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第196話 陰謀一問一答

 避難はジェイと僧兵が周囲を警戒しながら先導し、すぐ後を子供達を連れたフライヤが続く。そして明日香と侍女は、後方と子供が遅れてはぐれないかを警戒しながらついて来ていた。

 明日香達を後ろに回したのはジェイの提案だった。眉我に心酔されていたらしいフライヤ。その事実を警戒しているのだ。

 まだこの辺りまで戦火は及んでいないようで、子供達は皆で遊びに行くような緩い雰囲気だ。

 しかし先導する二人は、そうも言っていられない。内都の中では今も戦闘が行われており、いつこの辺りまで飛び火するか分からないのだから。

 何よりお互いに同行者を警戒しているというのもあるだろう。

 僧兵から警戒されている事に気付いたジェイは、やはり彼が獅堂と戦ったハルバードの大男だと確信を抱いていた。

 そして僧兵もまた、自分が疑われている事に気付いていた。それだけでなく、フライヤも疑われているだろうとも。


 緊張感を漂わせているが、周囲の警戒には手を抜かない二人。子供の安全の確保という目的は共通しているからだろう。

「ところで、孤児院みたいな所は避難場所に指定されるはずだが……」

 少し前を進んでいたジェイは、塀の上から僧兵に尋ねた。

 視線は前を向いたまま、周囲の様子を探りつつである。

「……指定はされているぞ。安全かどうかはともかくな」

「どういう事だ?」

「建物自体にガタが来ていてな……」

 皆までは言わなかったが、ジェイはその一言で察する事ができた。

 フライヤはオリヴァーから借金をしていた。孤児院の運営資金も借りなければいけないような経済状況。建物を修繕する余裕も無かったのだろう。

「王家に申請はしていたが、な」

 吐き捨てるように言う僧兵。それで支援なりを引き出せていたら、そもそも借金などしていないだろう。つまりはそういう事だ。

「何故、卿は王家についている? 地方の同朋と共に立ち上がるべきではないのか?」

 次は僧兵の方から尋ねてきた。視線はジェイの反対側を向けて、警戒を怠らないまま。

「際どいな」

 ジェイも、視線を僧兵に向ける事無く答えた。

「ここを逃すと、聞けそうにないのでな」

 おそらく本音なのだろう。表情は見えないが、どことなく笑っていそうな声だ。

 ジェイとしては答える義理も無い質問であったが、ジェイが間違っていると言いたげな態度に、あえて答えてみる事にした。

「俺がこれまで国境を守り切る事ができたのは、東天の援軍あっての事だ」

 東天騎士団は王家直属の騎士団。れっきとした中央側である。

「『アーマガルトの守護者』らしからぬ言葉だな」

「お前は、俺以上に俺の事を知っているとでも言うつもりか?」

 そう切り返されると、僧兵はそれ以上何も言う事ができなかった。

「個の強さだけで国境全部を守れたら苦労はしない」

 それは龍門将軍でも無理だろう。

「だ、だがっ! 彼等の言い分だって……!」

「それを言える安全を、誰が守っているかだ」

 アーマガルト軍と、東天騎士団を始めとする援軍達である。

 ジェイは踵を返し、僧兵の前に立つ。そして見上げるように僧兵の目を覗き込んだ。

「幕府の方だって和平でまとまってる訳じゃない。いつまた攻めてくるか分からないんだ」

 ポーラ島に幕府の隠密部隊が潜入していた事は記憶に新しい。

「そう簡単に一枚岩にはなれないのは、この国を見ていたら分かるだろ?」

「それは……」

 現状が、今の内都の混乱が、それを証明している。自分を見据えるその視線に、僧兵は反論する事ができなかった。


「こちらもひとつ確認しておきたいんだが……」

 ジェイが問い掛ける。

「お前……町を出ようとしてないか?」

 静かな、しかし圧を感じさせる声。

 そう、ジェイはそこまで内都に詳しい訳ではないが、それでも僧兵の先導が町の外に向かっている事は理解できた。『風の丘』方面に向かっている。

 まるで蛇に睨まれた蛙。僧兵の頬を冷や汗がつたう。

 彼は『アーマガルトの守護者』を虚名と考えていた訳ではない。しかし、心のどこかでまだ若僧と甘く見てはいなかっただろうか。

 だが、ここで引き下がるぐらいならば……と僧兵は自らを奮い立たせて返答する。

「もはやこの町に……安全な場所など無い!」

 そう、最終目標が王家の打倒なのだ。騎士の住宅街だけで終わらせるつもりは無い。

 この場で戦わなければならないか。薙刀を握る手に力が入る。

「……そうか、急ぐぞ」

 しかし、ジェイはそれ以上会話を続ける事無く、僧兵に背を向けて歩き出した。

 呆気にとられる僧兵。ジェイが背を向けている。このチャンスを逃さずに斬るべきか。

「ひとつ、忠告しておく」

 そう考えた瞬間、ジェイは背を向けたまま声を掛けてきた。僧兵はビクッと肩を震わせる。

「あまり子供を巻き込むな。加減はできないからな」

「…………肝に銘じておこう」

 その背中に「本気」を感じながら、僧兵は返事を絞り出した。


 実のところ、僧兵にはある企みがあった。

 警戒しつつもジェイ達を同行させていたのは、町の外で仲間と合流して数で押さえられないかと考えていたからだ。ジェイは難しいとしても、明日香を人質に取ればいけるのではと。

 だが、今ではそんな考えは霧散していた。目の前の少年は、数程度ではどうにもならないと。

 とにかく今は、フライヤに被害が及ぶのだけは防がねばならない。

「……で、この方向『風の丘』でいいんだな?」

「あ、ああ……」

「じゃあ、急ごう」

 先導役を交代して歩き出すジェイ。僧兵は方向が間違っていない事を確認しながら、その後に続くのだった。


 なお、彼は知らない。合流するはずの味方――アルフィルク拉致のために動いていた別動隊は、既に目の前の少年によって『絶兎』を除いて壊滅している事を。

 そういう意味では、ここで数を押さえる事を諦めていたのは。不幸中の幸いだったのかも知れない……。

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