き渡るが、地面を抉るばかり。

 そうしている内にロン・ティールは、少しずつ町から引き離されて行く。ジェイが戦場をコントロールしているのだ。

 その間、ジェイは隙を見て何度も斬り付けているのだが、元々自分の指先を切り離して攻撃してくるような肉体なのだ。一部を斬ったところで、まったくダメージは無かった。

「厄介な……!」

 思わず呟いてしまうジェイ。

 魔神をも滅ぼす力を持つ、『暴虐の魔王』の魔法であったという『刀』。強力無比であるが、こうして発動している間は、振るわなくても体内魔素を消耗し続ける。

 傍から見ると魔神の攻撃は当たらず、ジェイが一方的に攻撃し続けているように見えるが、それはジェイの体内魔素が尽きるまでの話。

 魔神の力の象徴である『第三の眼』それを探して背中だけではなく各方向から攻撃を繰り返している。しかし、それらしい手応えは無い。

 実のところ、追い詰められているのはジェイの方であった。


 一体どうすれば、ジェイは攻防を続けながら考えを巡らせる。

 魔神というのは魔法の極みだ。ロン・ティールの攻防は何かしらの魔法で行われている。

 だが、魔神となる前に魔法が使えたというのは考えにくい。

 彼の性格からして、もし使えたならば獅堂と戦った時に使っていただろう。フライヤとのつながりを示す証拠を隠滅しに来たというのに、手を抜くという事はあるまい。

 つまりロン・ティールは、魔神となる際に初めて魔法を覚えた。いや、順番が逆だ。正確には、その初めて覚えたひとつの、まだ名前も無いであろう魔法で魔神となったのだ。

 それは一体どのような魔法なのか。それが分かれば「斬ってもダメージが無い」からくりが分かるかも知れない。

 斬っても再生する煙のような身体。それで構成された拳で門を破壊していたので、煙そのものという訳ではない。

 自ら指を切り離せるのだから、斬られる瞬間に自ら切断している可能性も考えられるが。

「ちょこまかとォッ!!」

 爆発音と共に再び放たれる灼熱の噴煙。

 すぐに動ける体勢だったジェイは、今度はロン・ティールの頭上を飛び越えてそれを回避した。即座に背後から斬り付けるのも忘れない。

 手応えアリ。しかし、やはりダメージを受けている様子は無い。ジェイは即座に距離を取り、町を背にしないよう動いた。

「クッ! どこだ!?」

 焦り混じりの声。キョロキョロと敵の姿を探すその様子に、ジェイは怪訝そうな顔になる。

 目で探している。振り返る際にも、視線から動いている。

 人間であった時のクセなのかとも思ったが、どうやら違うようだ。ダミーの頭部にも視覚が有るらしい。そして、視覚以外で敵を察知する事はできないようだ。

 それならば、かえって戦いやすい。死角に回り込むのは、ジェイの得意技だ。

 もっとも、ダメージを与えられない問題は変わらぬままだが。


「……となると、やっぱり……」

 もうひとつ、ジェイには引っ掛かるものがあった。

 それは胸の不死鳥模様から噴煙を放つ際の爆発音だ。先程も鳴り響いていたが、一体何が爆発しているというのか。

 そもそもロン・ティールは煙のような身体だが、火は無い。火の無い所に煙が立っている。

 そこに隠された『第三の眼』の謎を解く鍵があるかも知れない。

「あんまりやらないんだけどな……」

 確かめるためにも、正面から攻めなければなるまい。

 これまで以上にスピードが重要となる。ジェイは、ロン・ティールの懐に飛び込むために、足下で『影刃八法』を発動させるのだった。

 2024年最初の更新となります。


 今年も『魔神殺しの風騎委員 世界平和は業務に入りますか? ~勇者と魔王の魂を受け継いだ俺ですが、そこまで責任持てません~』をよろしくお願いいたします。

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